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「公立の改革」に注力するブレア首相

イギリスの公立学校と
  私立学校


 日本には、イギリス政府の情報教育に対する施策には大変力が入っており、その成果は確実に上がっている――と報道されている。確かにBETT会場にはコンテンツから機材まで、様々な教育ICT関連の商材が並んでおり、DfES(Department for Education and Skills homepage http://www.dfes.gov.uk/)に関する様々な施策とそのプログラムが提供されており、パブリックスクールと呼ばれる公立学校で、これらの施策が実現され、かつ教育効果が上がりつつある。しかし、一般市民の公立校への視線は、まだまだ厳しいようだ。

 イギリスの公立小中学校と私立学校の内実は日本とはかなり違う。公立学校は無料だが、私立学校の学費は有料で、日本円に換算するとかなり高額だ。だがイギリス在住暦の長い日本人女性は「もし子どもができたら、親にお金を借りてでも、私立に入れたい。地区にもよるが、それくらい公立と私立の教育内容の違いは大きい」という。これは多くのイギリスの親もそう考えており、「裕福な家庭の子どもは私立に入学し、質の高い教育を受けさせる。中流程度の家庭では、ホリデーに使う費用を節約してでも私立に入れたいと考えている」という。また、自身もイギリスの私立で学んだイギリス在住暦15年の日本人男性は、「イギリスの公立学校は確かに無料ですが、お金を出せばその分良い教育サービスが受けられる、という国です」と述べる。

 公立小中学校の中には、かつてシェイクスピアも通ったといわれる「グラマースクール」という学校がある。これは11歳から18歳までの公立学校で、受験をして入学することができる。その競争率は30倍から40倍とかなり高いが、無料で質の高い教育内容が伝統的に評価されている。その受験内容は「選択方式」で、知識量が試されるものだ。しかしこちらも「上流階級の子どもが行く場所ではなく、移民系や外国人の子どもが行く場所である」というイメージのようだ。イギリスでは、「家庭の裕福な子は公立、裕福ではないが賢い子はグラマースクール、その他の子は私立」という区分けが歴然とできている。日本以上にその区分けは明確だ。

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 1997年イギリスの首相となった労働党のブレア氏は5年前、「Education!Education!Education!」と、教育とICT化中心の政策を掲げ、公立のレベルアップを図っている。その成果は着実に上がっており、子どもたちの意欲や学力だけではなく、教員の意欲も向上している、と言われている。学校のICT化と共にコンテンツを充実させ、教師のスキルアップにも力を入れる。ICT化のみではなく、授業以前の問題と言われるモラル教育にも具体的実質的に取り組んでいる。

 かつてイギリスは「大学進学率10%」であったが、18歳から学ぶ場であるポリテクニックと呼ばれる専門学校を大学に昇格させ、その結果現在は「大学進学率40%」になったといわれている。

 また、オクスフォード大学やケンブリッジ大学に入学する生徒はほぼ私立出身者だったのが、ブレア首相の政策により一定の割合で公立校からの入学枠を確保、今では公立出身のオクスフォード生も増えているという。

 今回の視察で実際に見学に伺った公立では、入学時、イメージビデオを見せる。そのビデオは、「将来どんな職業につきたいのか?」「どんなことが出来るようになりたいのか?」といった子どもらのインタビューで、「自分に対する目標」を考えさせるようになっており、その合間に「自分の好きなことをやりなさい」「学び続けなさい」「人と違うことをやりなさい」といった、学校の「モットー」が何度も表示される。学校関係者によると「この学校の子どもらはアフリカや東ヨーロッパなどの移民系が多い地域であり、このようなモットーは彼らに受け入れられやすい」という。

 多くの公立に通う、多くのブルーカラー層。彼らへの質の高い教育と前向きに生きるという意識の喚起は、これからのイギリス社会を支えていくためにも急務であり、だからこそブレア首相の施策にも力が入る。ブレア首相が「労働党」出身であることにも深い関係があると予想されるが、ブレア氏が首相である限り、公立の地位向上を目指したイギリスのICT化は益々強化されるであろうし、その「てこ入れ」を、公立の教師達は日本の教師以上に感謝して受け入れるだろう。しかし、日本の公立小中学校の潜在能力は高いはずであるし、ICT化による経済効果及び国力の充実化は日本にとって、イギリス以上に大きなものになるはずだ。
(西田理乃)

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【2006年2月4日号】