子どもの心とからだの健康

25年間で肥満児は3倍に

 最近、「太っている子が多い」といわれます。では実際はどうなのか、その原因は?また、太っていることがなぜ悪いのか、その治療法など、肥満にまつわる疑問を、東京女子医科大学教授で、医学博士の杉原茂孝さんに伺いました。  

肥満とは
そもそも「肥満」とは体がどうなることですか?
杉原 ヒトは3食を食べてエネルギーを摂取しているわけですが、一方で、寝ていてもエネルギーを消費しています(安静時代謝)。日常の仕事や運動によってもエネルギーを使います。この摂取したエネルギーから消費した分を差し引いた余分なエネルギーが、「脂肪」という形となって蓄積されます。それが基準を超えるほど多くなったものが、「肥満」です。ただ、脂肪の量は計りにくいので、体重でみています。

肥満の基準とは?
杉原 幼児の場合などにカウプ指数やローレル指数を使うところもありますが、小児科では、まず子どもの身長と体重を計り、標準に対して体重がどのくらい多いかという「肥満度」を計算します。たとえば、7歳で身長130cm、40kgの男子の場合。「性別、年齢別、身長別標準体重表」(厚生省・文部省の資料による)を見ると、標準体重は27・3kgですから、13kgのオーバーで、肥満度約47%ということになります。学童は肥満度が20%以上で「肥満児」、50%以上で「高度肥満」といいます。幼児はそれぞれ、15%以上、30%以上です。

今、肥満児は増えていますか?
杉原 日本では、ここ25年の間に肥満度20%以上の肥満児がおよそ3倍に増加したといわれます。また最近では、約10%の学童が肥満児です。文部省学校保健統計調査報告によれば、94年から男女とも身長は変化がないのに対し、体重は増加しています。

肥満児が増えている原因はどんなことですか?
杉原 子どもたちがカロリーの高いアイスクリームやハンバーガー、ラーメンなどを食べるからです。それに、昔の子どもに比べて今の子は動かない。テレビゲームをしたり、塾にいったりと、外遊びが少ないです。また、車やバスでの移動で、歩くことも減っています。こうして、消費されないエネルギーが脂肪として蓄積されているのです。

世界的にも肥満が増えているそうですね。
杉原 中国やアメリカでも肥満が増えています。これには「倹約遺伝子」が関係しているという説があります。人類は昔の飢餓の時代、それに耐えるよう、わずかなエネルギーを有効に(節約して)使うという体質があったようです。そのような遺伝子をもっているのに、近年、世界が飽食の文明社会になり、飽食と体を動かさない生活となり、ますます肥満を生み出しているということです。

良性肥満と悪性肥満
肥満にも良性と悪性とがあるそうですが。
杉原 身長と体重を示した成長曲線というものがありますが、これを見て、肥満のタイプを分けることができます。  仮にA、B、Cと分けるとすると、まず、A型ですが、身長に比べて体重が多いので肥満傾向がありますが、身長体重ともに基準成長曲線に平行して増加しています。これは良性肥満で、経過を観察していればよいのです。
 次にB型ですが、身長のパターンは正常ですが、体重については、ある時期から急に増えています。時期は小学校に上がる前後からが多いのですが、人によって違います。これは悪性肥満で、放っておくと1年で101114くらいすぐ太ってしまいます。早い時期にみつけて、おやつを食べ過ぎないように指導することが大切です。生活習慣が乱れていることが多いです。
 これらに対してC型は、B型のように体重がある時点から急速に増えていきますが、それと同時に身長の伸びが悪くなります。これは心配な悪性肥満で、たとえば内分泌などの隠れた病気があることが多い。診察が必要です。

生活習慣病との関係
肥満と生活習慣病との関係は?
杉原 これまでの話は、肥満が病気によるものかどうかということだったのですが、これからお話することは、肥満がこの先、生活習慣病、つまり糖尿病や動脈硬化などという、大人のかかるやっかいな病気に関係するかということについてです。
 肥満には脂肪のつく場所によって2つのタイプがあります。1つは皮下脂肪で、子どもはこのタイプの肥満が多いのです。これに対し、大人は内臓につく脂肪が多く、これが生活習慣病につながります。ところが最近は、子どもにも内臓脂肪がたまるタイプが増えていて、生活習慣病にかかる危険性が高くなっています。

肥満の治療はどのようにするのですか?
杉原 食事療法と運動療法ですが、本人が痩せたいという気にならないと難しいです。ご両親も太っている方が多いですし、おじいちゃんやおばあちゃんの認識が違っても困るので、家族ぐるみで、食事や生活習慣の話をします。たとえば、間食を控えるだけで、随分違います。スナック菓子は油脂や砂糖分が多いし、ジュースは砂糖の塊ですから。ジュースをお茶に代えるだけでいいのです。また、食事のしかたですが、朝ご飯を食べずに(欠食)、昼、給食をおかわりする子がいますが、空いたおなかで1度に食べると、太ります。また、夜食をとってすぐ寝ても、太ります。また、太っている人はたいてい早食いですが、満腹感が出ないうちにいっぱい食べてしまうことになります。
 あとは動くことです。スポーツクラブに通わなくとも、歩いたり、布団の上げ下ろしなど、日常的なことが大切です。万歩計をつけて、1日1万歩を歩くのもよいでしょう。
 子どもの指導のポイントは、「体重を減らす」のではなく、「体重を増やさないようにしよう」ということです。子どもは身長が伸びていますから、体重がそのままだと、かなり体型が良くなります。毎日体重を計ってもらい、記録してもらいます。それから、食事なども無理に制限すると、リバウンドしてまた食べ出したり、食事の楽しみがなくなります。長続きすることが大切です。

肥満治療のこれからの問題点は?
杉原 小児の肥満にも多様性があり、心配のない肥満もありますが、首や腋下に黒いシミのような皮膚部分がある肥満児は、注意が必要です。これは「黒色表皮腫」といって、小児期に発症する糖尿病の80%以上にみられるという報告があります。
 このような生活習慣病が心配される肥満の子どもたちをフォローするシステムや、治療を継続させる方法などが、今後の大きな問題です。 (藤田翠)

(2001年2月10日号より)