子どもの心とからだの健康
性 感 染 病

症状乏しく気づかない病気も

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 性行為を介してヒトからヒトへ病原微生物が移る性感染症(STD)。以前は歓楽街の疾患として「花柳病」と呼ばれるなど一部の人が罹る病気とされていたが、次第に一般人にも広がるようになり名称も性病、性行為感染症、そして性感染症と変化してきた。現在は性の自由化や性風俗の変化、性の多様化などにより若者の間で急増しており、今後21世紀には爆発的に蔓延することが専門家の間で危惧されている。今回は、性や性感染症に関する治療だけでなく電話相談も随時行っている宮本町中央診療所(神奈川・川崎市)院長で、日本大学医学部講師を務める尾上泰彦氏にその実態や病気の危険性、予防方法について話しを聞いた。


−性感染症は年々増加していると言われますね。
 尾上 10数年前から若者の性感染症が急増していることは確かです。10歳代後半から性感染症が増えてきて、性行動が一番盛んな時期である20歳代をピークに30歳代、40歳代と下降する傾向にあります。

 −性感染症の急増の原因の一つに低用量ピルの解禁があるそうですが。
 尾上 これは一概に言えませんが、昨年の9月に低用量ピルが解禁され、中用量ピルに比べて副作用が少ないということから、避妊を目的に使う若者が増えています。「妊娠をしない」という安心感から性行動が増え、これに伴ない性感染症も今後、急増する可能性があります。ピルを飲んでいても性感染症を予防できるわけではありませんから、必ずコンドームを使用してほしいですね。

 −性感染症にはどのような病気があるのでしょうか。
 尾上 性感染症を代表するものにHIV感染症がありますが、その他クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖形コンジローム、トリコモナス症、梅毒、カンジダ症、毛じらみ、疥癬、B型肝炎などがあります。この中で、症状が乏しかったり、まったく症状が出ない病気が問題になっています。自分が感染していることに気づかずに相手に病気を移してしまうわけですから、これが一番困るんです。この代表的なものが、クラミジア感染症で、性感染症の中では最も数の多い病気となっています。これは、感染機会後、1〜3週間で男性は尿道炎、女性は子宮頸管炎を発症しますが、男性では少量の分泌物が出る程度で、女性に至ってはわずかなオリモノがあるくらいでほとんど症状を伴いません。

 −症状がなく、気づかないでいるとどうなるのでしょうか。
 尾上 適切な治療を受けずにいると、後で不妊症や流産の原因になってしまいます。また卵管が細くなってしまい、精子は通っても、卵子が通らなくなり、子宮外妊娠になる危険性もあります。さらに母体だけでなく分娩の際に、新生児が産道感染してしまい、肺炎や結膜炎を起こすこともあります。このようなことから、特にこれから子どもを産む10歳代、20歳代の若い世代には、十分に注意をしてほしいです。

 −その他に増えている病気はありますか?
 尾上 性器ヘルペスがあります。これは、感染後2日から1週間で発病し、男性では亀頭部や包皮に、女性では外陰部に多数の水疱ができ、これがつぶれて糜爛(ビラン)や潰瘍ができることで、歩行や排尿時に激しい痛みを感じたり、発熱することもあります。中には症状が現れないこともありますが、身体の抵抗力が低下すると再発するケースもあり、一度なると再発を繰り返すケースも多くあります。

 −性感染症において男性と女性に症状の違いはありますか。
 尾上 一般的に男性の方が、女性よりも比較的症状が出やすく、症状を伴うため病院に行くチャンスがあります。逆に女性は、症状が出ない方が多いですね。クラミジア感染症の場合、60〜70%のケースで症状がでません。症状が出なければ病院に行くチャンスすらないのです。そして、知らないうちに相手に移してしまうのです。

 −このような性感染症はコンドームをつければ予防できるのでしょうか。
 尾上 基本的に体液の交換がなければ移らないものなので、予防のためには性交渉の際、最初から最後まで必ずコンドームをつけることですね。しかし、性器だけでなく口腔内に病原体がいた場合は、口と性器や口と口の接触でも、エイズ以外の性感染症には感染する危険性があります。口による性行為にも十分に気をつけてほしいのですが、このことは、あまり知られていないようです。

 −口からの感染を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。
 尾上 口には、避妊具など病原体の侵入を防ぐバリアを付けることができませんから、安易に不特定の人と口による性交渉はしないことですね。特に風邪をひいていたり、口腔内に傷がある場合は病気が移りやすいので性交渉をしないようにしましょう。

 −病院では患者への心のケアも行っているそうですが。
 尾上 性感染症にかかると、恋人や家族に移してしまうのではないか、あるいは移してしまったのではないかという心配や、漠然と将来への不安を持つようになり、心に傷ができてしまい仕事が手につかなくなるといった患者もいるほどです。また検査をして結果が何もなくても、自分は病気にかかってしまったと思い込んでしまい悩んでいるケースもあります。そういった場合に、性感染症も他の病気と同様に完治すれば何の支障もなく生活を送ることができることを伝え、安心してもらうようにしています。一人で悩んでいないで、まずはパートナーや専門医に相談し、安心することが精神衛生上もっとも大切です。
(教育家庭新聞2000年6月10日号)