教育家庭新聞・健康号
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子どもの心とからだの健康
子どもの食を改善する専門職として


日野市立仲田小学校
栄養教諭
宮鍋和子さん

栄養教諭2年目の今

 平成17年に文部科学省が栄養教諭の義務教育機関への配置を始めて5年、東京都の導入は3年目。今年4月の配置状況は、全国で3379名、東京都で27名(文部科学省発表)。栄養教諭は教育的な部分と栄養学的な部分の専門性を兼ね備えた専門職であり、食に関する教育的指導ができる存在と認識されていることと思う。しかしその導入が急がれたためか、学校関係者、保護者の理解を完全に得られていないという側面があるようだ。問題点と打開策は?。栄養教諭2年目、慣れない土地で奮闘する宮鍋教諭の体験を伺った。(レポート/中 由里)

【初めての土地で見えてくるもの】

‐資格を取得後異動になりましたが、ご感想は

 私は非常勤栄養士を1年勤めたあと、都立定時制高校、特別支援学校、区立中学校に学校栄養職員(栄養士)として勤務し、4年前に小学校に着任しました。そこで東京都の栄養教諭採用選考を受験し、新規採用として今の学校に配属されました。東京都の栄養教諭第1期生は異動がなかったのに対し、私たち第2期生は大半が他行政に異動となり、今年度採用の第3期生も多くが異動となっています。東京都は栄養教諭の職務の一つに「地区の食育リーダー」という役割を求めています。その点からは、他地区の情報や経験などを持って、広い視野で地区をまとめるために他行政に配置するという対応は理にかなっているのでしょうが、慣れ親しんだ地区を離れ、他行政に着任することは異動者にとっては、行政の把握、児童・生徒の実態の把握、人間関係の育成などに追われ同地区内の異動に比べて多くの負担が強いられます。特にセンター勤務となった栄養教諭は、これまで以上に給食運営のための業務に追われ、「教諭」としての取り組みが困難な現況があります。

‐前区と今の市ではだいぶ環境が違いますが、戸惑いはありましたか

  栄養教諭という新しい職種、さらに新天地での仕事ということで、多くの戸惑いがありました。給食の中身や運営方法も違いますし、考え方も異なります。どうしてそのようになっているかという事情や慣例になっていることにも素朴な疑問をぶつけていかなくては次に進めません。時には大胆な発言ととられることもありますが、それが地区の変容には役立つようです。例えば、本市は都内にありながら非常に農環境に恵まれた地域です。全国に先駆けて地元野菜を学校給食に取り入れてきました。市の政策も整備され、昨年度の地元野菜の利用率は20%(6・11月の価格ベース)を超えています。しかし長い取り組みの中で、農家や行政、調理員、栄養士等が互いの苦労をわかってしまうがゆえに、意見を言いにくくなってしまっているようです。栄養教諭というこれまでとは違う肩書きを持った、しがらみをまったく知らない新参者だからこそ言える、言ってほしいこともあるということを感じています。

【食育のリーダーとして高まる意識】

‐栄養教諭になって以前と意識は変わりましたか。

 栄養士のときも食育への取り組みはありましたので、校内での専門職としての実質的な仕事は変わりないと思います。しかし教諭としての仕事が増えるとこれまで以上に子どもたちのケアや働きかけの方法、接し方に気を遣うようになりました。ただ戸惑いがあるのは、そもそも栄養教諭とはどういう存在なのかが確立されていないことです。栄養士としての業務と教諭としての業務の割り振りをはじめ、すべて一から築いていかなくてはいけません。食育とは何か、栄養教諭とは何かということを、自ら管理職はじめ先生方や地域に広めていかなくてはいけないという重圧を感じています。

【教科の中にも食育を取り入れ】

‐現在特に力を入れている取り組みは何ですか

 昨年は各校の教諭や児童・生徒に負担が少なく、しかし市内全校で取り組めるものとして「食育カルタ」を作りました。食に関する内容のカルタです。将来、学校対抗のカルタ大会を開催できないか思案中です。今年度はもっと教科の中に食育を取り入れていきたいです。「学ぶ」とは生きるための知識や知恵を習得することです。学びの場である学校では、知育、徳育、体育とともに食育を学ぶことはしごく自然なことです。なぜなら「食べる」ということは「生きる」基礎であり、「食べ方」は「生き方」となるからです。英語や算数のように、ここで何を教えなさいというものはありません。つかみどころのない存在になりがちですが、さまざまな教科・領域に結びつけることができるはずです。
 先生方が教科の中で「食育」の視点を持って子どもたちに投げかけができるようにお手伝いをするのが栄養士や栄養教諭です。そして、栄養教諭設立の理由の一つが、先生方や保護者との連携をより円滑に行うことでもあります。着任して間もない私ですが、感受性の強い子どもたちに「食」を通してさまざまなことを伝えていける喜びを感じながら日々励んでいます。


【2010年7月17日号】

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