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【九州教育旅行現地視察会】
九州新幹線の全線開業で選択肢が拡大

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南九州エリアが身近に―鹿児島・宮崎・熊本を視察

 3月12日に九州新幹線が全線開業(鹿児島ルート)し、「みずほ」「さくら」「つばめ」の3種類の新幹線が九州内を走行している。みずほとさくら(一部)は、新大阪から鹿児島中央間を直通運行し、新大阪から鹿児島中央まで最速3時間45分、熊本までは最速2時間59分と、関西・中国エリアからも九州が身近になり、一般旅行のみならず、修学旅行の選択肢が増えるだろう。そこで、実際に関西・中国エリアの教員を対象に「九州教育旅行現地視察会」を実施し、鹿児島県・宮崎県・熊本県の3県を視察。「教育」の視点から九州の新たな魅力に迫った。(主催/九州観光推進機構、企画・協力/教育家庭新聞社)

鹿児島 特攻隊の思いと願い 手紙や語り部に学ぶ 

九州教育旅行現地視察会
戦闘機の前で講和する語り部の
言葉の重みを実感

 「さくら」で新大阪駅を午前8時59分に出発し、車内で昼食の弁当を食べて間もなく、午後1時09分には鹿児島中央駅に到着した。そこからバスで約1時間、最初の目的地は武家屋敷、茶畑が美しい静かな町・南九州市知覧町を目指す。

【知覧特攻平和会館】太平洋戦争末期、知覧は特別攻撃隊員の陸軍最南端基地で、沖縄を目指し1036名が若い命を失った。そのような経緯から、慰霊に努め、当時の真の姿・遺品・記録を後世に残し恒久の平和を祈念することを目的に、飛行場跡地に建設された。

  学習のポイントはまず講和だ。地元出身で元整備員、元自衛官などの語り部5名が、歴史背景や隊員の遺書・手紙等の特色を約30分間話してくれるので、その後、遺影・遺書・手紙や実物の戦闘機を自由に見学するのが望ましい。視聴覚教材も充実し、遺書等は現代語訳を見ることもできる。

  少し大きな軍服姿の写真や、母親宛のメッセージが多いことから、その多くは、少年兵だったことが伺える。一行が入館して間もなく、講和が始まった。語り部が静かにこう言った。「特攻隊は"決死隊"ではなく"必死隊"だったのです」と。修学旅行生の心にも、きっと何かが伝わるはずだ。

九州教育旅行現地視察会
カンパチの餌やり体験は桜島が見える
絶好のロケーション

【垂水漁業体験】鹿児島市内へ戻り、鴨池港からフェリーで錦江湾を渡り約40分で垂水港へ到着。カンパチの養殖が盛んな垂水市は、かごしまのさかなブランドに認定されているカンパチ「海の桜勘」を養殖。平成21年度より、垂水市漁業協同組合が、修学旅行の体験学習を受け付けており、今年度は14校が訪れる予定だ。受入れ規模は約180名で、船でいけすまで近づき餌やりを行う体験と、カンパチさばき体験の2コースを交代で行い、最後には、とれたてのカンパチで寿司を握りそれを食事にする。

  この日は船に乗り、カンパチへの餌やりを体験。水温が低く餌への食いつきはまだまだだったが、水温が高くなる初夏には魚が飛び跳ねる。錦江湾は波が穏やかで、船酔いもほとんどしないので、海が身近ではない県の子どもたちには、おすすめの体験だろう。

  その後、桜島の溶岩道路を経由し桜島フェリーで鹿児島市内へ。ゴツゴツした岩肌を見ながら走る溶岩道路は、火山と島民とが共生している姿を垣間見ることができ、目に入る全てが環境教育の素材となるだろう。

  また、農林水産業が盛んな鹿児島県では、出水市、さつま町、薩摩川内市、鹿児島市、垂水市、日置市、南さつま市、南九州市、枕崎市と広範囲で民泊の受入れを実施しており、多様な修学旅行の可能性がある。

宮崎 神話の里・高千穂で自然の神秘を知る

高千穂峡は阿蘇残の噴火と深く関係。
美しい柱状節理が見ごとだ(上)
八百万の神が集まったとされる
「天安河原」は神秘的な空気が漂う。(下)
九州教育旅行現地視察会

 鹿児島市内から九州自動車道を経由し、宮崎県県北に位置する山々に囲まれた神話の里・高千穂町を目指す。

【高千穂峡】太古の昔に、阿蘇火山活動で噴出した溶岩流が急激に冷却されたため、目を見張る柱状節理が訪れた者の足を止める。高さ約70メートルの「仙人の屏風岩」付近は昭和9年に「名勝天然記念物」に指定された。最大の見どころは、日本滝100選に指定されている「真名井の滝」で、ボートで近くに行くこともできる。これらの渓谷美は、理科の学習と結びつけることも可能だ。

