KKS Web News
TOP本紙主催後援セミナー第6回私学経営セミナー開催報告


 

第6回私学経営セミナー開催報告
 
教育改革の潮流と私学経営」

 

 

 

第6回私学経営セミナー写真

 11月2日、東京都文京シビックセンターにて「第6回私学経営セミナー」が実施された。今回のテーマは「教育改革の潮流と私学経営」。会場には私学の教頭・校長・理事長らが参集した。

「公立小中学校一貫校の試み 現状と今後の展開」
東京都品川区教育長 若月秀夫氏

  東京都品川区では小中一貫校の実施、小学校での教科担任制の導入、学校評価委員会の設置など数々の施策を打ち出し、率先した教育改革を行っており、その成果が注目されている。

 若月教育長は「これまでの教育改革は、新しい酒を古い皮袋に保存するに似ていた。教育を変えるためには、何を使いどんな指導計画で実施するのか、という新しい『入れ物』が必要」と指摘、指導内容や教材、方法、指導形態という「新しい中味」を定着・継続していくためには「外部評価者制度、学校選択性や小中一貫校の試み、成果型学校経営」という「新しい器」が必要であり、それらを確固たるものとするために「9年生の義務教育」を実施している、と述べる。
「9年制の義務教育は、構造改革特区で実施している。国の制度が終わらないうちに法改正を目指す」。

小中連携という9年間義務教育制度で起こった変化
 「教育委員会と管理職、現場教員の間に、いつの間にか心理的乖離が生じている。教育改革は常にひとつ鍋の中でごった煮状態だ。それが現場教員に当事者意識をなくしている理由のひとつ。そこを回避するための施策を品川区は行っていく」。

“成果を上げなければ異動できない”仕組みも、品川区ならではのもの。また、品川区では学習指導要領を読み込み、区独自の指導要領を作成。その際には私学のカリキュラムも参考にした。読み書きや計算は徹底的に反復練習、事実上指導要領の学習時間を大幅に上回っている。「繰り返し学習を行っていくカリキュラムとした。それができるのは中高一貫教育だからこそ。9年間で人間形成行い、基礎学力をじっくりと確実に定着させていきたい」。
 品川区では3小学校と1中学校の算数・数学で小中連携を開始、若月氏はそこで起こった様々な変化は興味深い。

 「小中連携では、ある小学校から来る生徒だけが『関数』の力が弱かった。それについて中学校が指摘すると、小学校教員からは『小学校教員は全教科を見る必要があり、数学ばかり取り組むことは不可能だ。小学校の欠点をあげつらうのが連携なのか』と当初、大変な反発を受けた。しかしその後の合同研修会では、小学校から『これまで、今行っている勉強がどう中学校につながっていくのか考えていなかった。今回の連携で視野が拡がった』、中学校からは『これまで小学校を責める気持ちが強かったが、小学生と関わる中で、小学校の先生の授業技術の高さを学んだ。

子どもたちを授業の魅力で引き付ける力こそ、中学校には足りないこと』と、初めて子どもらを通じ教育を通じ『連携』が生まれた。また、『ここで得た学びは大きい。算数・数学の連携だけでは勿体無い』という意見さえ出た。子どもたちのために本気で喧嘩し、それを乗り越えるのが連携の醍醐味」と経緯を述べた。 小中一貫カリキュラムの特色ある活動のひとつとして企業と連携し、体験活動できる「スチューデント・シティ」と「ファイナンス・パーク」を開設。これは小学校内の余裕教室に、実際に近い企業店舗を再現し、経済活動を体験学習できる街だ。
 
 小学校5年生時に「市民科」の中で実施、職業観意識の育成を図っている。協賛企業としてcitibank、セコム、NTT東日本、富士ゼロックス、共同通信社、セブン・イレブン、ミズノスポーツ、品川区役所、SONY、日本IBMなど9企業が出展している。 http://www2.city.shinagawa.tokyo.jp/jigyo/06/sidouka/ikkan/student/stdc_top.html

「これからの教育改革について」
文部科学省大臣官房審議官・初等中等教育担当 布村幸彦氏
 ▲未履修問題
 高等学校の未履修問題が今教育界のトピックとなっている。文部科学省大臣官房審議官・初等中等教育担当の布村幸彦氏は、未履修問題における文科省としての対応について述べた。

 文科省では、この1週間で現状を把握、対処方針を固め、さきほど各教委に通知をしたばかり。国公私立あわせ全国5406校の高校のうち540校と、約10%の学校で未履修が行われている。うち公立は314校、私立は226校。現在の高校3年生8万3743名のうち約73%にあたる6万1342名が70時間以下、多くて10単位の未履修となっており、現状で340コマの補習が必要となる。傾向としては、地理歴史の未履修や不足、教科「情報」の未開設などから未履修となっているケースが多い。

