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INTERVIEW 「学校ITと確かな学力」20
理系と文系の融合を
  ──ディスプレイの向こうに“人間”見る
ゲームデザイナー・シナリオライター
堀井 雄二氏

ゲームデザイナー・シナリオライター 堀井 雄二氏
 1982年エニックス主催の「ゲームプログラミングコンテスト」入賞をきっかけにゲームデザイナーへの道を歩み、「ドラゴンクエスト」を発表。その3作目「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」は、社会現象を引き起こすほどの大ヒットとなり、以後、つねにゲーム業界の第一線で活躍している堀井氏。最新作となるVIIIではマルチメディアコンテンツの常識を破る表現力でファンを魅了した。稀に見る大ヒットコンテンツを生み続ける秘訣は何か。
 コンピュータゲームが世の中に出始めた頃は、「コンピュータを扱う人は理系」ばかり、ゲームを考える人は「文系」ばかりで両者のパイプ役になる人がいなかったという。一方、堀井氏はもともと数学が好きだったものの、幼い頃からの夢「漫画家」になるため、大学は文学部を選択。「理系の素養、文学系のファジーな感覚」を持つ堀井氏は、貴重な存在であった。

 「ゲーム・クリエイターは、コンピュータだけを見ていても駄目。ブラウン管の向こうにいる人間を見なければなりません。また、コンピュータは、1から10まで全てこちらが指示しないと、動きません。画面上では非常に馬鹿げたことをやっていても、裏に動いているプログラムは、数字の羅列。その両者を理解できる人材であるほうが、ゲームは作りやすい。コンピュータを使うには技術が必要、感動させるには、センスが必要。つまり両方必要なんですね」。

小さい頃は悪戯が大好きで、「いらんことしい」だった。その一面がゲーム作りに生かされている。「ブラウン管の向こうにいる、ゲームに挑戦する人を悩ませたり、はっとさせたり、驚かせたりしたい」そんな積み重ねでゲームの枝葉ができ、複雑なものになるという。「理系のプログラマーの場合、『こんなことがしたい』と思っても、忠実に再現できなければ、それは『できない』と判断してしまいます。しかし実は、ゲーム上では『似たようなことができればいい』のです。そう判断できるのは、文系的な感覚ならではですね。両者が融合することが理想的なんです」。

プロデューサーに必要な能力とは
ドラゴンクエストI は、5人程度のチームで制作、それが、いまやメンバー200人、分業が必須の一大プロジェクトとして、数年間かけて走るようになる。「そこでは、グラフィックやプログラム作成など、皆が仕事しやすい環境を提供できるプロデューサーの存在が重要です。プロデューサーに最も大切な能力は、ジャンルの違う様々な人が言うことを理解できる“認識力”ですね。次に必要なのは、それぞれの立場を鑑みた調整を行うことのできる“交渉能力”でしょうか」。

ハードの進化で必要な人材も変わってくる
シリーズものの宿命は『常に前作以上の面白さを求められる』という点だ。「前よりも倍面白くて倍すごくないと失望されるんです。これまで、そうしたユーザの要求レベルになんとか応えられたのは、ハードの進化によるところが大きいですね。ハードの表現力の進化はめざましく、いまやちょっとした技術で表現出来るようになっており、『I』を作っていたときよりもむしろ現在のほうが、思っていることを表現することが簡単になりました」。一方、ここまで技術が発展してくると、「必要となる人材像」も以前とは変わってくる可能性があるという。

「これまでは、とにかくプログラムに長けた人材が必要でした。技術の発展に伴い、想定していることをデータに置き換えるツールを上手く使いこなせる人材が重宝される過渡期が今である、といえるかもしれません。しかし最終的には、どんな道具を使っても、自分の表現したいことが表現できる人、というのが有能な人材となるでしょうね。結局、紙と鉛筆も、コンピュータも、創造したものを形にする『道具』であることには変わりないんですから」。(取材 西田理乃)


<プロフィール>
 堀井 雄二  (ほりい・ゆうじ)
 ・1954年、兵庫県生まれ。
  有限会社アーマープロジェクト代表取締役
  早稲田大学第一文学部卒 
  主な作品:「ドラゴンクエスト」シリーズ、「ポートピア連続殺人事件」、「いただきストリート」シリーズなど。

【2005年7月9日号】