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予防教育で自殺率が低下
米国視察調査の結果報告

H22年度 児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議

 内閣府が6月に発表した平成23年版「自殺対策白書」によると、平成9年から13年連続で年間自殺者数が3万人を超えており、平成22年の自殺者数(確定値)は、男性2万2283人、女性9407人となっている。未成年の自殺が全体に占める割合は2%以下と比較的小さいものの、青少年の健全な心身の発達が、日本の将来にとって重要な課題となることから、文部科学省初等中等教育局児童生徒課は、平成21年7月から「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」を開催しており、先日、平成22年度の「審議のまとめ」が公表された。

  「審議のまとめ」では、「米国における子どもに対する自殺予防教育の現況調査」のため、2010年11月15日から19日まで、アメリカのマサチューセッツ州とメイン州を訪問した結果が報告された。今回の訪問先は、マサチューセッツ州公衆衛生局、スクリーニング・フォー・メンタルヘルス、バーンズテイブル高校、ダンヴァーズ高校、メイン州青少年自殺予防計画。

  アメリカの自殺率は人口10万人あたり10〜11人で推移しており、日本の現在の自殺率の2分の1以下。先進国首脳会議G8参加国では、日本はロシアに次いで2番目の自殺率の高さなのに対し、アメリカはイタリア、イギリスに次ぐ低さとなっている。

  1950年代から1980年代にかけて、アメリカ全体の自殺率が低下したのと対照的に、24歳以下の若年層の自殺率が上昇し、その対策として自殺予防教育が行われるようになった。今回は、アメリカの中でも、特に自殺予防教育が進んでいるとの理由から、マサチューセッツ州とメイン州が視察対象となった。

自殺予防教育実施に 地域の理解が後押し マサチューセッツ州 公衆衛生局

  マサチューセッツ州公衆衛生局は、毎年5月に自殺予防教育の担当者の技能を維持するための研修会を開催している。研修会で取り上げられるのは、自殺の危険の評価、ゲートキーパー訓練、新知見に関する情報など。同州では、青少年の自殺の問題の深刻さを多くの人が理解していることや、高度の救急医療体制や精神保健システムが整備されていることが、自殺予防教育の実施につながっている。

自殺について話して 正しい知識を与える NPOスクリーニング・ フォー・メンタルヘルス

  NPOのスクリーニング・フォー・メンタルヘルス(SFMH)は、自殺予防プログラムなどを開発。視察会のメンバーも、SFMHが開発したSOS研修を体験した。

  SOS研修では、自殺未遂は既遂の10数倍も存在することなど、若者の自殺の深刻な実態を提示し、受講者に事態の深刻さを理解してもらう。また、自殺につながりかねない精神疾患の症状について解説する。

  SFMHの関係者によると、子どもと自殺について話すのは危険だと考えるのは、大人の不安を投影したもので、子どもは自殺に関して誤った情報を得ているので、むしろ正しい知識を与える必要があるという。

自殺予防教育の形は学校によって異なる バーンズテイブル高校 ダンヴァーズ高校

  バーンズテイブル高校とダンヴァーズ高校では、学校で自殺予防教育に取り組んでいるスタッフから意見を聞いた。

  バーンズテイブル高校は、その地域で若者の自殺が相次いだことを受け、2009年から自殺予防プログラムを導入。2名のスクールカウンセラーが約1か月かけて各クラスを訪問。担任教師と共にクラス単位で自殺予防教育を行っている。

一方、ダンヴァーズ高校の場合は、深刻な背景はなかったが、自殺予防教育は健康教育の中に明確に位置づけられており、授業の一環として健康教育の教師が行う。

4つのセッションで助ける力を身につけ メイン州青少年 自殺予防計画

  メイン州では、自殺予防教育に関わる研究者との意見交換が行われた。

  メイン州の自殺予防プログラムで、生徒を対象としたカリキュラムは、4つのセッションからなる。セッション1では、自殺の基本的事実や原因について知る。セッション2では、自殺の危険を知らせるサインについて知り、自殺について尋ねる時に使う言葉について学ぶ。セッション3では、助けを求めている友達の特徴を知り、自殺の危険の高い友達への対応の仕方を学ぶ。セッション4では、ロールプレイを通じて、困っている友達を助ける力を身に付け、どこでどのような援助を求められるのかをリストにしたカードを作る。

自殺予防教育・日本の課題

アメリカでの視察結果を参考に、日本で生徒を対象とした自殺予防教育を実施する際の課題が挙げられた。

■自殺の問題を直接的に取り扱うことへの抵抗

  現時点では、児童生徒に対して自殺を直接的に取り扱った授業を実施することについて、学校現場や保護者からの抵抗が強い。自殺を話題にすることで、ハイリスクの児童生徒の自殺の危険が高まるのではないかという怖れからである。しかし、SFMHのスタッフが語ったように、児童生徒の自殺に関する誤った情報を正し、適切な情報を提供することの重要性を研修で伝えることが抵抗の除去につながる。

■児童生徒に対する説明
授業実施に際しては、事前に自殺予防教育の目的と概要を生徒に伝える。自殺の危険の高い生徒などがいることも想定して、授業に関して気になることや参加することに懸念のある場合は申し出るように伝え、参加を強制しない。
■保護者への説明と同意
学級懇談会や学年懇談会等で自殺予防教育の目的と概要を伝えると共に、書面でも同様の趣旨を伝え、できるだけ全保護者に伝わるように努める。保護者対象研修会を開き、児童生徒の自殺予防のために学校と保護者との協力関係を築いていくことが重要となる。

■プログラム・教材開発及び実施方法の検討
日本でも一部で自殺予防教育が行われているが、中には自殺を断罪したり、ことさらに生の尊厳を強調する内容もあり、標準的な自殺予防プログラムの開発が急務となる。実施する場合は、恐怖感をあおる教育方法は逆効果となる。また、自殺予防の要点をまとめたDVDやパワーポイントなど、自殺予防教育の教材が求められる。

【2011年6月20日号】

教育家庭新聞