学校給食衛生管理の現状

衛生管理体制にレベル差 ドライ、手洗い、温度管理の徹底を

(財)東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
所長 伊藤 武氏


 文部科学省では、平成9年度から「学校給食における衛生管理の改善に関する調査研究協力者会議」を組織し、専門家らによる現場での指導を続けてきました。その結果、平成9年度は10件、10年度は7件、11年度は10件、そして昨年度においては4件と、学校給食を原因とする食中毒は大幅な減少傾向にあります。日本の食中毒の現状は変っておらず、増加傾向にあったものが現在やや横ばい状態にあります。そんな中、学校給食だけが減少してきたことは、現場への直接指導による成果であり、衛生管理に対する意識の向上によるものだといえます。
 また、文部科学省が調べに行くということで、調理場に緊張感をもたらせることもできたと思います。また事故が起きた場合には必ず調査に入ることになっていることも、現場に緊張感が生まれているのでしょう。O157集団食中毒事件以来徹底して行われるようになった100以上の衛生管理チェックポイントについても初めは否定的な声が多かったのですが、続けていく上でチェックすることが当たり前になり、日常の行動になってきました。
 しかし、学校給食の衛生管理状態はまだ完全な状態にあるとはいえません。とても高レベルな衛生管理をやっている学校と、まだ高いレベルには達していない学校、さらに平成8年度の状況のままの極めて低い学校と3段階に分かれている傾向にあります。高レベルな衛生管理を実施している調理場が多くなれば、より改善されていくのだと思います。
 文部科学省では今年度も同調査を続行しますが、この調査は当面続けていった方がよいと思います。調査は単に現場を見るだけではなく、それを行うことで非常に教育効果が高い。衛生管理というのは、現場の学校栄養職員や調理員に対する衛生教育であるといえます。またこれでいいという基準はなく、ある程度までいけばそれ以上を目指し、最終の目標は食中毒ゼロになることです。ゼロになっていないということは、まだまだバージョンアップしていかなければならないということでしょう。

今年気をつける菌

 学校給食では過去において、O157が非常に多く、サルモネラ、カンピロバクターも多かったのですが、それらがある程度減少してきました。特にO157は学校では完全に制御されています。逆にあまり知られていなかった小型球形ウイルス(SRSV)が毎年発生するようになり、さらにヒスタミンによる中毒も増えてきています。
 小型球形ウイルスの多くは二枚貝から感染すると言われていますが、学校給食で発生している全ての事例で原因が分かっていません。これは人から人へ移る菌であるため、学校内では学校給食以外の形で発生している場合があります。家庭の食事等によって感染した児童が教室で嘔吐すると、空気中にウイルスが飛び散り、他の児童が感染してしまうのです。また調理員が保菌していて調理過程中に食材に移る場合も考えられますが、この場合は調理員の手洗い、健康管理の徹底により防ぐことができるでしょう。
 ヒスタミンはマグロが多いのですが、捕獲から流通、加工、調理過程そのいずれかで温度管理が悪いと菌が増えてしまいます。納入前の魚の温度管理がどうなっているかということまで全体のチェックが必要になってきます。学校では検収を適切に行うことはさることながら納入までの過程も把握し、業者に対して温度管理の徹底等の要望を出すことが必要です。
 O157、サルモネラ、カンピロバクター、小型球形ウイルスなど病原微生物による食品汚染が進んでおり、まだまだ油断すれば食中毒が発生する危険性が高いわけです。食中毒予防に対しては、まずドライの徹底。ウエットの調理場でも十分にドライ化はできるはずです。さらに手洗いや、温度管理等を徹底し、細心の注意を払って調理を行えば、衛生管理は非常によくなってくるでしょう。
 (文部科学省「学校給食における衛生管理の改善に関する調査研究協力者会議」委員)

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(2001年6月9日号より)