【高千穂神社・天岩戸神社・天安河原】垂仁天皇時代に創建されたと伝えられ、高千穂八十八社の総社である「高千穂神社」は、平成16年には本殿が国の重要文化財に指定された。日本神話で知られる天照大御神が、弟の荒ぶる神・須佐之男命の乱暴に耐えかねて隠れたとされる天岩戸伝説を伝える「天岩戸神社」は、神職の案内のもと、西本宮にある神域の天岩屋戸を拝むこともできる。

  そこから岩戸川に沿って10分程歩くと、天照大御神が天岩戸にこもった際に、八百万の神が集まり相談した場所と言われる「天安河原」がある。奥行きが25メートルある大きな洞窟で、願い事が叶うとされている。

  これら案内は、町の観光ガイドがバスに乗車しながら説明することもでき、昨年、埼玉県内の高校が同様のコースで高千穂町を巡った。

  また、この町ではあらゆる世代の町民が特別な神事としている「夜神楽」がある。全国に多数ある神楽の中で国の重要無形民俗文化財に指定されている20余りの神楽のうち、夜神楽として指定されているのはここだけ。高千穂神社の神楽殿で毎晩8時から夜神楽を見せているが、修学旅行生などの団体向けに、特別に舞うこともある。

  また、宮崎県は、日照時間と快晴日数が全国のトップクラスを誇るため、天候に左右されることが少ないというメリットがある。従来から力を入れているマリン体験に加えて、近年は食育、エコ学習にも力を入れている。

  特にエコ学習は、今後の日本のエネルギーについて考える場所として相応しいだろう。宮崎大学で受講する太陽光発電の授業は、大学生活をミニ体験する機会にもなる。今後世界最大級のソーラーパネル工場の見学や、都農町にあるメガソーラー見学などの新しい訪問地が整っていく。

熊本 難攻不落の名城で 歴史・文化を学習

九州教育旅行現地視察会
熊本城はボランティアガイドの
案内で効率よく

【阿蘇山火口・阿蘇火山博物館】高千穂町から約1時間で、平成21年10月に日本ジオパークに登録・認定された阿蘇カルデラ地域へ到着。ロープウェイで中岳火口を目指すが、悪天候のため「阿蘇火山博物館」のマルチホールで約15分の映像を見て広大な阿蘇をイメージし、館内を見学。

  展示は阿蘇の生物、歴史、民俗までにも及び、火口カメラ操作体験コーナーでは、今の火口が見られる。この日は濃霧で見られなかったが、火口から聞こえるジェット音のような音が、活火山を物語っていた。修学旅行向けに、阿蘇ジオツアーも実施している。

  2日目は阿蘇に宿泊し、翌朝バスで約1時間の熊本市内へ向かう。

【熊本城・本丸御殿】加藤清正によって創建された「熊本城」は、西南戦争で消失したものの、昭和35年に大天守と小天守を復元。石垣は、武者返し忍び返しなどが多用され、難攻不落の堅固な作りが有名だ。西南戦争の戦火にも耐えた「宇土櫓」は、国指定重要文化財に指定され、築城時の趣と構造が見られる。

九州教育旅行現地視察会
阿蘇火口の見学が不可の際は
阿蘇火口博物館で学習できる

  そして、5年の歳月をかけ平成20年に完成した「本丸御殿」を見学。大広間の地下に広がる「闇り(くらがり)通路」は、他に例をみない地下通路。石垣の上に直接配置された巨大な赤松の梁、ケヤキの柱は圧巻だ。中では復元作業の映像が流れているが、参加者は「この映像を子どもたちに見せたい」と話すほどで、復元プロジェクトの壮大さがここだけでも伝わってくる。

  さらに全員が声をあげたのが『昭君之間』。『昭君』=『将軍』とも言われ、金箔を重ねた障壁画は豪華絢爛そのもの。

  これらの案内をしてくれるのが、『くまもとよかとこ案内人の会 熊本観光ボランティアガイド』。少人数に1名が付いてくれるので、360名規模まで対応が可能。修学旅行生は、無料で受け入れている。この日は、年間数十校に案内している河野寿美さんが、熊本の方言を交えて説明。地元住民との交流の場ともなるだろう。

九州教育旅行現地視察会
本丸御殿は5年の歳月をかけて復元した

【桜の馬場 城彩苑】3月にオープンしたばかり。ここには、『歴史文化体験施設 湧々座』と飲食物販施設『桜の小路』がある。湧々座1階では、加藤清正の肥後入国から西南戦争まで、熊本の歴史と城下町をわかりやすく体験でき、2階には約10分の映像で熊本城から広がる歴史をドラマ仕立てで見られる。1階の熊本城バーチャルリアリティ映像と併せてみることで、熊本城に入る事前学習ともなるだろう。

  帰路は、「さくら」で午後3時24分に熊本駅を出発、6時44分に新大阪に到着した。

 

 

 

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【2011年4月18日号】

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