兼職発令養護教諭による保健の授業実践

【香川県坂出市立坂出中学校】島根県益田市立小野中学校【神奈川・横浜市立本郷中学校】【TOPページに戻る】



  教育職員免許法の一部改正により平成10年7月1日から、3年以上勤務する養護教諭が、兼職発令を受けて保健の授業を教諭または講師という立場で行うことができるようになった。昨年度の文部省調査(平成12年3月31日時点)により、全国で約360人の養護教諭が兼職発令を受けて授業を行っていることがわかった。養護教諭が授業に出るということは、その時間の保健室の対応はどうするかということが大きな問題となってくる。

 法律の改正に伴った文部省の通達では、「保健室の本来の機能がおろそかになることのないように」と留意点が書かれている。そこで、今回の大会で兼職発令養護教諭による公開授業を行う香川県坂出市立坂出中学校と、同じく同大会で発表する島根県益田市立小野中学校の実践、さらに以前から養護教諭の授業参画に積極的に取り組んでいる横浜市立本郷中学校の実践を取材した。


指導の成果把握し、納得の授業と達成感
【香川県坂出市立坂出中学校】大林八重子先生



 大会2日目の第1部会で兼職発令養護教諭による公開授業を行う香川県坂出市立坂出中学校。現在、同市内で唯一この発令を受けている大林八重子先生が、傷害の防止の単元〈応急手当〉の授業を行うことになっている。
 発令を受ける以前は、ティームティーチングで何クラスかの授業に参画していた。「ティームティーチングでの参画では、専門的なことを少し話して終りというゲストティーチャー的存在なので、本当の授業をしたという感じがありません。しかし6時間というまとまった時間を担当すると、導入からまとめまでを計画立てて指導することができるため、6時間という経過の中で、生徒達の反応や変化をとらえる事ができ、指導の成果を把握することができます」と大林先生は話す。生徒たち一人ひとりの評価については、6時間分の様子を教科担任に伝え、評価を参考に活用してもらっている。「1時間だけの授業では、話したかったけど話す時間が足りなかったり、逆に生徒が聞きたかったけど聞けなかったということがよくありましたが、6時間を担当することで、納得のできる授業が行え、達成感を感じることができます」。生徒達も、「応急手当」の単元は大林先生の担当であるからと、わからないところは後で保健室を訪ねて質問にくることもあるという。

〈保健室の対応〉
  授業をする際の保健室の対応については、出張で留守にする場合と同じ体制をとっており、保健室に用事がある生徒は職員室で対応することになっている。以前は、保健室を留守にする際は他の教員に保健室にいてもらうこともしたというが、1時間だけなら職員室でも十分対応できるとのことで現在の体制になったという。「ずっと以前から、保健室を留守にする場合の体制づくりは教職員間の中でできていましたので、特に問題はありませんでした」と大林先生。6時間の授業を担当するといっても、授業は週に1時間ずつ行われるため、特別に問題はないということだ。
 今後の実践について尋ねると、やはり全クラスで授業を行うことは時間的にも無理があるため、当面は1クラスの中で限られた単元の授業を行っていくとのこと。「より多くのクラスで本格的に授業を行っていくには、やはり学校に養護教諭を複数配置していただくことが理想的だと思います」と大林先生。

現在、同校の生徒数は570人、学級数は17クラス(普通学級15・障害児学級2)。少子化に伴 い、学級数も年々減少傾向にあり、今年も昨年に比べ1クラス減という状況。30学級という複数配置の基準にはおよそ届かないのが現状であるという。
  全クラスで授業を行うということは難しい現状であるが、1クラスの1単元を担当することで確実に指導することの充実感や手応えを感じているとのことだ。

学校保健全体を据えられるように
【島根県益田市立小野中学校】山田幸恵先生



 昨年度から兼職発令を受けて授業を行っている島根県益田市立小野中学校の山田幸恵先生。今大会の第1部会で提案者として実践発表を行うことになっている。益田市も、坂出市と同様、兼職発令を受けている養護教諭はまだ山田先生一人のみという状況である。

〈授業実践〉
 どの単元をどのくらい受けもつかについては、保健体育の教員と相談。養護教諭の専門性が生かせ、また、適切な時間であることとし、担任する学年は3年生に限定、「傷害の防止」と「病気の予防」の単元とした。保健の知識や記憶としてとどめるのではなく、学習を通して得た知識が実際の生活の中で生かされることをねらいとして、授業を行っている。
 昨年度、そして今年度と授業を実際に行ってみて、先生自身ものすごいメリットを感じていると山田先生は話す。「兼職発令を受けた当初は、保健室が疎かになってしまうのではという心配もありましたが、実際に授業をやってみて、自分自身、学校保健全体を捉えられるようになりました」。
 保健の学習の中で基礎基本を抑え、それを保健指導につなげることができるようになった。「保健学習と保健指導の両方に関わっていれば、子どもたちの健康課題がより見えやすくなります」と山田先生は話す。
 来年度も授業を担当するかどうかは今のところ未定とのこと。しかし、今後もより一層・生きる力・に結びつく保健学習を行っていきたいと強く語る。

