教育家庭新聞・健康号
子どもの心とからだの健康

新タイプの特別支援学校

 平成25年4月、新しいタイプの東京都立特別支援学校が板橋に開校する。肢体不自由教育部門の小学部、中学部、高等部と知的障害教育部門の高等部職業学科(就業技術科)を併置した学校として、専門的教育の推進を目指す。文部科学省は平成19年4月から特別支援教育を学校教育法に位置づけ、すべての学校において障害のある幼児児童生徒の支援をさらに充実していく方向性を示した(※)。障害者教育は教育の原点であるにもかかわらず、一般教職員がその詳細を知ることはそれまであまりなかったというのが実情のようだ。進化しつつある特別支援教育の現状と新設なる特別支援学校にかける意気込みを担当校長に聞いた。

画像

東京都立板橋学園
特別支援学校(仮称)担当校長
堀内 省剛 さん

H25年に東京に開設

知的障害教育に 職業学科を設置

―新しい学校はどのような規模になるのですか。

  東京都立板橋学園特別支援学校(仮称)は、「特別支援教育推進計画第二次実施計画」に基づき、旧都立志村高等学校跡地に計画された肢体不自由教育部門と、知的障害教育部門を併置する新設学校として計画されました。

  計画段階では、敷地面積約3万3000平方メートル、知的障害教育部門24学級、肢体不自由教育部門28学級とされ、都内でも最大級の特別支援学校となります。

  今回の計画では、知的障害教育部門は高等部職業学科を設置し、軽度の知的障害の生徒を対象として将来の職業的自立に必要な専門的な教育を行います。また、肢体不自由教育部門は、小学部から高等部までを設置し、個々の障害の状態に応じた教科、自立活動等の指導の専門的な教育を行います。

―先生がこの教育に携わった経緯を聞かせてください。

  私は大学2年生のときに、教職課程とはまったく関係なく養護学校にボランティアに行き、特別な支援が必要な教育があるということに非常にカルチャーショックを受け、その後、この道に自分のやりがいを見出すようになりました。志を定めて、昭和62年に都立青鳥養護学校の教員になりました。その学校は知的障害の養護学校でしたが、そこの子どもたちと触れ合う中で、これを一生の仕事として全うしたいと思いました。

  子どもたちは非常に純粋なのですが、育ってきた中で理解が足りない人たちの間で傷つく場面がたくさんあります。自分のアイデンティティを守ろうとする気持ちを大切にしたいと思いましたし、私自身の手で守れるものがあればと思いました。

一般教職員も 知識・体験で認知

―子どもたちにとって望ましい学校とは、やはりこのように安全と安心を保障された学校なのでしょうか。

  学校を創るからには最適な環境を用意したいと思っていますが、一人ひとりの子どもたちにとっては、個々のニーズに沿った形でいろいろな選択肢があるのが一番いいことだとも思います。通常の学級で学びたい子がいれば副籍制度などを活用し、そのニーズに応えるべきですし、こうした新しいタイプの学校の中でしっかり学びたいというのなら、きちんと対応したいと思います。ニーズに応えるという点では、障害があってもなくても同じです。「障害者教育は教育の原点である」という言葉はそういうことを指しているのではないでしょうか。

―平成19年から特別支援教育が学校教育法に位置づけられたことによって変化はありましたか。

  大きな変化があったと思います。というのも、それまでの認知度が非常に低かったからです。従来からの障害(盲、聾、知的障害、肢体不自由、病弱)はそれなりに認知されていましたが、この法令化で特に発達障害の認知度が進んだと思います。

  診断は難しいのですが、医療サイドではそれまでも発達障害は認知されていました。一般の教職員に知られていなかったのです。そうした子は往々にして対人関係スキルに問題が生じ、ただの扱いにくい子として評価されてしまうことが多かったと思います。

  心に傷を負って二次障害が起こるということもありました。そういう点では大きく変わったと思います。今は教職員の免許法も変わりましたので、特別支援教育に関しては必ず履修するようになりました。介護等体験制度も入り、実習も必須になっていますので、知識としても体験としても経てくるシステムになっています。

―このような環境の整った学校ができる一方で、社会環境は決して整っていないのではないでしょうか。

  バリアフリーを謳っている場所は確かに整いつつありますが、一般道路で車椅子が通れない箇所があるなど、細かい部分の改善は進んでいません。これは難しい問題なのですが、学校を安全な場所にしすぎると、子どもたちが社会に出た時にギャップが大きすぎるという懸念を抱く方もいらっしゃいます。

  また、社会のほうが早く多様性のある生活に沿ったシステムを整えるべきだという方もいます。いずれにしても子どもたちは「今」を生きており、この現状で社会に出ていかざるを得ません。非常に悩むところです。 

小学校入学前に 十分な交流を

―教育をする側の立場として大切にするべきことはどのようなことと考えますか。

  子どもたちは学校を出たら、障害のあるなしに関わらず社会の中で生きていくわけです。人間社会にはさまざまな個性があることが大前提です。当然学齢期に指導する側の人間はそれをわかっていなければいけません。障害も含めて個人のありようを尊重するということですね。

  また、子ども社会の中では、さまざまな個性があるということを幼少期から学べるといいと思います。学習指導要領でも「交流及び共同学習」が謳われていますので、小中高等学校に通う子どもたちはお互いに触れ合う機会がありますが、できればもっと小さい時から、もっと十分な交流の時間を持たせたいと思います。

  社会において多様な個を認めるには、先入観のない純粋な時期にできるだけ多様な個と触れ合うべきだと思います。

※特別支援教育とは「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うもの」

【2012年3月19日号】


新聞購読のご案内