教育家庭新聞・教育マルチメディア新聞
TOP教育マルチメディアニュース   バックナンバー
教育マルチメディアニュース
新学習指導要領とICT

新学習指導要領 移行措置は平成21から

 

 平成23年度から施行される新学習指導要領の審議のまとめが11月9日公表された。「審議まとめ」は、次代を担う子どもたちの主要能力(キー・コンピテンシー)「生きる力」をはぐくむことを目的とし、外国語活動や古典学習、言語活動などあらゆる視点から「生きる力をはぐくむ」教育実現に向けた方策が考えられている。

  また、知識の習得、活用は主として「教科」で担い、探究は主として「総合的な学習の時間」で担うという各教科と総合的な学習の時間との役割分担が明確になり、「総合」と「各教科」の連携が図りやすくなった。教育課程部会では引き続き審議を進め、1月中に中教審として答申を取りまとめ、小・中学校については今年度内の改訂を目指すこととしている。

なお渡海文部科学大臣は「平成23年度以前に先行して実施できるものについては、平成21年度からは「移行措置」に入ることを踏まえ、平成21年度から実施したい」旨述べている。文部科学省では、平成20年度に新しい学習指導要領について十分な周知を集中的に図った上で、平成21年度から「移行措置」に入ることが検討されている。特に今回の改訂では授業時数や教育内容を増加する教科があり、「移行措置」期間中に必要に応じ内容を追加して指導することを検討する必要があるとしている。

 今回の『生きる力』は深化している
 中教審委員・角田元良氏(聖徳大学)

 今回の『生きる力』は深化している。
 今回の「審議まとめ」では、「生きる力」を子どもに身に付けさせるにはどんな能力をどのように付けるか、その方策が明らかになってきている。

  OECDなどの国際的な研究成果からも、習得した知識を活用して主要な能力(キー・コンピテンシー)である思考力・判断力・表現力を身に付け探究させることが『生きる力』の育成につながる、と理論的に裏付けられた。表現力・コミュニケーション能力は、国語科を中核としながらも、全ての教科で養うべき能力であることが明示された。

  今回の「審議のまとめ」で、もう一つ注目すべき点は、条件整備をきちんと求めている点。このことは、教師が子どもと向き合う時間を確保し、どの子にも、きめ細かな指導をするための必要条件であり、「生きる力の共有」を担保するものでもある。

  国と、設置者である地方自治体の首長や人事権を持つ教育委員会等は、これを重く受け止め反映するとともに、税金を納めている我々国民も、その成り行きを厳しく監視し、その結果を検証していかなければいけない。

 審議まとめパブリックコメント1140件
 「生きる力」はぐくむ「理念」評価 
  新教科「科学と人間生活」

 中央教育審議会では「教育課程部会における審議のまとめ」を公表、パブリックコメントを募集した。コメントは郵便、FAX、電子メールなどを含め、1140件寄せられた。うち898件が電子メールによるもの。また、教職員からは約6割弱にあたる655件の意見・コメントが寄せられた。

  パブリックコメントの内容について、文部科学省教育課程部会の報告によると、学習指導要領改訂の基本的な考え方(「生きる力」をはぐくむという理念の継承等)については、賛成の意見が多かった。また、教員からは、現行の学習指導要領で理念が実現しなかった原因について様々な見解が指摘された。

  理数や国語等の授業時数の増加については、賛成との意見のほか、単に授業時数を増やすだけではただちに学力向上にはつながらず、教育内容や指導方法の改善・充実、条件整備が必要との指摘があった。

  総合的な学習の時間については、時数を縮減しつつ内容の充実を図るべき、廃止することも一方策、成果を見極めるべき、現行の授業時数を維持すべきなど様々な意見があったが、特に条件整備の必要性の指摘が多かった。

  中学校の選択教科については、廃止すべきとの意見と総合的な学習の時間の一部を学校の判断で充てることを可能にすべきとの意見の双方があった。

  小学校における外国語活動(仮称)の導入については、条件整備の必要性を指摘しつつ賛成する意見が多かった。
  高等学校の必履修科目の在り方については、地理歴史及び理科において、様々な立場からの意見があった。また、理科の新科目「科学と人間生活」に対する期待を指摘する意見が出された。

  道徳教育の教育課程上の在り方については、教科化すべきとの意見、現行の位置づけを前提に地に足のついた取組みを進める必要があるとの意見、社会がきちんと模範を示す必要があるとの意見があった。

 ―― コメントから
  「日本はもっと科学力を強化する必要があるにもかかわらず一般の興味は離れていく一方。そこで、『科学と人間生活』は今の時代最も必要な科目。国際問題(宇宙、石油、エネルギー)、国内問題(防衛、経済)などのニュースを中心に、基礎教科とはまた違った角度で世の中を見るようなものにすべき」

  「教科学習の授業時数を増加させるとしているが、必要性を唱えるだけでは実効性あるものにはならず、授業時数だけが増えてますます子どもたちの『ゆとり』は奪われることになる。課題追究型の学習にとって、それを支える体制作りが不可欠であり、単に授業時数を増やすのではなく、30人以下学級の実現等の条件整備を優先すべき」

