「総合的な学習」の先駈け

東京・錦華小学校の実践に見る

文部省研究開発学校

 

環境、人間科など新設4教科を発表          

生活に生きる力目指し

 明治6年に開校、平成5年3月で区の統廃合計画により120年の歴史に幕を閉じる東京・千代田区立錦華小学校(丸山信男校長、児童数388人)では、平成3、4年度文部省の研究開発学校として平成5年2月12日、研究発表を行った。主題は「国際社会を豊かに生きる児童の育成」。感性、思考力、表現力など「5つの能力」の育成を基本に据え、机の上の学習に終わらない“生活に生きる力”を求めて、既存教科を見直し、生活科、表現科、人間科、環境科の4教科を新設。7教科1領域で、各学年各学期ごとに目標を設定し、教育課程改善の資料となる研究を推めた。

21Cの学力見据え

 知的理解力はあっても、学んだことを生活に生かせず、友達との強調力、実践力や行動力も少ない児童の実態。本当に、21世紀に生きて働く力を育成するには、どうすればよいのか。

 研究開発学校には、学習指導要領の枠にとらわれず、教育課程の基準改善に資する研究ができるもの。文部省の「研究開発学校の手引き」には、「更に領域や教科の構成の在り方そのものも検討の対象として、小学校教育の全体を見通した大胆な研究も必要です…」とある。 

 錦華小学校では、育成したい「5つの能力」(3面参照)を定めるとともに、児童が学ぶことは「自己を高め、豊かな生活を築くための力を培うことである」との考えから、その力を養うため、日常の生活に近い教科の構成で学習させることこそ有効、と教科、領域を再構成。そして、国、算、体、特活はほぼ現行通りに、4教科を新設。従来各教科にまたがって指導されていた領域を体系化し、7教科1領域を設定、系統的な指導を狙った。 研究発表会で、研究主任はいう。 

 「児童自身が変容し、その楽しさを感じることが大切だと思った。そのためには、毎日の生活、体験の中から、学ぶ題材を取り上げ、それを生活に返してやる。生活に生きる力、将来の社会に生きる力を身につけさせたい。現行教科では、理科、社会、道徳にちらばっている。学習効果をより高める方法を考えた。

 3年生の各教科の週時数をみると(カッコ内週時数)、国語(6)、算数(4)、体育(3)、生活(1)、表現(5)、人間(2)、環境(5)、特活(1)。

 人としての基礎的な知識や技能の育成を狙う生活科では、健康や栄養素、テ−ブルマナ−の学習(以上、3年生の例)や賢い消費実践を求めての現金とクレジット派に分かれての討議(6年)、国際社会の中で適切に自己を表現する能力を目的とした表現科では、現行の音楽・図工を初めとする芸術教科の枠を広げ、ディベ−ト、文章、舞踊・演劇など、発達段階に即して取り入れた。 

 人間理解を旨とする人間科では、“友達の長所”発見カ−ド作りや自己の誕生や生育の課程の理解(以上3年)、また講師による英会話・手話・点字の学習、自己と自然・社会・文化との関わりを理解する環境科では、町会活動調べ、印刷工場見学(以上3年)、水道水、千代田区と東京川調べ等々。

 評価に関しては、児童が月ごとに、各教科ごとの狙いに対して、「できた」「進んでできた」「よく考えた」など◎○△で記入する「学習カ−ド」、「自分たちの生活の中に生かされている紙について関心を持つ」、「和紙と洋紙をくらべる」、「和紙作りに意欲的に取り組む」(5年環境科「くらしの中の和紙」)など教師が単元ごとに項目をたて◎○で評価する「評価カ−ド」などを作成。

 こうした取り組みを通して、児童は身の回りの環境を自分の生活と関連づけて考えられるようになり、相手の立場に立って物事を考えられるようにもなったという。

 坂本昂・大学入試センタ−副所長は、「校門を出れば、理科も社会もない。21世紀に役立つ能力は総合的な人間力だ。本校の研究は、教育課程の基準の改善に役立つものとなるだろう」とエ−ルを送った。

 新指導要領で誕生した「生活科」は過去の研究開発学校での研究をもとに、生まれたもの。

 錦華小のように、理科、社会がなくした場合、中学校との連携の問題が出てくるが、来校者からの質問に、同校教諭は、「環境科では、自然、社会現象をもとに(構成を)考えている。小学校教育の理、社の内容は全部取り入れているので問題はない。」と語っている。

 パネル討議の中で高野尚好筑波大学助教授は「錦華小は、社会の変化に対応する学力をつけたいと教科を再編成した。そして、『5つの能力』を打ち出したが、これが新しい学力観とどう異なるかというと、それにプラス感性、実践力が入れられている」と評価。また、野田一郎・東京学芸大学教授は、「教科は、外国をみても一様ではなく、時代とともに移り変わっていく。(研究開発にあたっては)従来の教科の概念、目標に引きずられないようにすることが大切で、近い将来を見据えて、子に求められる学力を捉えることが必要だ。」とした。

40都道府県600人が来校

 研究発表には、40都道府県から約600人の教育関係者が来校。公開授業、研究協議、パネル討議などに見・聞き入った。

 公開授業で注目を集めたのは、4年人間科「東京の外国人」、5年人間科「外国の人と友達になろう」、6年環境科「世界の中の日本」など。「外国の人と友達になろう」では、仲良くなる方法を4〜5名のグル−プで話し合わせ各自ノ−トに記入させたのち、「直接あっていろいろなことをしてみる」「文通する」「英語を学ぶ」「外国にいく」「大使館にいく」など、カ−ドに書かせて黒板に発表。類似の方法を整理し、今後の学習方法を話し合った。

 「世界の中の日本」では、「世界子どもゴミ会議」をテ−マに円卓会議。それぞれの児童が8ヶ国のゴミについて調べ、発表ごとに発表概要をプリント配布。発表を聞き、各国の相違点や共通点をワ−クシ−トに記入したのち、話し合い。ゴミ問題についてどう生活していったらよいか、考えさせた。

研究開発学校

 研究開発学校は、一般の研究指定校と異なり、現行の学習指導要領の枠にとらわれず、次期指導要領の基準を改訂するための研究を文相の承認を得て行うことができるもの。現在、研究開発学校は、23校(幼稚園2園、小9校、中8校、高4校)。毎年秋に公募され、歴年多様な教育課程開発の試みがなされている。法令上の位置づけは、学校教育法施行規則第26条の2。

 <教育課程等の特例>

 学校教育法施行規則第26条の2 小学校の教育課程に関し、その改善に資する研究を行うため特に必要があり、かつ、児童の教育上適切な配慮がなされていると文部大臣が認める場合においては、文部大臣が別に定めるところにより、第24条第1項(教育課程の編成)、24条の2(授業時数)又は第25条(教育課程の基準)の規定によらないことができる。

 (教育家庭新聞93年2月20日号から)