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INTERVIEW 「学校ITと確かな学力」2
学校ITは畑のこやし!?
東京大学大学院情報学環
山内 祐平 助教授

東京大学大学院情報学環 山内 祐平 助教授 「ある意味、テストで計れる成績が下がっているのは事実でしょうね。その原因に 関しては複雑で、学習指導要領の改訂が理由というのでは単純すぎるでしょう」。

 では、理由はどこにあるのか。
 「『学習』には『動機』の問題が非常に大きい。10年前、20年前と現在の子どもを比較すると、学習に対する動機の質は確実に下がっています。動機が下がれば学習の成果が低下するのは、ある意味当然。教育内容を削減する、という現在の流れは、ひとつの契機になった可能性がないわけではないが、決してすべてではない。一生懸命勉強していい企業に入っている大人でも、生き生きと働いて幸せには見えない、身近な目標となるものがない、という点も大きいと思います」

 今の時代、どうすれば子どもたちに「やる気」を与え、成果を上げることが出来るのだろう。

「方法は、ないわけではない。学力低下の処方箋を考える際、全ての子どもに同じ処方が効くわけではなくて、それぞれの子どもにきめ細かい対応が必要な時代である、という認識が必要でしょうね。例えば、全体的に動機が下がったとはいえ、非常に高い動機を持つ子もいます。そんな子どもに対しては、教科書を超える内容を学習させたり、科学者とコラボレーションを行うことも出来る。また、テストの成績がしんどい子には、個別学習システムを行うWBTなど、自分のペースでステップアップ出来るプログラムで一定の成果を上げることも出来ます。その時に活用出来るのが学校ITです」。学校ITは、多様な子どもたちに多様な方策を取る、そのために活用すべきである、と考えている。


■「20人学級」という処方箋

 しかし、多様な方法を教室内で実現させるためには、これまでひとつであった学習の流れが複線になり、教師側の授業設計の変更が必要になる。
 「40人学級で一斉に活動し、ひとりひとりの生徒を教師1人で見ることは、ほぼ不可能に近い。欧米で普及しているのは、20人に教師+α。きめ細かな指導学力を実現し、全ての学校で普通の先生が確実に出来るようにするための方策は、1クラスの人数を減らすこと。今の時代に学力を上げたいのなら、これが確実に効く。昔のシステムに戻っても、もうダメで、脱落者が多くなるだけ」。

 学校ITのインフラは整備が進んできている。これを生かすためには、システム作りが必要。コスト配分も考え直さなければならない。その1つがクラスの人数を減らすことだ。

■新しい教材や学習材を
子どもに提示するのは教師の役目


 現在進行中の、教員のIT研修については「学力向上は学習の問題なのに、現在の研修はワードやパワポの使い方止まりになっており、それをどう活用していくかが入っていない。それが致命的。教師が『こうやったら学力が伸びた』などの実践事例を持ち寄るものにしていかなければ」という感想を持つ。

 「学校ITは、テレビやビデオと同様、ひとつの新しい教材。全てのことを学校ITに置き換えれば上手くいくというわけではない。例えば100マス計算は、紙でやるべきものでしょう。でも、紙の教材を流通させるためにITを活用することは出来る。PDFをネット上に置き、誰もが印刷して使用出来るなどの流通メディアとして使っても良いんです。個人レベルでは実現していることですが、まだまだ現場レベルでのネットワークが組めていないように思います」。 フィンランドではOPEFIというプログラムがある。「教師が情報機器を普通の授業の中で使えるようにしよう」という国策で、現場の教師が助け合うプログラムを行っており、大変効果を上げているという。「現場を見学しましたが、確実に日本よりも抵抗なく授業の中でITを使っていました。新しい教材や学習材を子どもに提示するのは教師。教師のところで活用が止まってしまえばどうしようもない。学校ITを導入すれば即学力が上がる、というわけではないが、畑のこやしのようにじっくりと効いていき、最終的には学力の向上を目指していく、ということに繋がっていくでしょうね」

「ITは学力向上にどんな影響を与えるのか」
○ひとりひとりの子どもたちに応じたきめ細かいケアを可能にする
○様々な種類の教材を流すための流通チャンネルになる
○新しいネットワークが生まれる可能性があり、教師の資質向上につながる



<プロフィール>
東京大学大学院情報学環・学際情報学府助教授
主な研究領域はインターネットなどの情報メディアを利用した学習環境のデザイン・情報リテラシー教育にかかわる学習システムや授業のデザインなど


【2003年9月6日号】