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子どもの心とからだの健康
規則正しい生活で免疫力を高めて

岡本美孝さん
千葉大学大学院医学研究員 
耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学教授
岡本美孝さん

■急増する子どもの花粉症 その対策と治療方法

 花粉症とは植物の花粉によって引き起こされるアレルギー症状の総称だが、日本ではスギ花粉によるものがもっともポピュラーであり、スギ花粉の大量飛散に伴う患者の大量発生により、1980年代ごろから社会問題となっている。特に最近問題となっているのが子どもの花粉症である。年齢が低いほど症状はあっても自分で判断ができず、周囲の大人が気をつけていないと発見も治療も遅れることになりやすい。アレルゲンを避けるだけでは問題解決できない現代の花粉症の問題を専門の岡本先生に解説していただいた。 (レポート/中 由里)

食生活などの環境要因に注目

―子どもたちに花粉症が増えている原因は何でしょうか
アレルギー体質は遺伝し、親がアレルギーを有していた場合、高い割合で子どもにその資質が受け継がれることは古くから知られていました。しかし最近では環境要因も問題視されています。花粉やダニなどアレルゲンの増加、母体や母乳の影響、大気汚染、喫煙、居住環境、食生活、腸内細菌叢の変化、感染症の減少などが、花粉症に限らずアレルギー症状の発生に深く関わっているといわれます。

 母乳、母体の影響については、前述の、母親の体質の変化が子どもに影響することが考えられます。母乳栄養の減少も指摘されていますが、母乳は一般的に正常な免疫力の発達を高め、アレルギー発生を抑制するといわれています。アレルギー体質を持った母体からの母乳栄養は、むしろ子どものアレルギー発症を促進するとの報告もありますが、否定する報告がいくつも見られています。 
大気汚染、喫煙がアレルギー症状を悪化させることは間違いないでしょう。喫煙は受動喫煙も含めますので、子どもとはいえ関連が高く、アレルギー疾患発症そのものへの影響も危惧されています。高密閉、高湿度の住居が増えていますが、ダニの繁殖には好都合で、たしかに住居の細塵中のダニの数は増加しています。

 食生活の欧米化は、肥満や高脂血症の増加に見られるように、日本人の体質を変化させていますが、同時に腸内細菌叢の変化も引き起こしていると考えられています。ほかに、抗生物の投与も影響しているのかもしれませんが、腸内細菌叢は、体の免疫に大きな影響を及ぼすことが知られています。

最後に感染症の減少も、関連が強く指摘されている問題です。子どもは乳幼児期に感染症に罹ることにより免疫力が発達していくことが知られています。最近の子どもたちは少子化や過度の衛生環境への反応から、感染症にさらされる率が低くなっており、これが要因の一つではないかといわれています。結核菌、寄生虫の減少との関連も指摘されています。
 以上のようなさまざまな要因により、子どもたちの体質が変化したことがアレルギー発生の増加を招いたと考えられています。

実行しやすい生活の見直しを

―対策はありますか
 環境を昔に戻すということ、乳幼児期にさまざまな感染症に積極的に感染させるというのも、他の弊害を考えれば現実的ではありません。もともと免疫反応というのは、自己の体に不必要な物質を排除する正しい反応ですが、アレルギーではその反応が過剰になるのであって、過剰にならないよう、バランスをとることが大切でしょうね。花粉症に関して言えば、現在、ワクチンの開発も進んでいますが、ただ、食生活や生活のあり方、生活環境をよく見直してみることが重要かもしれませんね。食生活、受動喫煙や大気汚染の改善など、比較的実行しやすいこともいくつもあると思います。

―花粉症を治す方法はないのですか
 治療には免疫療法(減感作療法)といった、すでに効果が確立されたものがあります。希釈した花粉エキスを皮下に注射して反応を軽減させるというものです。しかしこれは、2年以上、50回程度の通院が必要で、効果が現れるまでに3?4カ月は必要です。治療を受けた方で、花粉症の治療がまったく必要となくなる方は20?30%ですが、約70%の方に改善効果は見られ、かつ治療終了後も多くの方でその効果が5年、10年と続くことが知られています。注射という手段の負担を考えると、患者さんには大きな負荷をかけてしまいます。また、まれに喘息発作などの副作用が起こることもあります。こうした負担を軽減するため、注射ではなく口腔から摂取する舌下免疫療法という方法も開発されてきました。ヨーロッパではすでに認められている方法ですが、日本ではスギ花粉症という欧米の花粉症と比較して症状が強い花粉症が中心ですが、これは日本特有の花粉症であり、このスギ花粉症に舌下免疫療法がどの程度効果があるのか、十分な検証が必要です。おそらく数年のうちには一般化するでしょう。

 対症療法としては、抗ヒスタミン薬をはじめ、さまざまな薬剤が用いられており、安全性も高くなっています。ただ、根本治療にはなりません。

治療と共に花粉回避が大切

―根本治療はないのでしょうか
 中・高年では自然改善が見られますが、小児や青・壮年では自然改善率は高くないです。最も基本的な治療は、アレルゲン(アレルギーを起こす原因物質)に接触しないことです。身近なことでは、帽子やマスクの着用、学校であれば花粉飛散が非常に多い日には戸外の
体育を控える、窓をできるだけ開けない、などの対策もいいと思います。

 しかし実際には、環境改善には時間もお金もかかりますし、完全に花粉をシャットアウトすることは困難です。症状の重症化を防ぐために、治療を花粉回避とともに進めていくことが大切です。現状では、症状を抑える対症療法が中心ですが、効果や安全性は高くなっています。

 ただ薬物治療で注意が必要なのは、特に市販薬に多いのですが、眠気を誘導する成分が含まれていたり、長期投与では薬剤性鼻炎の原因となる血管収縮薬です。
 症状が改善しない、治療の内容をよく知りたいなどのことがあれば、相談しやすい、相談に乗ってもらえる専門医を受診してはいかがでしょうか。

【2008年5月16日号】


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