  「小中学校の教諭の残業が増加しており、子どもたちの指導に直接かかわる業務以外の業務に多くの時間が割かれている実態が明らかになっている。今現場に必要なのは、真にゆとりがあって、子どもたちが楽しく学べる環境。教職員にゆとりがなければ、どんな素晴らしい提言も意味がない」

  「根本的な入試(卒業)制度の改革がなければ、学校教育の質も、保護者の意識も、企業の採用方針も旧態然とした状況を変えることは困難」

 IICT環境整備で事務効率化を
 経団連が意見書
 教育投資効果訴え

 社団法人日本経済団体連合会教育問題委員会は12月5日、教育課程部会における審議のまとめに対するコメントを中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会へ提出した。

  それによると、「教育現場が、子どもたちの理解や地域や保護者の期待を踏まえた授業の質の向上に取り組むためには、学校や教員の創意工夫を促す環境整備が不可欠」「人事、予算、学級編成、教育課程の編成などに関する学校(校長)、市区町村教育委員会の権限を拡大すべき」であるとし、「国・教育委員会は、教育現場が抱える問題を専門的見地から助言・支援するとともに、教員の指導力や校長のマネジメント力向上に向けた研修、先進的な教育実践の普及などの取り組みを強化すべき」と述べている。

  また、「教育投資の拡大については、教育界がその質の向上や予算執行の効率化に最大限の努力を傾けることが大前提」とし、「教員一人当たりの年間授業時数は主要先進国に比して少ないにもかかわらず、子どもたちと向き合う時間の確保が難しい」現状から、「事務処理にかかわる教員の業務軽減、ICT環境整備による事務効率化、外部専門家の活用などを進め、教員の指導力や授業の質の向上への努力を支援」が重要としている。

  各論については「『ものづくり』については、理科、算数(数学)との関係も切り離すことができない」「ものづくりの土台となる理科、算数(数学)と連携した教育の推進」の記述を追加すべき」「ICTに関しては、『活用』を中心に述べられているが、『インターネットの仕組み等を分かりやすく教えることが、ICTに対する興味・関心を深めることや、ICTの光と影を理解させるために重要』である旨を記述すべき」としている。

 「教育条件の整備」に反響
 「教師が子どもと向き合う時間」確保のために

 新学習指導要領には多くの課題が盛り込まれている。「審議まとめ」には、「教師が子どもたちと向き合う時間を確保」するために、教職員配置、設備、教科書・教材、ICT環境の整備も含めた学校の施設など「教育条件の整備」が必要、としている。各関連団体からは「教育条件の整備」について期待が込められたコメントが多くあった。

◇   ◇

▽全国公立学校教頭会「今回よい方向に舵を切ったと思うが、この方向を推進するためには、教員数の増などの条件整備が不可欠」

▽全国公立小中学校事務職員研究会「教育条件の整備が重要であることが盛り込まれたことは画期的。学校マネジメント機能の強化のための事務職員の定数改善、学校での内部委任等の事務処理体制の強化、武道の必修化にともなう指導者の確保や施設の整備等の条件整備が必要」

▽全国公立高等学校事務職員協会「教科の指導の充実や事務処理の効率化のため、教員一人に一台のコンピュータを整備することが必要」「事務職員が教育課程の編成に携われるような能力の育成が必要であり、教員が参加するマネジメント研修に事務職員が参加できるようにすべき」

▽日本商工会議所「ICTを活用した授業は効果的。教員のICT活用能力の向上や学校のICT環境の整備を推進すべき」「教員の事務負担の軽減を図り、自己研鑽の時間を確保すべき」

▽全国連合小学校長会「少子化が進んでいるものの教員は諸課題の対応に追われ、児童と十分に関わる時間を確保しにくい状況にある。一人一人に対しきめ細かな教育を行うためには条件整備が必要」「全国学力・学習状況調査の活用については実施上の課題を分析し、その必要性や方法を常に見直すことが必要」「体験的な活動」は大切であるが、各学校により条件が異なるので、条件整備が必要」
▽財団法人全国高等学校体育連盟「教師の事務負担軽減を中心とした教育条件の整備が必要」

 PISA2006と新学習指導要領
 「科学への興味関心」早急な対応必要

 OECD生徒の学習到達度調査(PISA2006)の結果が全世界で同時発表された。渡海文部科学大臣はこれについて「順位が下がったのは残念。成績の問題もあるが、1番気になったところは科学に対する子どもの関心が低下しているという結果」「学習指導要領が決まれば、できるだけ速やかにやれることからやるべき。今回のPISAの結果も踏まえ、どこからやれるのか、またどこがやれるのか、スピーディーに検討していきたい」と述べている。

  文部科学省では「特に、今回のPISAの結果を踏まえると、先行して実施する内容としては、まずは指導内容の増加が見込まれる算数・数学、理科を対象として検討を進めていくことが必要」「基礎的・基本的な知識・技能の定着とPISA調査で重視している思考力・判断力・表現力等の育成の双方を車の両輪としてはぐくむことが重要」としている。

【2008年1月1日号】

記事のご感想をお寄せください

新聞購読お申し込みはこちら