教育家庭新聞・教育マルチメディア新聞
 TOP教育マルチメディアインタビュー記事         
バックナンバー
INTERVIEW 「学校ITと確かな学力」6
教材の共同制作化を促進
メディア教育開発センター
吉田文教授

メディア教育開発センター 吉田文教授  「ITがあれば学力がつくというわけではありません。すべては使い方次第です」と仰る吉田文先生に、E−Learningの調査・研究を通じ見えてきたことを伺った。

 これまで教員は、当たり前のように学習課程の全てを担っていました。しかし、E−Learningによって、教員が一人で行っていた仕事の分化が明確になります。具体的には教材内容の構成・知識の提供・教材のE−Learning化・評価の4点です。まず何を教えるべきか、どうそれを構成していくかという知識分野は教員が決めざるを得ません。次に、その知識をE−Learningとして構築する人が必要です。

 また、『評価』は最後に教員が行うもの、という暗黙の前提がありましたが、E−Learningの構築を教員以外の支援者が行うとなると、・評価・もむしろ支援者のほうが評価者として適切な場合も出てきます。

 これまで区分されていなかった教員の役割が主としてこの4分野で構成されている、ということを明確にすることで、授業のどこに問題があるか、それをどうクリアにしていくかをこれまで以上に突き詰めやすくなった、とも言えます。もちろん4分野すべてを一人で行っても問題はありませんが、切り分けも可能であり、より効率的・効果的に授業の質を上げる可能性が生まれる、ということです。

 欧米では教材開発をチームでする、という思想は既に浸透しており、教材のE−Learning化を担うインストラクションデザイナーという職種が存在しており、確固とした地位が与えられています。これからは日本でも教育分野の中にインストラクションデザインを専攻する大学も必要になってくるでしょうね。

 ITを使って教育の質向上を考えるとき、特筆すべきはその「公開性」です。授業で使った教材・レポート・学生からの評価・短時間のビデオクリップ等あらゆるパーツをHP等で公開することができ、互いに分析し合い、掲示板やMLを使って議論していくことが可能になりました。

 米国のメロー(MERLOT)というコンソーシアムは、高等教育機関の授業で利用された教材をデータベース化する試みです。誰でも公開申請ができますが、採択率は約3割。これにより、公開情報は一定の質が保持されます。

 マサチューセッツ工科大学(略称MIT)では、講義で利用された教材が無償でネット上に公開されており、現在は500ほどですが、それをすべての講義に拡大していく計画を立てています。

 日本は、これまで個人プレーがメインでしたが、分析して蓄積した知識は共有できます。授業の質を上げるためにも、ITを利用した情報共有・公開研究に取り組み、それを必要とする教育環境を整えていきたいですね。

「学校ITは学力にどんな影響を与えるのか」
●ITによって授業の共有が可能になる
●教員の仕事の分化が進むことで授業の質向上の可能性が生まれる
●公開性が増すことで授業の質向上の可能性が生まれる

<プロフィール>
ITの高等教育システムに対するインパクトを研究。
わが国高等教育機関のIT利用に関するアンケート調査などを実施している。
東京大学文学部卒業・東京大学大学院教育学研究科博士課程修了(専攻・教育社会学)。


【2004年2月7日号】