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INTERVIEW 「学校ITと確かな学力」9
リアルタイムな「学校評価」が
学校を変える!
慶応義塾大学 湘南藤沢キャンパス大学院
政策・メディア研究科
金子 郁容教授
慶応義塾大学 湘南藤沢キャンパス大学院 政策・メディア研究科教授 金子郁容氏 IT・ICTを教科の中で活用する、という方針が国として進行中ですが、今回私が提唱したいのは「学校の経営・品質保証」やクラスのマネージメントを目的としたITの活用です。

 アメリカで「No Child Left Behind(1人の落ちこぼれも出さない)法」という法律が成立して2年が経ちました。州と学校が子どもの「学力」に責任を持ち、平均点による学校全体の評価ではなく、子ども1人1人の目的や能力に合わせた改善がされているかを見る、という大変画期的なものです。

 これまでの日本の教育行政においては、教員免許、学習指導要領、教科書検定による「入り口」管理が主でした。学習指導要領があっても、それを理解できない子どもたくさんいて、それをきちんと教えられない教員が多ければ何もなりません。教育効果は測りにくいのですが、できるところからやってゆく必要があります。

 教育は「入り口」ではなく成果を見て、改善すべきは改善する。それが大事だという考え方が、日本でも、少しづつ定着してきました。学校のアカウンタビリティという言葉が言われるようになりましたが、ようするに、学校が何を意図して、何を達成したかを測定し、情報を開示し、どう改善するかを示してくれということです。学校評価を行っている自治体も多くなってきています。しかし、実際に情報が共有され、評価結果が学校の教育活動に生かされる必要があります。それも、なるべく、児童・生徒ひとりひとりの必要性に合った指導や方針が望ましい。

 そこで出番が来るのがICTです。大阪府では、2002年に、全国自治体に先駆けて、小中高すべてで、きちんとした学校評価を実施しました。実施前には、4割の学校で教員が反対していましたが、実際にやってみると、教員が反対する学校は2割強になりました。校長の9割が「やって良かった、さらに実施したい」と言っています。ただ、多くの学校で、アンケートの処理を校長か教頭が手作業でやったので、ものすごく時間と手間がかかってしまう。

 慶応大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の金子研究室では、SQS(Shared Questionnaire System) という、インターネットを利用して、アンケート用紙の自動作成、読み取り、集計、分析を支援するシステムを作りました。たとえば、質問項目は、WEBを通じて、現場の先生が自由に書き換えたり、追加したり、順番を変えたりできます。ボタンひとつで、マークシートつきのアンケート用紙が印刷され、記入後の用紙はスキャナで自動読み取りされ、集計・分析されます。昨年度は、宮城県の高校や東京都足立区の小学校で実際に使っていただきました。それまで二ヶ月位かかっていた集計と処理が数時間できるようになったということで、好評でした。SQSは、学校評価だけでなく、授業評価や試験問題の作成や処理などにも利用できます。

 SQSを使えば、アンケートなどによって児童・生徒・保護者などから意見を聞いて、結果をしかるべき人に情報公開し、授業や学校経営の改善に結びつけることが、簡単にできるようになります。SQSは、ごく基本的な支援ツールですが、今後、そのようなITツールがどんどんできてくれば、よりよい教育をめざす学校や地域にとっては、大きな力になるでしょう。

 学校評価は年1回行う大げさなものではなく、たとえば、行事ごとに行う、教科ごとに、比較的気楽に、日常的に行うことが可能になり、きめ細かい対応ができます。学校と児童・生徒と保護者と地域の間の情報共有が進めば、地域が一体となって学校をよくしようという機運も生まれるかもしれません。ICTが、教科の情報化だけで活躍するものではないというのは、そういう意味です。

「学校ITは学力にどんな影響を与えるのか」
●学校評価アンケート・試験問題等の作成・回収・集計・分析を短時間で行うことができる。
●学校評価アンケート等の分析結果を共有・コミュニケーションツールとして活用できる。
●リアルタイムな実施が可能なので、分析結果を即学校経営等に反映することができる。


<プロフィール>
 金子郁容・1948年生まれ。
 慶応義塾大学 湘南藤沢キャンパス大学院 政策・メディア研究科教授。
 専門は情報組織論・ネットワーク論
 1999年4月〜2002年9月まで慶應義塾幼稚舎長。
 著書に「コミュニティ・スクール構想」(岩波書店)ほか多数。


【2004年5月8日号】