子どもの心とからだの健康

早期発見・早期治療の効果大
低身長

 子どもが小さい頃は親が、そして思春期にさしかかれば誰よりも本人が気にするのが背の伸び具合。個人差といえる範囲なら問題がないのですが、その原因もさまざまで、早期の検査と治療を要する低身長もあります。今回は都立清瀬小児病院の内分泌代謝科医長、長谷川行洋さんに「低身長」についてお話を伺いました。


● 原因基準

−−低身長の原因はどのようなものですか?
 身長が伸びるというのは骨が伸びることで、骨が伸びないのは第一に骨そのものに染色体異常や病気があるときです。もう1つは骨にとっての環境が悪いとき、つまり成長ホルモンや甲状腺ホルモンが不足したときです。また、脳腫瘍や心臓病などの病気で発達が遅れていたり、精神的なことが原因となることもあります。

−−精神的なことが原因というのは?
 たとえば親の虐待などを受けたり、親の養育態度が悪いことなどによる成長ホルモンの分泌低下が考えられます。1つの例ですが、父母がバレリーナの家庭で子どももバレリーナにしようと、小1から厳しいけいこを続けさせました。子どもは喜んでやっているようでいて実際は強いストレスを感じていたのでしょう、精神的障害を起こし、身長の伸びが止まってしまいました。これは厳しい母と、いうことをきく良い子の組み合わせの時にみられます。

● 2種類の評価基準

−−ただ背が低いだけなのか、治療を要する低身長かの区別はつきますか?
 他の病気を持っていたり原因が明らかな低身長を除いた場合を考えてみます。たとえば50人の集団で小さい方から順に並んだとき、1番前の子は病気(低身長)でないことが多いです。つまり全体の中で何番目かということではなく、その子自身が伸びているかどうかが問題です。たとえば1年前はまん中にいたのに、今は前から5番目だという場合や、同じ1番前でも2番目の子と大きく差があるときは注意した方がいいでしょう。

−−具体的な「低身長」の基準はありますか?
 「パーセンタイル値」でみて、低い方から3パーセンタイル以下に入る子は、低身長といえます。全体数が100人なら、3人という割合です。気になるときは母子健康手帳にのっている発育のグラフを見て、お子さんが10パーセンタイルの線上だと100人中低い方から10番目、90パーセンタイルの線上なら低い方から90番目で、高い方からは10番目ということになります。

−−「マイナス2SD以下は低身長」という言い方もききますが?
 これは「SDスコア」による評価方法で、一般に専門家の医師はこちらを使っています。SDというのは「標準偏差」の頭文字で、その子の身長が平均からどれくらい離れているかを表します。偏差値のちょうどまん中を0SDとし、プラスの数字が大きいほど身長が高く、マイナス数字が大きいほど身長が低くなります。このスコアでマイナス2SD以下ですと低身長とみなされ、検査の対象になります。この方法では低身長の子は100人中2・3人(2〜3人)で、先程のパーセンタイル値の結果とほぼ重なります。

●成長ホルモンの不足

−−診断結果はどのようなものですか?
 8割の患者さんはご両親の身長が低いといった家族性の低身長と奥手です。後の2割の人は、多い方から順に、ターナー症候群、成長ホルモン欠損症、甲状腺機能低下症、骨自体の異常や病気、心臓病などによる低身長、精神的な傷によるものなどです。

−−成長ホルモン欠損症というのはどのような病気ですか?
 低身長の検査をして、「身長の伸びが悪い」、「成長ホルモンが不足」の2つのことがわかると、「成長ホルモン欠損症」による低身長だと診断されます。身長の測定は割合正確にできますが、成長ホルモンの不足を測る検査は難しいところがあります。

−−成長ホルモンとは?
 「成長ホルモン」は脳の下垂体で作られて分泌され、肝臓や軟骨細胞、あるいは骨で「成長因子」を作ります。この「成長因子」が背を伸ばす働きをしますから、成長ホルモンは直接にではなく、間接的に背を伸ばしていることになります。

−−成長ホルモンの不足は、どのように調べるのですか?
 健常者に、ある薬を点滴で与えると成長ホルモンが分泌されますが、成長ホルモンを作り出す力が不足している人に同じ薬を与えても、ホルモンは分泌されません。この差から成長ホルモンの不足を診断します(負荷試験)。ただこの試験は正確さという点で限界があるため、2回以上行うのが普通です。
 もう1つの方法は、成長ホルモンが作り出す成長因子の量を調べることです。血中にある成長因子が少なければ、成長ホルモンが少ないことになります。この方法は「スクリーニング」といって、負荷試験より同じ数値が得やすく、1回の採血ですむので、多用されるようになってきました。

●治療方法

−−成長ホルモン欠損症の治療は?
 成長ホルモン不足は、成長ホルモンを補うと劇的に効きます。成長ホルモン剤を週6〜7回、自宅で注射します。この治療の問題点をあげますと、日本では平均的に治療開始年齢が遅いことです(小学校高学年以上)。風邪をひいたときと同じで、成長ホルモン欠損症の場合も治療開始時期が早ければ早いほど、身長の増加率がよくなります。低身長が気になる時は、すぐに検診での身長の伸びを見ることと、小児科で血液検査(成長因子を用いたスクリーニング)を受け、成長ホルモン欠損症かどうかを確かめることが重要です。

−−その他の低身長の治療は?
 骨自体に問題があるときは、いい治療があまりないのです。ごく一部の人に成長ホルモンが効くくらいでしょうか。甲状腺機能障害は、甲状腺ホルモンの飲み薬で追い付きます。ターナー症候群(女性特有の病気)による低身長は、成長ホルモン欠損症で使うより多めの成長ホルモンを使うと効果があることがわかっています。

−−精神的な傷による低身長の治療は?
 虐待のような精神的社会的な低身長は、それが原因だとわかるまでが大変です。「虐待しています」という親はいないからです。でも診断がつけば、養育環境を変える、良くする、親が子への接し方を改めるよう様々な努力をします。教育熱心な家庭やストレスの多い都会では、加熱した教育やストレスと関連した低身長が増えていると思います。

●身長を伸ばすホルモン 止めるホルモン

−−思春期が早く来た子(早熟)は最終身長が低くなり、遅く来た子(おくて)は高くなるそうですが、その理由は?
 ホルモンの中でも成長ホルモンは身長を伸ばす働きがあり、逆に、思春期に出てくる性ホルモンは成熟を促して身長の伸びを止める働きがあります。このため、女性は初潮を迎えると背の伸びがほぼ止まり、その後は平均6〜7センチしか伸びません。男性もヒゲをそるようになると、身長はあまり伸びなくなります。「性ホルモンは身長を止める」ということから、性ホルモンを抑制する治療(性腺抑制療法)がありますが、これは思春期を人工的に遅らせることになり、精神的な面でマイナスだと思うので、私はあまり積極的には行っていません。

●低身長への心構え  

−−低身長の子の親の注意することは?
 低身長は治療して1週間で効果が見えるものではありません。親ごさんも心構えが必要でしょう。たとえばお子さんが「背は低いけれど、〇〇はできるよ」といえるようになればいいし、それを親ごさんがしっかりと受けとめてあげられるような生活態度が望まれます。背が高いといいこともありますが、身長はあくまでも人間の1つの側面なのです。

(2001年11月10日号より)