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イギリスの教育情報化-下-
2015年までに全教室に電子黒板
地域の理科教員部会が良質のソフトを制作
元三重県松阪市教育研究所 林敬泰氏

 文部科学省教職員海外派遣6カ月研修で、イギリスに来て滞在しております。最終回となります今回は、イギリスの学校視察と電子黒板の効用についてお話しさせていただきます。


 イギリス教育省は、政府予算150億ポンドの何割かを使い2015年までに全英の公立中・高等学校の全ての教室に、電子黒板とプロジェクターを整備することを検討しています。公立小学校についても、教育省指定校や新設校から優先的に電子黒板の導入をするということでした。

 導入に踏み切った背景には、名門イートン中高等学校や各教育省指定校での電子黒板活用において、教育効果が現れてきたことがあります。
さらに、高度情報化した公立校を平日の放課後や土日に地域に開放し、生涯学習施設としての位置づけを促していくということでした。

 今回は、イギリス南西部にあるコンウォール州ローズランド中学校の視察をさせていただきました。

 生徒数600、教職員数30の地方の一般的な公立中学校ですが、校長の手腕で学校情報化が推進されてきた印象を強く受けました。なぜなら、校長自ら我々日本人教員の視察に付き添い、教育の情報化について熱く語ってくれたのです。

 視察させていただいて驚いたことは、全ての教室に電子黒板とプロジェクターが備わっているだけではなく、数学・理科・社会、国語や音楽といった教科において、先生方がICTを効果的に活用した授業をしているということでした。ICT機器がホコリをかぶらない秘訣が、どこにあるのか、大変興味深い視察となりました。

 まず、電子黒板を活用した理科の授業を見せていただき、その活用方法にうならされました。エネルギーがテーマの授業でした。授業の導入で生徒に「ゴミが電気に変わるんだ!」という火力発電の興味深い話をした後、なぜ熱エネルギーが電気エネルギーに変わるのか、前回の授業を踏まえてノートにまとめさせます。電子黒板の活用はその後の15分間だけです。電子黒板ならではのビジュアルや動画をふんだんに使った解説がなされます。

 モーターと磁界の3D映像を、電子黒板から直接グリグリと動かす感覚には圧倒されてしまいました。生徒達も、先生のプレゼンテーションに釘付けでした。

 その後、小型蒸気エンジンを動かすという実際の実験を通しても学んでいました。電子黒板の右側には、普通のホワイトボードがあり、用途に応じて使い分けられます。

 驚いたことは、電子黒板活用の後半で使っていたプロの学習ソフトと思えるほどの教材は、実は地域の理科教員部会で協同製作したパワーポイントファイルということした。質の高い教材は、すべてCDにコピーし地域の理科教員全員に配布されるそうです。

 パワーポイントファイルを採用した理由は、誰もが気軽に授業に合った教材を自分のパソコンで作ることができ、お金もかからないからということでした。(シンガポールでは同様に、全教科で使えるPPT形式の指導教材マイクロレッスンを教育省が開発し、インターネットで国内の全公立校に公開しています)。

◇ ◇

 電子黒板導入のメリットとして、ここでは2点だけ挙げておきます。

 ▽基礎的なITスキルのある教員なら、ビデオ・アニメ・写真・テキスト等を統合したインターラクティヴなプレゼンテーションの手段として、どの教科においても電子黒板を活用することができる。

 ▽従来の教育方法を守りながら教えることができる。従来の黒板が持つ「文字を書く・絵図を描く・それらを消す」という機能を保持しつつ、電子黒板の板書イメージをそのまま保存し、復習プリントとして、児童生徒に紙媒体で印刷・配布することができる。

◇ ◇

 昼休みと放課後には、パソコン教室が生徒に開放されます。生徒たちは、一見ゲームをしている様で実は、インターネット経由の学習ソフトを楽しんでいました。キャラクターデザインで学べる日本のタイピングソフトのようなGUI(グラフィック・ユーザ・インターフェイス)で、全ての教科について楽しく学ぶことができる学習ソフトでした。

 注目したい点は、学校がソフト会社との契約後、インターネット経由で学習ソフトのダウンロードが可能なことです。CD媒体でのインストール作業が省けるだけではなく、校内LAN内の全てのコンピュータから利用が可能という点です。

 学校は半年間に2000ポンド(約40万円)以上をソフト会社に支払うということでしたが、生徒の学習効果に十分に見合っているという話でした。生徒のIDとパスワードで、自宅からも利用でき、自宅学習や宿題の学習支援にも活用できるため、児童生徒だけでなく保護者からの定評もあります。
 (エデュケーションシティ http://www.educationcity.net


【2005年1月1日号】