科学的な理解が大切

東京都立大学 茂木俊彦教授

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 障害者本人が自分の体験や感情などについてまとめた「総合的な学習に最適 障害を理解しよう」(小峰書店)が出版された。障害者たちの苦しい過去にも触れながら、障害について詳しく解説もされており、「耳の不自由な人たち」「目の不自由な人たち」「学習の障害がある人たち」「車いすの人たち」と4冊の本で構成されるシリーズものである。
 この本の監訳を行った茂木俊彦氏(東京都立大学教授)に、障害者への理解について、またこれからの総合的な学習における福祉教育のあり方などの話を伺った。

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 黒人や女性の差別問題は比較的早くに改善されてきたものの、障害者への意識は世界的に低く、1975年の障害者権利宣言をきっかけとして、国際障害者年(81年)に障害者の権利が初めて確認され、健常者への理解へ向け啓蒙活動が活発になりました。12月9日が障害者の日となったのも80年代以降のことです。このようにここ20年において、障害者の問題は大きな課題として注目されるようになり、今後21世紀には、地域社会の一員としてごくあたりまえな存在となっていくと思われます。スェーデンなど福祉の先進国と比べると、日本は障害者問題については遅れているといえます。まず子どもたちには、社会には多くの種類の障害者が生きていることを知ってもらい、これからの社会を作っていってほしいと思います。
 
障害児との関わり
 現在の学校教育の中では、交流教育という形で健常者と障害者の交わりはありますが、障害の重い子どもの交流はほとんど行われていません。また聾学校、盲学校、養護学校へ行ったり、逆に障害児たちが普通学級を訪問するなどして触れ合うといった試みもいくつかの学校で行われていますが、なかなか全ての学校で実施するのは難しいのが現状です。
 福祉教育というと、奉仕活動の一環と思われがちですが、総合的な学習の中で福祉について取り上げる場合、哀れみの感情を抱かせるのではなく、障害者のすばらしい能力を学び取る教育をしてほしいと思います。それにはまず、先生方が障害者問題について科学的理解をすることが求められてきます。障害者に対して単なる同情心だけでは、問題は前進しません。「なぜその障害が起きるのか」というようなことを科学的に理解するほど、障害者に対してのやさしさが生まれてきます。障害はいろいろな原因があることを知ることで、障害者を手伝おうという気持ちが生まれ、優しく接することができるようになるのです。子どもたちにはできるだけ感情に訴えるのではなく、障害に対する科学的な理解を勧めることが大切です。高齢者に対しても同様に、ある程度痴呆に関する科学的知識を持つことで、ボランティア精神が自然と生まれてくるのです。義務感で行っていたり、「かわいそうだ」という感情だけでは飽きてしまったり、時にはいらついてしまうこともあるでしょう。
 
科学的理解と触れ合い
 理想的な形としては、直接的なふれあいと、科学的な学習を合わせて行ってほしいと思います。この人はなぜこのような状態になっているのかということを理解し、実際に触れ合うことで感情が生まれる。このような経験と学習の両方が求められるのであり、直接的な触れ合いが難しければ、せめて本だけででも学習をしてほしいと思います。今回出版された「障害を理解しよう」は障害者本人が書いているため、彼らの気持ちを理解することもでき、障害は人によって様々であることなども知ることができます。イギリスの本を翻訳したものですが、日本の実態に合わせて書き直されている部分もあります。小学校中学年以上なら一人で読むこともできますが、この本をもとにクラス全員でディスカッションをしたり、さらに障害者を交えて話し合う材料になればいいと思っています。
(教育家庭新聞2000年5月20日号)