教師にも早期発見の努力義務が
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教師は児童虐待を早期発見するための努力を−−急増している保護者による児童虐待に歯止めをかけ、早期に保護することを目的とした、議員立法による「児童虐待防止法」がさきごろ参議院本会議で全会一致で可決、成立した。これは児童虐待を1身体に外傷が生じる恐れのある暴行2わいせつな行為をしたり、させたりする3心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長時間の放置など、保護者としての監護を著しく怠る4著しい心理的外傷を与える言動−−などと定義。その上で「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない」と・虐待禁止・を初めて明確に法律で打ち出している。また教師や医師など職業を通じて虐待を発見しやすい立場にある者に対して、再起発見の努力義務を求めており、この職務上知りえた情報についても「守秘義務違反などの刑事責任は問わない」という規定も盛り込んでいる。
今回成立した「児童虐待防止法」では、「親権の一時停止」を設けているのが大きな特徴。これまで児童相談所長の権限で、虐待を受けた児童を一時保護しても、保護者が強引に引き取るケースが後を絶たず、十分な保護ができなかったのが実情。中には引き取り後に虐待が再発して死亡するケースもあった。このため保護している児童に親が面会したり電話したりすることを、児童相談所長が制限することを認め、民法上の「親権の一時停止」と同じ行為ができるように規定した。これで親が民法の「親権」を盾に引き取りを求めた場合でも、虐待の再発が予想される場合は強く拒否することが可能となった。
さらには家の中という『密室』で虐待が疑われるケースでは、都道府県知事に対して、児童相談所職員に立ち入り調査させることができる権限も新たに付与した。立ち入り調査を行う際には、親が拒否する場合は警察官の援助を求めることができることも明記し、虐待が明らかなケースで親が拒否した場合には、警察官が「警察官職務執行法」に基づいて、家のカギを壊して相談所職員が中に入れるようにしている。これまでの「児童福祉法」では立ち入り調査は認められているものの一時保護に親が応じない場合などに限られていて、虐待が疑われていても強制できなかった。児童相談所による立ち入り調査についても、施設入所の必要性が強いケースに限られていて、従来わずか13件しかなかった。
また教師や医師など仕事がら虐待を見つけやすい立場の者に対して、早期発見の努力義務を課している。発見した場合は、児童相談所など関連機関への通告義務をためらわないように、職務上知りえた情報でも守秘義務違反などの刑事責任を問わない規定も盛り込んでいる。
警察庁の統計では、児童虐待で昨年1年間に45人が死亡。厚生省の調査でも虐待に関する児童相談所への相談件数は、平成10年には6932件とその8年前の平成2年の6・3倍と児童虐待は急増していた。同法は年内に施行される。
一方こうした国レベルの対応以外に、各自治体でも児童虐待防止に力を入れている。各自治体の関連施策をみると−−。
【東京都】
夫婦間の暴力や児童虐待など家庭内暴力の問題を総合的に把握し、検討するための「家庭等における暴力問題対策連絡会議」を設置して、今年度末をめどに取り組み方針をまとめる。児童虐待では幼児期に虐待を受けた子どもが成長して自分が親になってから、自分の子どもを虐待する『暴力の連鎖』についても調査する。
【川崎市】
6月1日に、夜間や休日など関連施設が休みの日でも、虐待を受けた子どもを一時的に保護したり、市民などからの通報や電話相談に応じる新たな施設「児童虐待防止センター」を開設した。24時間体制で児童虐待を監視するもので、全国初の試み。
【石川県】
児童虐待の予防や早期対応を目指した「子ども虐待防止対策強化事業」を推進する。これまでに保健所職員や教員、保育士などを対象に人材育成研修を実施して「虐待防止推進員」として222人を登録してきたが、今年度は人員を増やすと同時に、モデル市を指定してこの推進員と保健、医療、福祉、教育、警察などの各関連機関が参加する「市町村子ども虐待防止ネットワーク」を構築。来年度以降は拡大し、県内各市町村にも設置する。予防の一環として「児童虐待防止フォーラム」も開催する。
【鳥取県】
千葉県の「恩寵園」で問題となった、児童福祉施設での虐待を未然に防ぐ目的で、この10月をめどに第三者機関の「こどもの人権委員会」を設置する。県内の児童福祉施設の定期的な立ち入り検査を行う。また児童相談所とも連携して、児童虐待の情報交換も行う。
今回の「児童虐待防止法」成立によって、地方自治体では新たな取り組みを模索しており、今後さまざまな施策が打ち出されてくる。
(教育家庭新聞2000年6月10日号)
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