〈保健室の対応〉
 同校では、各学年とも担任が2名制のため、どちらかの担任が必ず職員室にいる。さらに職員室と保健室が隣接しているため、山田先生が授業に出ている時には、職員室にいる先生が、保健室に来た子どもたちの対応をするという体制が取れているという。
 また、文部省指定のスクールカウンセラーも設置されているので、心の面からホローの必要な生徒については、スクールカウンセラー、学級担任らとのコンサルテーションを行いながら対応しており、今のところ問題はないとのこと。

選択保健を一年間担当
【神奈川・横浜市立本郷中学校】



 市内で80名もの養護教諭が兼職発令を受けて授業を行っている横浜市は、以前より養護教諭による保健指導やティームティーチングを積極的に実施している。
 鎌倉市との境に位置する市立本郷中学校は、総合的な学習の時間の中で、自己表現を通して人間関係作りを行う「ピアサポート」の授業をいち早く導入し、全国にその実践が取り上げられるなど、総合的な学習に関して先進的な学校である。生徒数が634人。普通学級17クラスのほかに、特殊学級が4クラスあり、昨年まで2人の養護教諭が配置されていた。

〈複数配置で対応〉
 養護教諭の野村y子先生は昨年度から兼職発令を受け、1年生保健と3年生選択保健の授業を行っている。複数配置により授業に出ても特別に支障はなく、条件的にとても恵まれていたとのこと。また、校長以下、他の教諭も養護教諭が授業を行うことに協力的な姿勢であったことも、やりやすい環境であったという。「中学校は思春期のため、小学校に比べると生徒の来室も多く、保健室を空けることは難しい状況です。本校の場合は、私が授業に出ても、もう1人の先生が保健室にいてくれたので、兼職発令を受ける条件が揃っていたと言えます」と野村先生。単にケガや具合が悪いからと来室するだけでなく、心を癒しに来る生徒も多いとのこと。取材した日も、休み時間ごとに何人もの生徒たちが保健室を訪れていた。同校の保健室は広々とした居心地の良い空間で、棚には性教育に関する本がたくさん並んでいる。「保健室が健康学習室となってもらえればいいと思っています」と野村先生は話す。

〈授業実践〉
 昨年度、野村先生は2つの授業に取り組んだ。1つは、3年生選択保健の授業を1年間担当。11人の生徒が野村先生の授業を受けた。フリートーキングやブレーンストーミングの授業を中心に、生徒たちに自分たちの健康課題を見つけさせ、個人、またはグループで調べ学習を実施。遺伝子組み替え食品や環境ホルモン、性の問題など多くの課題が上げられ、ところどころで、基礎的な知識を教える授業を行った。生徒たちは、自分で見つけた課題であるために、実に積極的に取り組んだとのこと。年間を通して授業を行えたことで、先生自身もその成果を実感したという。2つめは、1年生の単元「心身の機能の発達と心の健康」の授業を2時間ずつ6クラスで実施。第二次性徴の分野を担当し、自分の心身を見つめさせ、自分を主人公にして授業を行った。特に心の部分では、交流分析のエゴグラムを使って、自分の心に気づく内容を取り入れ、自己成長を図った。
 「保健室では日々の生活を通して生徒の成長の課題や、友人関係、性についての悩みなど生徒自身が抱える健康問題が見えてきます。養護教諭が授業を行うメリットは、保健室で見えてきた生徒たちの生きた健康課題を生徒たちに気づかせることができるということだと思います」と野村先生は強く語った。
  今年度は養護教諭は野村先生が1人となったため、選択保健の授業は行っていない。生徒達からの要望も多くあったとのことだが、やはり時間的に厳しいことが現状であり、今年は1年生6クラスの授業を2時間ずつ担当する予定。野村先生が授業している間は、教科担任の先生が保健室に在室するか、または保健室の近くの教室で授業を行うなど、現在検討中であるという。また、横浜市独自の保健室登校子ども支援事業という制度を受け、養護教諭経験者が週に2日程度来校するので、その時間を利用して教材の研究や準備をするということもできるので、大変助かっているという。