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キャリア教育どう取り組む -8-
主体は学生 自主性活かす
−慶應義塾大学 湘南藤沢事務室 
学事担当 課長 村松夏彦氏−
 多様な人材を数多く輩出している、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス。約1万名の卒業生のうち、約4〜5%近くがベンチャー企業を起業あるいは入社しているという。同校事務室学事担当課長、村松夏彦氏にキャリアサポートに対する取組みを聞いた。

キャリア育むキャンパスライフ
 同キャンパスで就職指導を行うキャリア・デベロップメント・プログラム(CDP)オフィスの職員は同氏を含め4名と決して多い数ではない。人数的不足を補っているのは生徒の力だ。

 「内定した4年生に『情報交換会を開かないか』と声をかけると『やります』と自分たちで会を運営していく。下手に大学が絡むより学生が主体的に行うものの方が、学生を集める力があります」。

 学内には就職活動に関するサークルや、公務員試験を研究するシビルサービス研究会などがあり、内定者が自主的に後輩たちへ就職活動の苦労話や体験談を伝える、情報交換会が行われている。

 「業界研究会やエントリーシートの書き方、インターンシップの2単位認定等、学生の就職活動を支える体制もあるが、私たちの役割はあくまでサポート。保護者の方から『就職支援は何もしていないんですか』と聞かれることもあるが、本キャンパスの総意は『学生生活の充実こそがキャリアアップ』。あくまで主体は学生です。学生同士の会の中で就職情報だけでなく『学生生活の過ごし方』についても話が及ぶのは、私たちの想いが学生に浸透しているひとつの現れだと思います」。

 この「学生生活」には学科内での研究だけではなく課外活動も含まれる。

 「サークルを中心とした縦や横の人のつながりが学生一人ひとりのキャリアを育む。伝統的に、『本校の学生ならサークルに入らないと』という雰囲気があるほどです」。

 ただ、想いだけが学生に普段から学生生活の充実を意識させるものではない。そこには同キャンパスの特色のひとつであるクラスター(先端的研究領域)制が関係している。

 この仕組みでは学年制はなく、学科のように所属するものもない。総合政策系・環境情報系・複合系の3つの研究領域の中に16のクラスターがあり、研究プロジェクトは100を越える。生徒はその中から2年生から4年生までの各学期最大2つの選択が可能。大学生活を充実したものにするために、「自分は何を学びたいのか、自分に何が必要か」をしっかり見定めて、ひとつひとつの授業を自ら積み上げていく必要がある。大学生活で各自の能力が伸びるかどうかのポイントもここにある。

 「学内でのスキルや知識の積み立てといった、大学で学ぶことそのものがキャリアになるという発想です」。

 入社するための知識やテクニックではなく、入社後に仕事の現場で貴重な人材となるための自主性、専門性、多様性を育む、「学生生活の充実」こそが学生のキャリア形成につながる。それは教育現場としての大学に本来求められる姿とも言える。

【2005年12月3日号】


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