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“食”は生活の質を決める要素に
教育目標・実態と食育を関連づけて

東京都中野区立第十中学校長 原 美津子さん

食育と学校経営

原 美津子さん

 食育基本法では、学校の食育は栄養教諭を中心に、校長先生のリーダーシップのもとで各教科と共に食に関する年間指導計画を作成し、学校の教育目標と連動して位置付けることが求められている。東京都食育研究会前会長で中野区立第十中学校長の原美津子先生は、食育を各教科別に位置づけるヒントをまとめた「食育実践ハンドブック」の制作に携わった。


 もともと都立高校の保健体育の教員だった原先生は、エネルギーをいかに消費するかという指導に力点を置いていた。東京都教育委員会の指導主事時代、高校の保健体育と学校給食の担当となり、「消費と共に有効なエネルギー摂取も大切なこと」だと気付いたことで、保健体育の研究と同時に食育を研究してきた。


 「1日3食とすれば一生の食事回数は8万回以上。“食べること”はその人の生活の質を決める重要な要素でもあります」と話す原先生は、平成7年に「中学生のための給食小話」を作成。中学生自身に食事への関心を持ってもらいたいと、体育と関連付けた。「すばらしい学校栄養職員や教員との出会いとこの経験が軸となり、管理職になっても食育が重要であることを訴え続けてきました」。


 食育基本法が制定された平成17年頃は、管理職のなかでも本当の理解者は少なかった。「食育は、本来は家庭の課題なのですが、学校で少し意識付けしてあげるだけで子どもの食に対する関心、興味は高まります。例えば本校で私が顧問をしている和太鼓の合宿では、全部の食事を生徒が自炊し献立も考えています。この合宿をきっかけとして、食べる事の大切さに気付いてほしいからです」。


 指導体制を充実するために学校長は、「学校の教育目標と食育をどう関連付けて先生方にお示しできるかがリーダーシップを発揮する場。教育活動は教育目標を達成するためのものですから、食育はどの場面で貢献できるか先生方に計画してもらう。そこで重要なことは生徒たちの実態に目を向けることです。そのためにも管理職からのトップダウンと、現場から意見を述べるボトムアップが互いに機能しあう事が重要です」。

  そして、指導の際に重要な役割を担うのは栄養教諭、学校栄養職員。原先生は栄養教諭を「青いバラ」に例えている。「できそうに無い制度でしたが、実現できました。この制度を有効にするかしないかは、栄養教諭たちの実践次第。自分から各教科に食い込んでいくだけの力を持ってほしい」と期待している。
 地域のさまざまな立場の人が食育の授業に参加する機会も多く、保護者がサポートに入ることもある。原先生は「連携の前に大事なことは、お互いの現状や立場を理解しあうこと。“この人が、食育が大事だと言うのだから大事なんだ”と思ってもらえる教育の実践者になって欲しい」と願う。


 3月31日をもって現職を退く原先生。「子どもたちには自分の人生を明るく、たくましく生きていってほしい。そのために出来る最大限の努力を惜しまない教育実践者でありたいと思ってきたので、食育は興味が尽きない研究材料でした。“計画書”が先にありきではなく、出来ることから一歩を踏み出して下さい。その時一番のヒントとなるのは、自校の教育目標と食育がどう関われるかを考えてみること」と全国の学校長にエールを送った。

原美津子(はら みつこ)=1949年東京都出身。東京都中野区立第十中学校長、東京都中学校長会生徒指導部部長、東京都教職員研修センター食育推進者養成講座講師など。平成3年度、都教委指導主事として高校保健体育・学校給食担当。平成7年から、冊子「給食小話」、「食と健康こばなし」、食育学習カード「HowToEat」などを作成。19年度文科省学校給食功労者表彰(個人)など。

【2010年3月20日号】