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INTERVIEW 
高度IT人材育成

  ── 日本の科学技術政策で若者の夢を育む
「第4の価値」創造が発展の要

(独)科学技術振興機構 理事長
 北澤 宏一 氏

北澤 宏一氏の写真

 日中韓米4か国の中学生・高校生を対象に行われた調査「21世紀の夢調査」(財団法人日本青少年研究所)のなかで、日本の子どもたちは希望や平和、不正腐敗の減少、科学の進歩、豊かさなどの項目で将来への期待が少ないことが明らかになった。景気の低迷やフリーターの増加など様々な問題が報告されるなか、今後の日本の歩むべき方向性について科学技術振興機構・理事長の北澤宏一氏が講演した。(日本理科教育振興協会第37回定時総会・講演より)

 飽食の時代、モノあまりの時代、サービス過多の時代、国内投資意欲が減退している。バブル崩壊後を私はGDP(国内総生産)の飽和期と呼んでいるが、現在日本のGDPは500兆円で留まっている。さらに、様々な調査から、若者が将来に夢を描けない時代になっていることが伺える。

  これまで日本は、生産過程を効率化したり、これまでにない新製品の開発を繰り返すことで経済成長を遂げてきた。しかし今後も、日本が経済的に復活し、かつ若者の夢を育てるためには、従来からの「効率化」や「新製品の開発」だけでは難しくなってきた。

  これからは、飽食の時代にあっても「社会的に価値あるもの」を創出し、それを「経済的に価値あるもの」に変換、第4の産業として創出していくことが必要だ。

  日本の輸出入の推移をみると、90年以降の不景気の時代も通じて、毎年10兆円の貿易黒字を出してきている。内需が冷え込む中、91年には英国を抜いて日本は対外純資産額が世界でトップになった。以降、05年には日本の所得収支が貿易黒字を追い越し、06年には2位のドイツが58兆円であるのに対し日本は215兆円とダントツの1位となっている。まもなく日本は貿易で10兆円、所得収支で20兆円利益を出すことになるだろう。対外純資産と貿易黒字を含めると、海外からの所得は毎年30兆円にも上る。これを「第4の価値」を創出するための財源として活用すれば良い。

  実際にこうした取り組みは海外では既に行われている。たとえば、カリフォルニア州では1970年に大気汚染防止のため、自動車の排気ガスの排出量を規制するマスキー法を制定したが、真っ先に規制の壁を乗り越え低公害のエンジン開発に成功したのは日本の自動車メーカーだった。ドイツでは、いち早く政府が太陽電池や風力発電を設置した個人から20年間その電力を電力会社が固定価格で買取る制度(電力固定価格買取制度)を導入、今では全電力の15%以上を自然エネルギーでまかなうようにまでなった。また、オランダではGDPの20%をNPOやボランティアによる活動が占めている。

  日本のGDP500兆円のなかで、娯楽産業によるものが100兆円、そのうちパチンコ産業だけで30兆円になる。パチンコ産業に向ける熱意と同じ熱意で私たちは第4次産業を創出していこう、と提案したい。

  日本はコンセンサスが成立すれば大きな力を発揮する国。既に教育に関わりあるNPOや地域の活動は始まっている。そうした取り組みが活発化することで、社会で価値あるものを経済的価値に変えていくのではと期待している。

(西田 理乃)

【2008年6月7日号】

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