 単位の認定には3分の2以上の出席が必要であることから、70単位不足している場合は50単位の補習で単位認定する。また、未履修が70単位を超える生徒に関しては、科目の特性により、レポート提出などでも可能にするなど、年度末までに適宜対応することとしている。なお、卒業生の未履修に関しては、卒業の認定は取り消さない方向だ。

  なお、11月現在各大学で推薦入試が行われているが、未履修の生徒に関する推薦入試に関しては、調査書には未履修として記載するよう指導、あわせて大学側に対し当該生徒が不利益にならない配慮を求めている。 11月2日通達 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/11/06110220.htm
▲学力向上
  OECDのPISA調査で、日本の子どもらの「学ぶ意欲」の低下が裏付けられたと言われている。文科省では、平成19年4月24日、国語・算数または数学で学力テストを実施する。併せて家庭環境の調査も行い、どこに指導の力点を置くべきかを探る。各結果は各校に戻すが、市町村名は出さずに公表もされる。 学習指導要領改善の方向性として「生きる力」の育成や「社会性、社会的自立、国際社会に生きる日本人としての資質の育成」、「授業時数の在り方及び学校間の連携」が上げられている。

 小学校英語については5、6年生で週1時間程度で検討中だ。また、特に国語科や理数系の充実を目的とし、授業時数の増加も検討中。「これらの施策は教育基本法の改正が前提。できるだけ早期に指導要領の改訂を進めたい」と述べた。
▲学校評価
「目標の設定と評価は国の仕事。現在、自己評価・自己点検のレベルでは小学校の約9割が実施しているが、そのうち公表している学校は5割程度と、バラつきのある状態。学校評価のガイドラインについては既に3月に出されている。http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/03/06032817.htm

 今後、第三者評価の試みとして1泊2日または2泊3日程度で学校活動を見て評価、検証していく予定だ。

「私立学校の魅力を作る−麻布学園の取組み」
麻布中学校・麻布高等学校校長 氷上信廣氏
   麻布学園では、教員の意欲と能力を最大限引き出すような校務運営体制をとっているという。最高決議機関は職員会議であり、校長の拒否権はあるが職員会議の決定は最大限尊重される。教科会や校務分掌の会議は時間割の中に組み込まれ、議論の機会が保障されている。

 職員の新規採用も各教科が責任を持って行う。これは「自分たちの仲間を自分たちが決めた」ことで、若い教師を教科全体で支える意識を持つのに有効な手段だと校長は述べる。

 また、3年前より土曜の2・3時限を使い、40ほどの講座を設け「特別授業」を実施。1学期8回で完結する内容で、中3から高2まで、約900人の必修選択として「総合」の単位となっている。教員の自発性を授業で生かすという精神はここでも生かされているという。また、この授業は麻布校のOBも担当している。


「学習塾から見た魅力ある私立学校教育」
ワオネット社長 和田勝氏
  ワオネットでは能力開発センター及び個別学習塾Axioを運営、全国32県に向け様々な年代へ、様々な形式の教育提供を行っている。
 
 能力開発センターの受験状況は、2006年のサンデー毎日によると「関西2位の合格力」にランクされた。塾は今、様々な層が通ってきており、ニーズが多様化しているという。そこでワオネットでは、どの先生がどの教室で何人の生徒に教えているのかがリアルタイムで分かるシステムを整備。誰からいつどんな電話が入ったのかもチェックできる「個別」対応のためのシステムだという。

 また、教員研修にも力を入れている。先生は毎年大学入試問題を受験、一定の点数が取れないと授業できない。各項目15分程度で見ることができる「教授法」もWEB上に容易した。

 能力開発センターの指導者アンケートによる「勧めたい私学」の基準は、「校風」「教育方針」「大学合格実績」「カリキュラム」がポイントとなる。また、追記には、入り易さと進学実績のバランスのとれた学校であること、従来の学校からの体質改善に件名であること、先生方が熱心であること、予備校並の特待生制度などが上げられている。

 具体的なビジョンの例として、「どのような方でも結構です」「大学合格実績だけを目安に選ぶならば他校をお勧めします」という明確な「自信」が感じられる学校、「補佐ではなく自分たちが主役の女子校です」と、女子校の意義を明確に伸ばす教育を分かりやすく説明している例をあげた。それに対し、望む生徒像・育成すべき生徒像などについて「積極的に何事にもチャレンジする生徒」「女性としての特性を伸ばす」「難関大への実績を年々伸ばしている」などは「建前」になりがちで魅力的には映りにくい、と述べた。    

第6回私学経営セミナー募集内容はこちら (申込受付終了)