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外的コントロール心理学の排除で
不登校・いじめが減り成績も向上

「選択理論」を世界に

ウイリアム・グラッサー氏 昨年末来日したウイリアム・グラッサー博士は、滞在中、自身が提唱する「選択理論心理学」を用いて、教育関係者などへ「モチベーションフォーラム」を幅広く開催した。

  グラッサー博士は、大学在学中に心理学を学んでいたが、医学部の学部長の勧めにより、精神科へと進み精神科医となった。そして「選択理論」という考えに至った。それは「基本的欲求」を満たす、「上質世界」を作り上げる、人の行動は「全行動」である「創造性」を作り上げるという4つの考えを中心に構成される。

  「これらの4パートを通じて教えたいことは私はあなたがしたくないことをさせる∞私は何が正しいかを知っている≠ニいった外的コントロール心理学≠排除し、より良い人間関係をつくることです」。人間の多くは外的コントロール心理学≠使って行動しているが、これは、問題行動を起こす人に対しては全く意味をなさない。

  このような理論を基に、グラッサー博士は、アメリカの公立学校に「グラッサー・クオリティ・スクール」を展開し、現在200校以上に広がっている。そこでは、批判する、責める、文句をいう、ガミガミいう、脅す、罰する、ほうびでつる、という7つの致命的習慣は行われず「不登校もいじめもなく、子どもたちは夏休みに家にいるよりも学校に行く方が良いと言い出したり、勉強においては1学年先を進むようになる学校が多いのです」。

  「選択理論」は脳の働きを基盤にしているため、どの文化においても広がる要素を持っている。日本では、これを取り入れたプログラムを実施しているアチーブメント鰍ェ「STARS」という家庭教師プログラムを実施し、勉強のためにまず家庭教師との人間関係を重視する指導方法を確立し、学力向上ややる気アップに一役かっている。

  また、来日中は、自治体を中心に「選択理論」への取り組みが行われている愛媛県伊予市を訪れ、同市立三瓶中学校で講演会を行った。すでに人口の半分ほどが「選択理論」にふれている市民たちは「人々の関係が良く、互いに支援しあう環境ができていることを強く感じました」とコミュニティとしての取り組みの大切さを再確認した。

  アメリカでは、子どもたちが「選択理論」を学び、やがて大人になることでそれがコミュニティに広がっている。「全てのコミュニティが知っていたら、国そのものが変わるかもしれません」。これを取り入れている刑務所の受刑者の再犯率は低下しているという。コミュニティに戻り、良い人間関係を築くことができるようになるからだ。

  「ひとが不幸だと感じるのは、人間関係が満たされていないことから来ることであり、よいコミュニケーションや関わりを実践することで人生は幸せなものになるであろう」。シンプルなこの考えが、長年の実践に結びついているのだ。

 ウイリアム・グラッサー=1925年米国オハイオ州出身。ウエスタン・ケース・リザーブ大学医学部で博士号を取得。自ら提唱した「選択理論」(日本ではアチーブメント出版から刊行)は世界中に影響を与え、その他多くの著作を発表。アメリカではグラッサー氏の構想を生かした「クオリティ・スクール」を目指す学校が約200校存在し、その教育手法が現在注目されている。


【2008年1月19日号】