ネットワーク技術者の養成へ

大阪工業大学
シスコアカデミーの活用

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 大阪工業大学の情報科学部は、3年前に新設されたばかりで、その大半を男子学生が占める。国会議事堂にも似た牧方キャンパスは、いまだ新しく、来春初めての卒業生を送り出すことになる。
 その情報学部で情報システム学科を受け持つ山内雪路先生は、この春から、日本シスコシステムズ社が進めている、ネットワーク技術者の養成を目的としたカリキュラムである「シスコネットワーキングアカデミー」を導入している。
 シスコネットワーキングアカデミーは、ネットワーク技術者が不足する中、社会に貢献できる人材を一人でも多く育成することが目的。カリキュラムの特徴として、テキストがWWWのブラウザで閲覧できるようになっており、グラフィックや音声などを使用しているのでわかりやすい。各章末には対話形式で答える練習問題があり、教師からの一方的な説明だけでなく自主的な学習がサポートされる。またルータやスイッチなどネットワーク機器を使った演習が多く盛り込まれているので、実践的な知識や技術を身に付けることができる。

 「本来ならネットワーキングアカデミーを、正課の授業に組み入れていきたいのですが、とりあえず学生の反応を確かめる意味もあり、受講希望の強い4年生20名を対象として今春、自主講座のような形でスタートしました。さらに7月の初めからは、全学年を対象に第2期の受講生をWeb上で募り、夏休みにセミナーを進めています。」と山内先生。
 「このセミナープログラムの導入は、大阪工業大学では単にネットワークオペレータとしてのスキルを備えた人材を育成することだけを目的としているのではなく、むしろ、このプログラムで得られる実践的な知識をベースにして、次世代のコンピュータネットワーキング技術の開発に貢献できる人材を育成するとともに、将来のネットワークエンジニアを教育できるような講師となり得る人材を育成したいと考えています。さらにインターネットの導入によってもたらされるであろう教育方法の質的変化をいちはやく経験し、また受講生に経験させる目的で本セミナープログラムを実施しています」
 現在は、山内先生が1人で教えているが、受講生の中から、講師をアシストしてくれる人材を育てていくという。
←山内雪路先生
 アカデミープログラムでは、カリキュラムを教える教員の知識とスキルを一定レベル以上に保つため、教育に携わるすべての教員に対して長時間の講師トレーニングの受講と、トレーニング終了後の講師資格の取得を義務付けている。山内先生もセメスター2までの研修を終えて、この夏にはセメスター3以降の研修を受け、秋から先のプログラムに向けての体制を整えていく。
 また技術の革新に伴い、プログラムの内容も変化していくが、その技術変化に対応できるよう、指導する先生も年に1回フォローアップトレーニングを受けて、知識をリフレッシュすることになる。
 「ネットワーキングアカデミーのカリキュラムは多くの教員の手で確認や検証がなされ、また補助教材も豊富に揃えられています。このような偏りの無いカリキュラムを元にして授業を進めることは非常に価値のあることだと思います。自分が当たり前だと思っていた方法が、違うやり方で解説されており、教員にとっても得る所の大きいものがありました」と実際に導入してみての感想を振りかえる。
 ネットワーク技術を、身につけることによって就職には、どのような影響があるのだろうか。
 「既に本アカデミーを受講し始めている生徒には、就職活動の際に、企業に対して受講したことをアピールするように勧めています。今年度は情報産業といえども採用状況は厳しいのですが、私の研究室に所属する学生の場合、アカデミーを受講した5名全員が5月半ばには全員内定を勝ち取り、他の研究室の内定状況と圧倒的な差が出ました。この結果は当初の予想をはるかに上回るもので、企業側の期待の大きさを感じます。システムインテグレーターや、ソフトハウスでもネットワークの知識が要求されるのが現状ですから、ネットワーキングアカデミーを受講しているというのは、就職活動にに大きなプラスになるようです」
 さらにネットワーキングアカデミーの利点について山内先生はこう語る。「このプログラムの良いところは、紙の上だけの勉強ではなく、実際にネットワークを構築して実践的な技術を身につけることができるところです。就職する学生だけでなく、大学院へ進学する学生に対しても、実体験の学習が自信に繋がっていく。このようなことは普通の勉強のスタイルでは身につかないと思います」
 大阪工業大学では、受講の条件をわざと厳しくして、本当に受講したいという高い意欲を持つ学生だけを募集した。そのため、受講のために必要なパソコンは各自が持参することを要求した。その結果、このアカデミーを受講するためにわざわざ中古ノートパソコンを購入して持ちこんだり、自宅のデスクトップ機を持ちこむなど、熱意を持った学生が大勢集まった。
 「普通の授業では得られない体験ができるコースですから、これからなるべく頻繁に開講していきたいと思っています。この教材の特性として、10人から20人程度の少人数の講義になるので、できるだけ多くの学生に受講する機会を与えていければと考えております。そのためには、まだ教える側のスタッフが足りないので、人数を増やして体制を整えていかなければなりません」と山内先生の取組みで、さらに発展していくことが予想される。
 「受講を進めていく途中で、このカリキュラムの足りない部分はどこなのかを見極め、足りない部分の教材作成を卒業研究として進めています。その結果を取り込んで、内容等もこれからも膨らましていく予定です」と今後の展開を語る。
 大学に入ってくる学生は、偏差値によって切られて、自分が大学に入ってから、何をやりたいのかが、よく分かっていない。しかしネットワーキングアカデミーでは、これを受講すれば何ができるのかといったゴールを明示することができ、結果的に意欲の高い学生が集まってきた。
 「コンピュータネットワークの実践的な知識を持っていると、単に仕事に役立つだけでなく、地元の学校のWebサーバーを繋いであげたりなど、地域のコミュニティにも参加できるのだと常々訴えています。ネットワーク技術を一生役立たせることのできる知識として身につけていってもらいたいと思っています」
 スタートしたばかりのネットワーキングアカデミーだが、企業と学校の、有効な繋がりにより、そして山内先生のような熱心な先生のサポートにより、これからの日本で求められるような、優秀な人材が誕生することが期待されるところである。
 情報科学部のアドレスは以下の通り。
 URL http://www.is.oit.ac.jp/

(教育家庭新聞99年8月7日)