教育家庭新聞・教育マルチメディア新聞
 TOP教育マルチメディアLinux記事         
バックナンバー
Linuxと学校現場・上
三菱総研グループが
小・中で実証実験
 独立行政法人 情報処理推進機構(略称・IPA、理事長・藤原 武平太)では、オープンソースソフトウェアを活用したデスクトップ環境の学校教育現場における実用を目的とした実証実験を公募し、この度、2件の採択が決定した。ひとつは、株式会社三菱総合研究所を代表とする企業グループで、小中学校8校に合計275台のデスクトップリナックスPCを導入し、1000名以上の児童生徒が授業で利用する実証実験。もうひとつは、株式会社アルファシステムズで、高校・大学を中心とする8校にCD起動のリナックスによるIT教育システムを導入、約800名の生徒学生が授業で利用し、その有効性を検証する。

 オープンソースソフトウェアの業務への適用は、サーバ用途に関しては評価を得て順調に普及が進んでいる。一方、デスクトップ用途ではまだまだ進んでいない。今考えられる課題をどう解決していくのか。三菱総研の担当者に、デスクトップリナックスOSの可能性と実証実験のねらいについて聞いた。
人物Photo人物Photo
株式会社三菱総合研究所
情報技術研究部
主任研究員・技術士
(情報工学部門)
飯尾 淳氏

株式会社三菱総合研究所
情報技術研究部
主席研究員・技術士
(情報工学部門)
比屋根 一雄氏

 三菱総研が中心となって行なう実験は、つくば市5校、岐阜市3校などに計275台のデスクトップリナックスを導入し、1000人以上の生徒が授業で利用する。また、複数の教育委員会(つくば市、岐阜県)の有する教材を8つの学校が利用することにより、広範囲の教材が実際に使えることを実証する。参加企業はアルゴ21、キャノン、サン・マイクロシステムズ、ジャストシステムズ、シャープシステムプロダクト、日本IBM、ターボリナックス、ビジネスサーチテクノロジ。
 
実証実験開始のきっかけは
 「サーバとしてはここ数年急速にリナックスが台頭してきました。日本では10%前後、世界だと20%前後ですから、十分なシェアといえます。しかし、デスクトップ用のOSとしてはまだまだ。今リナックスを採用するのは、かなりチャレンジなこと。ですが、IT教育という意味では、学校現場のコンピュータ教育がウインドウズ教育になっているという現状に風穴を開ける突破口となれば、と考えています。まずはシェア5%がひとつの目安になりますね」。
 
教育現場におけるリナックス導入のメリットは
 一つはコストの面です。システムのライセンス料やソフトウェアの定期的なバージョンアップなど、既存システムの持つ保守コストを、オープンソフトウェアの採用により、削減することが可能です。

 また、教育現場におけるコンピュータ管理は、数が増えるほど大変です。アップデートに対応したり、ソフトも1台1台インストールする必要がありますが、この管理負荷を、リナックスを導入することで、下げることができるのではないか、と考えています。

 次に、特定ベンダに依存しない教育環境を構築できる点です。教育環境においては、特定ベンダの製品に縛られている状況にありますが、教育の公平性を考えると、特定ベンダによる囲い込みの排除は大きな課題です。

 また、「オープン・スタンダード」についての理解を深める意味でも、早期からオープンソフトウェアに触れる機会を与えることに意義はあるでしょうね。
 
リナックス導入実現の方策とは
 リナックス用のソフトウェアを開発することです。クラスルームPC管理ソフトウェアと呼んでいるものですが、「参照用PC」を設定すると、ネットワークにつながっているコンピュータ全ての設定を、毎晩一台一台に参照用PCの設定がコピーされます。

 もちろん、単純なコピーではありません。クラスルームPCとして問題なく稼動するよう、例えば固有のIPアドレスも全てストレスなく設定ができるよう、開発しています。そうしますと、生徒らにより設定を壊されたり悪戯をされても、無人の状態で、一晩おけば、もとにもどっているわけです。

 新しいソフトをPC用にインストールすることで、全てのコンピュータにそれが反映されるので、管理コストが大幅に低下します。

 これから学校現場には、普通教室でのノートPCの導入増加に伴い、コンピュータの数やコンピュータ教室の数が増えてくることが予想されます。ノートPCはLANと接続した収納ラックに保管して、夜間に充電とPC管理を同時に行えます(無線LAN経由では外部から電源が入れられないので夜間は有線LANに接続します)
課題は
 ウインドウズで動いていたソフトは動かない、ということです。しかし、WEBブラウザで見るコンテンツの多くは問題なく見ることができますし、ウインドウズに依存したコンテンツもいくつか存在するのは事実ですが、少し直せば見ることが可能になります。そのノウハウをコンテンツ製作者に知っていただくことも、実証実験の目的です。

 また、つくば市で積極的に活用されているスタディノート(シャープ)が、現在WEBブラウザから使えるように開発予定です。これが実現すれば、リナックスからでもウインドウズからでも使えるようになります。副次的効果として自宅からも使えるようになりますから、自学自習にも活用できます。なお、これはCEC「リナックスPCを活用した共同学習システムの検証」での実験となります。


【2004年12月4日号】