教育家庭新聞・健康号
子どもの心とからだの健康

健やかな成長を食で育む

 東京都北区にある給食製造販売会社・エンゼルフーズ。少子化のあおりで顧客絶対数が自然減少するのは必至の幼稚園給食部門で、東京都23区内のシェア50%を誇る。本業の幼稚園・学校などへの給食提供のほか、ボランティアで保護者・教員・子どもへの食に関する講演や「キッズベルコン」と呼ばれる弁当工場体験を通じて、食育に大きな力を注いでいる。そうした実績が評価され、先月、農林水産省「優良外食産業表彰」の快適給食サービス部門で大臣賞を受賞。社長の古賀氏は、ビジネスにおいても社会貢献についても高く評価されるのは、ひとつの情熱に支えられているからにほかならないという。(レポート/澤邉由里)

食を通じて社会貢献

教育への情熱と食を融合させる

―会社の沿革と歴史を聞かせてください。

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エンゼルフーズ株式会社
代表取締役社長
古賀 義将 さん

  会社を興したのは私の父です。昭和40年に脱サラして開いた、カレーライスの移動販売が始まりでした。

  当時は家庭の食事のほとんどを主婦が賄っていた時代で、勤め人や学生の昼食も各自が弁当を持参するのが当たり前、外食産業という言葉すらありませんでした。

  そうした中で個人商店とは違う形の外食を打ち出した父は、先見の明があったと思います。店は繁盛し、カレーだけではなくほかのものも食べたいというお客様のご要望に応えるかたちで拡大していきました。

  しかし私は、朝から晩まで体を使って働く、いわゆる「3K」(きつい、汚い、危険)の稼業は人から軽視されているように感じ、引け目に思っていたのです。大学在学中の夢は教師になることでしたので、稼業を継いでほしいという父の言葉にずいぶん悩みました。

  ところが、気がつけば高度成長期を経て、飲食業は外食産業として確立され、マクドナルドや外食チェーン店の台頭により、一流企業の仲間入りを果たしていました。私が悩んでいた間にも世の中は変化していったのです。私は、自分の教育への情熱と食を融合させることができるかもしれないと思いつきました。

  女性の社会進出に伴い、幼稚園でも給食が普及し、バブルがはじけて弁当業界が苦戦する中でも、「子どもたちの幸せと教育に尽力することが自分の使命」と語る私の言葉に多くの方が賛同してくださり、幼稚園給食の業績は右肩上がりとなりました。

“いただきます”の心を大切に

―講演はどのような内容が中心でしょうか。

  保護者様、職員様、子どもたちに向けて、最終的には同じことを語るのですが、子どもたちにはわかりやすいように紙芝居を使ったり、食べ物を擬人化してお話を作ったりしています。

  例えば、お弁当箱を遠足のバスに、食材を園児たちに見立てて、「嫌いだからといって乗せてあげないと遠足に連れてってあげられないよ、かわいそうだよ」というように。嫌いなものを無理して食べなさいと押しつけるような教育はしません。子どもが自ら食べなくちゃいけないと考えるように導くのです。

  当社では「いただきますの心運動」を展開しています。昨今は「食べ物はお金を払って買っているのだから『いただきます』なんて言わなくてもいい」という人がいますが、とんでもないことです。「いただきます」という言葉はもともと仏教用語で、我々の口に入る動植物に感謝する言葉です。百歩譲って食材を作った人、採(獲)った人、食事を作った人にはお金を払っているでしょうが、食材となる動植物は一円のお金ももらわず命を犠牲にしているのです。命は誰のものでしょうか。例外なく自分のものです。

  人間の命も動植物の命も大自然からの恵みであって、同じく尊い命です。それを勝手に取り上げるのですから、食べるほうは食べられるほうに「ありがたい」と思う気持ちを忘れてはいけません。その気持ちの表れが「いただきます」なのです。
私にとっての食育とは、命は尊いということを学んでもらうことです。

‐キッズベルコンとはどういう試みですか。

  子どもの弁当工場体験イベントです。工場見学はよくありますが、「キッズベルコン」は見学だけではなくお弁当作りを実際に子どもたちが体験できるように設計したものです。弁当工場で使用している機械を子どもの体格に合わせて特別に開発しました。すべて可動式で、依頼があった幼稚園へ運んでセッティングします。

  お弁当とは最初から弁当箱に入っているものではなく、人の手で作って詰めていくということを、身を持って体験します。自分で作ることによって子どもたちの好き嫌いが減るなどの嬉しい副産物もありました。

生の食体験で命の尊さを知る


―食育にかぎらず、子どもたちの教育にとって大切なものは何だと考えますか。

  現代は命の誕生も死も感じる機会が少なく、テレビドラマやテレビゲームの影響で、死などの災いでもリセットできるかのような錯覚に子どもたちが陥りがちです。これは極めて貧しい精神状態だと思いますが、この社会を昔に戻すことはできません。ですからもっとも身近で、人にとって必要不可欠な食べ物を通じて、命の尊厳を教えることが大切だと思っています。

  また、子どもたちには生の体験をさせてあげたいと思います。例えば魚釣り、牧場での出産の立会いや子豚の世話などです。生き物が生まれ、育ち、殺され、それを自分たちが食べているのだということを学べば、子どもたちはいのちの尊さに気づきます。

  これらの豊かな学びを、ぜひ成長期の小学校6年生くらいまでに、体験させてあげてほしいと思います。

 

【2012年4月16日号】


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