教育家庭新聞健康号>人・仕事・人生

心身を癒す「米」中心の和食
文化論で食料自給率を考える

東京農業大学 小泉武夫

食糧自給率45%を目指して

 小泉武夫 さん

 国産農産物の消費拡大等を通じて食料自給率の向上を図るため、食料自給率向上に向けた国民運動「FOOD ACTION NIPPON」が、10月にスタートした。これは、日本の食料自給率(カロリーベース)が40%で、食料の多くを外国に依存している状況を国民が認識して、国産農産物を選択し2015年度までに45%の食料自給率を目指すことが目標だ。

 その推進本部の「食料自給率向上推進委員会」の座長、東京農業大学の小泉武夫教授は、発酵学の教授としてだけではなく食文化研究の第一人者としても名高い。食文化について研究するなかで「食と民族」について研究してきた小泉教授は、世界的な食料不足や食の安全性などの問題の解決には、「最終的に自分たちの食料を自分たちで作る必要性があります」と語る。

 小泉教授は「農業を活性化するための魅力ある農業づくり」にも積極的に関わり、北海道、兵庫県、大分県など日本各地で活躍している。魅力ある農業づくりには農家自身が意欲を持つことが重要であり、大分県では農家の大幅な収入増により若い後継者も育っているという。来年3月には東京農業大学を退職するが、さらに全国で農業活性化へ向けた活動を続ける予定だ。

 そうした活動をする一方、「FOOD ACTION NIPPON」を推進する上での不安点もあるという。「メディアで食料自給率を取り上げても、翌日、多くの国民が何の反響も示さない、誰かがやってくれると思い危機感を持っていません。この国の独特の民族性なのでしょうか」と国民の無反応さを懸念する。だが、39%から40%となった食料自給率については「下がり続けていたものが止まって上がった、それが非常に重要なことです。一度立ち止まって振り返る≠アとができたのです」と評価する。

 今回自給率が上昇に転じた最大の理由は、日本人が米を食べるようになったこと。「強制的にではなく、国民に米を中心にした和食の食生活に戻すことで、心も体も癒す食生活になる≠ニ文化論で諭していっても良いと思います」。今後の食料自給率向上には、現在広がっている学校給食の和食化が大きく反映されてくると小泉教授は考えている。

 「食育と食料自給率の問題は表裏一体。子どもたちが豊かな食生活を送るためには、どこの誰が作ったのかわからないものは食べさせられません。食育とはみんなで心も体も健やかに育っていくのが目的ですから、自分たちで作る地産地消を考える必要があります。それには、学校の栄養士さんたちが日本の将来の鍵を握っています。和食を中心にした国産で安心安全の給食を子どもたちに食べさせる努力、そしてそれが大切だということをぜひ教えてあげて下さい」。

 小泉武夫(こいずみ たけお)=1943年福島県小野町出身。酒造家に生まれ、東京農業大学農学部醸造学科を卒業。発酵学、食文化論を専門とし東京農業大学応用生物科学部醸造科教授として教壇に立つ一方、農林水産省政策研究所客員研究員、全国地産地消推進協議会会長なども務める。近著に「いのちをはぐくむ農と食」(岩波ジュニア新書)など単著101冊を数える。

【2008年11月15日号】