それぞれの時代を反映する若者言葉
束縛や規範からの開放の視点
今日の若者ことばはどのように発生し、どんな背景で広まっているのだろうか。
若者ことばについて多くの研究、著書を持つ梅花女子大学の米川明彦教授は、その著書「現代若者ことば考」(丸善出版事業部、「若者ことば辞典」(東京堂出版)の中で、若者ことばは「個人がさまざまな束縛や規範から解放され自由になった日本の近代化の中で生み出された」と分析。明治時代以降、それぞれの時代の制約の中で特徴的にみられるという。
明治時代、寮生から生まれた学生語「コンパ」「万年床」などは、今日でも定着している。文末に「てよ」「だわ」をつける「てよだわ」ことばはそれまで下町や芸妓のことば、はすっぱなことばと非難されていたが、明治後期に女学生一般に広まった。当時は武家の女性ことばからおてんば娘のことばを好んで女子学生が使ったことになる。さらに男子学生の「君」「僕」などを使用、新聞・雑誌で批判されていた。
こうしてみると若者ことばはその時々の大人社会からは、「反秩序」「反社会」としていつの時代も批判の対象であったことが分かる。特に束縛の多い女性には、その反発から生まれることばも多かったようだ。
最近の若者ことばの特徴について、女子のことばがリード役となっていると米川氏は分析する。それは一九七〇年代の男子学生中心の学生運動が失敗に終わり「しらけ」が流行語となったのに代わり、世間の注目を集めたウーマンリブに代表されるという。
続く八〇年代の特徴は、若者が消費ターゲットで特にOLや女子大生がモテはやされた社会背景があり、彼女たちの明るくおしゃべりで「ノリ」を最重視したことばの流行。同時にことば遊びであるため意味の軽量化、曖昧化、省略化や変形など、今日の若者ことばの原形がある。
マスコミが生み出したコギャル語
続けて米川氏の分析による九〇年代の若者ことばの特徴をみると|。
「八〇年代に進んだ会話の『ノリ』を楽しむことが低年齢かして『コギャル』と呼ばれる女子高生にまで広がり、彼女たちが若者語の話題提供者になった。マスコミは競って『コギャル語』を伝えている(中略)一九九六年はいほゆる『コギャル語』がマスコミによって広められた一年だった。この『コギャル語』は若者語の中でも特殊であり、『悪ノリ』のことばと言える」
米川氏は若者ことばと「コギャル語」とに、明らかな一線を画している。それは「彼女たちの仲間集団は小さいために、ますます自分たちでしか通じない暗号のような語を造り出している」ため。その例が「チョベリバ」(チョーベリーバッドの略)や「MM」(本欄左)など。そして『悪ノリ』の言葉だと指摘する理由は、次の三点。
@「過激な行動をする東京の一部女子高生が、その仲間内で、仲間であることを確認し連帯を求めるために使っている。極端な省略と暗号化」
A「彼女たちを利用するマスコミ男性たちのために、より『コギャル語』らしくサービスしてしゃべっている」
B「テレクラや援助交際などに関する情報を通じて、大人の男性(自分の父親くらいの年齢)の陰の姿を知り、冷めた目で世の中を見、人をくった発言をしている」
大人社会を反映
明治の時代から、若者ことばが既成概念や良識への一つの抵抗として生まれた、という共通項がある。その時代時代の、大人社会が常に鏡として映し出されている。
しかし一九八〇年代以降の若者ことばと「コギャル語」の流行は、その背景にマスコミや電話など通信手段の発達という、それ依然とは違った時代性がある。そして最も反省しなくてはいけないのは、テレクラや援助交際に代表される、コギャル達の悪ノリを助長、もてはやすような大人達の社会ではないか。