教育家庭新聞・教育マルチメディア新聞
 TOP教育マルチメディアインタビュー記事         
バックナンバー
INTERVIEW 「学校ITと確かな学力」5
遠隔学習で「質」高まる
早稲田大学人間科学部学部長
野嶋栄一郎教授

メディア教育開発センター 中原淳氏 早稲田大・白井総長の命により今年4月より同大学人間科学部で開始した、社会人対象のeスクールの試みが、軌道に乗っている。授業料は通学生と同額にもかかわらず、今年の受講生は170名にものぼる。eスクール立ち上げに関わり、かつ早期よりインターネットを活用した授業や協同学習を行ってきた同学部・野嶋栄一郎学部長に、IT技術が大学生に与える影響について伺った。
 人間科学部eスクール http://e・school.human.waseda.ac.jp/

 eスクールを開始して改めて感じることは「社会人は優秀である」ということです。「私」が鍛えられているのですね。

 eスクールは、「対面授業ではないから通学生に比べ、ハンディキャップがある」と考えられ勝ちですが、これは大きな間違いです。講義は全く同じものであり、かつ、BBSにより個別の疑問に対応、議論は、リアルタイムではありませんが、24時間展開され、受講生全員が共有出来ますので、授業の中で展開する以上に、学びに広がりが生まれるのです。中には海外在住の学生もいて、かつ社会人経験のある人ばかりですから、議論の種となる経験が具体的でシビア、指摘が鋭い。活用する学生の意識次第ですが、ただ講義を受ける一斉授業よりはるかに質が高まる可能性が高い、といえます。遠隔学習により、質の高い「個別学習」と「議論」「コミュニケーション」が可能になった、と言って良いでしょう。IT技術は、「学び」の時間と空間の拡大を確実に実現する、といえます。

 また、eスクールの形式は、現在の通学制の大学教育の新しい形をも示唆しています。

 講義はネット上に既に用意されており、講義を既に受講済み、という前提で授業を行う。BBSと授業双方で議論すれば、さらに密度は濃くなります。この形式は「教員が多忙になる」という意見もありますが、講義を全て録画・e−Learning化することで、大学としての教育は増えます。1人の教員が多くの講義を受け持ち、同じ講義を毎年繰り返すのではなく、e−Learningによって裏付けられた密度の濃い講義を少なく持つことも可能になります。

 現在、eスクールでは1講義につき最低1人、院生または院修了生が「教育コーチ」としてつき、講義後のBBSでの対応を行っています。受講生にとっては専任のコーチがつき、レスポンスが早くなる点でメリットがあり、教育コーチである院生にとっては、自己の学びを鍛える場ともなり、かつ収入も得られるわけです。「コーチ」ですから、教えたり、アドバイスをする立場にあるわけですが、教えることは最大の学びの場でもありますから、質の高い学生が育つ。双方にとって大変都合の良い状況が実現しています。

「学校ITは学力にどんな影響を与えるのか」
●学習の場における時間と空間の拡大を確実に実現する
●学習の個別化の実現が可能になり、質の良い授業が可能になる
●大学としての教育資源が増える
●教育のフレキシビリティが高まる

<プロフィール>
早稲田大学第一文学部哲学科心理学専修卒業、同大学院文学研究科修士課程修了。
博士(人間科学)。
文部省国立教育研究所研究員、福井大学教育学部助教授を経、
1987年早稲田大学人間科学部助教授、1992年より現職。


【2003年12月6日号】