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INTERVIEW
ドラえもんの脚本を担当
小説家
真保 裕一 さん

努力から見つけ出した現在の幸福 
          ミステリー作家の工夫を盛り込む

真保 裕一さん 2000年、冬のダムを舞台に主人公織田裕二がテロリストに立ち向かう映画「ホワイトアウト」が公開された。その原作者が、今度は3月10日(土)に公開されるアニメ映画、しかも名作「ドラえもん」の脚本を担当している。そこには子どもの頃からマンガとアニメをこよなく愛する、自称オタク≠ナある真保さんの「ドラえもん」へ対する想いが込められている。

 「ドラえもんは、数十分の番組の中にこんなにもスケールが大きく、しっかりとした物語があり子どもたちが楽しめる素晴らしい作品。私は、子どもたちと密接につながっているアニメを作りたいと思っていましたが、それがドラえもんでした」。専門学校を卒業後、ドラえもんのように夢あふれる映画を作りたいと、制作会社であるシンエイ動画の採用試験を受けた。

 その時は不採用だったが、数年間アニメ業界を渡り歩き、念願叶って20代半ば同社で仕事をすることになったが、在籍中はドラえもんにかかわることはなかった。「アニメは団体作業で、自分一人で好きなようにできるものではなく、力もなかったので、そのストレスが溜まっていたのでしょうね」と、一から十まで一人でできる小説を書き始めた。

 90年に江戸川乱歩賞に応募したが、最終選考で落選。翌年も応募したいと思い、驚いたことに仕事を減らして欲しいと会社に頼んだ。「本当に減らしてくれたんですよ。物づくりの考え方があるのでしょうね。理解がある会社です」と笑うものの、その甲斐あって91年に江戸川乱歩賞を受賞。今でも、シンエイ動画の野球チームに参加するなど交流が深い。

 そういった長い関係もあり、今回脚本を担当するに至った。すでにファンが多い作品なので重圧も感じだが、現実世界には考えられない「未来や過去」を描く懐の深い「ドラえもん」の世界観には、楽しめるものがあるとわかっていた。「小さな子どもたちだけではなく、中高生や大人にも楽しんでもらえるよう工夫しました。ミステリー作家が入ることで、話が膨らんだらいいなという製作者の気持ちがあったのでしょうね」と現在は作品の完成を誰よりも心待ちにしている。

 アニメでも小説の話でも、「好きだったから」という言葉を何度も口にする真保さん。「好きなことが見つからないことを恥ずかしいことのように言う人もいますが、それを仕事にして続けていくことは実はとても大変なことで、見つけられなくて当然です」と、まずはそれを見つけるために、社会を見る目などを養う力をつけることが大切だという。

 「好きなことを仕事にしている自分は、幸福だと思いますが、それなりの努力をしたから見つかった幸福です」とエンドレスに執筆活動を行っている。

 真保裕一(しんぽ ゆういち)=1961年東京都出身。アニメーションディレクターを経て、91年「連鎖」(講談社)で第37回江戸川乱歩賞、95年「ホワイトアウト」(新潮社)で第17回吉川英治文学新人賞など数々の賞を受賞。3月には、脚本を担当した「映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険〜7人の魔法使い〜」(原作/藤子・F・不二雄 配給/東宝)が公開される。


【2007年1月20日号】