「ふれあい学習」は学・地共同で

地域活動のコツは
東京都墨田区立墨田中学校

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 地域の様々な人々とのふれ合いから、生き方を学び、心を育てる試みが、全国の学校で行われている。東京都墨田区立墨田中学校の「ふれあい学習」は、人材の発掘・活用のネットワークを構築し、地域と有機的に機能。その・コツ・や有効性を、同校の三橋秋彦教諭にレポートしていただいた。

 東京・墨田区立墨田中学校(森本芳男校長)は今年も、2月5日(土)に「ふれあい学習」の研究発表会を開催する。本校の「ふれあい学習」は、学校を地域に開こうとして始まった。4年前から始まったこの実践は、今では「総合的な学習の時間」の典型と言われている。しかし当初から総合的学習を意識していたわけではなかった。むしろ目的としたのは、・学校おこし・である。
 ・学校おこし・を画策したわけであるから、そこには仕掛けがある。仕掛けは「ふれあい学習」の構造である。

「ふれあい学習」には3つのステップ構造
 「ふれあい学習」の構造とは、3つのステップである。第1ステップは「地域の人材を学校へ」、第2ステップは「地域へ出て体験を」、第3ステップは「地域と共に学習を」である。
 年間計画では、各学期各学年1回は、第1ステップの講演会を行う。実際は各学期数回の講演会に発展する。・ふれあい・というキーワードに結びつくことは何でも「ふれあい学習」にしてしまう。これはと思った方は講師にしてしまう。つまり構造がふれあい学習ではなく、・ふれあい・というキーワードに当てはまるなら、すべて「ふれあい学習」なのである。その実践の中から、地域が見えてくる。

地域論を避けられぬ「人材」発掘の着眼点
 毎週のように学校視察がある。「本校の地域は人材がいないので・ふれあい学習・のような実践は実現できない」とおっしゃる方がまれにいる。
 そうだろうか。どの地域にも、市井の人材は存在するのではないだろうか…素晴らしい輝きのある人々が市井にいることに、注目をしなくてはいけない。
 有名人でなくとも、有名人に匹敵する人物はいくらでもいる。そのような人物を発見できないのは権威主義による眼力の曇りの所為である。人物を見いだすためには、人物を見いだすだけの眼力が必要である。自分自身も人物となるべく不断に努力をしているということである。
 この議論には地域論が隠れている。
 教師にとって地域とは、一義的に物理的空間概念である。しかし地域概念は多様である。都市社会学の磯村英一氏は、コミュニティを「声の届く限り、足の及ぶ限り」と定義している。それでは墨田中学校はどのような地域概念を提案できるだろうか。そこで縁で結ばれた地域概念があるだろうと提案する。

地域の概念超える・地・縁と・知・縁
 一つは・地・縁である。例えば、墨田中学校の卒業生なら、千葉や大阪に住んでいたとしても、話に来てくれるだろうということである。自分の後輩に話をしたいだろう。墨田中には外国人も話しに来てくれる。それは、墨田中に関わりのある人と知り合いだったからである。
 知り合いの知り合いが話しに来てくれる。・知・縁である。具体的例を示すなら、墨田中学校の講師の陣容も「ネットデイ」の参加者の広がりも、・知縁・で示すと分かりやすい。このことで物理的空間概念による閉塞状況を打破できる。
 講師を探すなら、話に来た講師に誰かいないかと聞けばいい。スタート段階なら、PTA会長や町会長に聞けばいい。

地域との交流は地道な積み重ね
 これを制度化したものとして、本校の場合は「進路指導地域改善事業推進会議」がある。校長諮問の会議で、最近よく聞かれるようになった「学校評議会」にそっくりである。もう3年前から始まっている。
 委員は、墨田中学校に縁をつないでくれる人々である。この会議でアイデアや人脈を教えてもらい、学校経営に生かしている。
 無論、校長の不断の努力を無視できない。ある日曜日の夜、学区域の道で森本校長先生に出会った。どうしたのか尋ねると、町会の遠足で河口湖まで行って来たというのである。地味ではあるが、地域とのつきあいの中で決定的な人脈が出来上がっている。一度出来上がった学校と地域の交流で、次々と人材は貫流していく。

縁による人材探しは「出会い」を大切に
 この時に気をつけねばならなことがある。系統的に教科教育をやってきた教師は、「こんな人はいないか」と内容で探そうとする。ぴったりくる場合もあろう。しかしそうでない場合も多い。出会いを大切にして欲しい。出会いが新しい理解なのである。教師にしても新しい出会いで、理解の地平線に気づくのである。出会いを生かせることが、地域の人材を生かせることなのだ。

地域では教師がすべてではない
 第2ステップの実践で地域に出ていく際にも、コツがある。教師がすべてをしないことである。
 本校の「ふれあい学習」のボランティア活動については、墨田区の「すみだボランティアセンター」の全面的なバックアップで実現している。他にさわやか福祉財団や福祉協議会が支えてくれている。職場体験は学年PTAの活動で、訪問場所を決めていく。どちらもお願いして断られたことがない。
 職場体験では、自分の店に来て欲しいという保護者まで現れる。だからこそ、生徒が地域に出て行ったその場で、あいさつの仕方などの社会的マナーを指導されている。
 模範的な完成品の生徒を地域に出していこうとしたら、実現できるものではない。地域の人々は、自分たちの子どもであることを意識してくれるのである。
 人のつながりと心のつながりについて、まだまだ語るべきことがあるようだ。

〈注・「ネットデイ」〉
 学校でのインターネット利用には、校内LANが必要となるが、財政難のためその予算確保への目途が立たなかったり、学校主体のネットワークが組めないなどの問題が起こる。そこでアメリカで出てきたのが、ネットデイの動きだ。
 昨年夏、日本でも群馬県前橋市でネットデイ・サミットが開かれ、日本におけるネットデイ運動も活発になりつつある。
 前橋、福島県阿武隈地方、東三河、関西と、ネットデイのボランティア団体が活躍している地域もある。
 墨田中ではKIU(柏インターネットユニオン)の支援で、校内LANの設計と設置を計画している。大規模なネットデイは実現しないであろう。無線LANを利用した、小規模ネットワークである。
(教育家庭新聞2000年1月29日号)