教育家庭新聞・教育マルチメディア新聞

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文教市場・企業のスタンス
大切なのは考えて挑戦する過程
多様な視点の獲得に
シミュレーションで課題解決

彌島康朗氏
株式会社アントルビーンズ
代表取締役社長
彌島康朗氏

フリーターやネットカフェ難民、また入社して早期の離職率も高くなるなど、長らく「教育」と「社会」の接続は課題とされてきた。株式会社アントルビーンズは、新人研修 から子ども達のキャリア教育に使用できるものまで、シミュレーションソフト教材を次々にリリース 、その教材は、財団法人日本視聴覚教育協会が主催する「教育映像祭」で03年、05年に優秀作品賞を、また04年には最優秀作品賞・文部科学大臣賞を受賞するなど評価も高い。同社代表取締役社長、彌島康 朗氏に話を聞いた。

個人・グループ学習の反復
これまで大学や高校、中学校など約250の団体に導入される同社のシミュレーションソフトは、『やってみ店長』(小・中学生向け)、『宅配便経営』(高校生・大学生向け)、『部長会議』(専門学校生・大学生・新社会人向け)、『シミュレーション!部長会議 ワンマン社長編』など現実の仕事を採用している。5月末には新たに『シミュレーション! イベントプロデューサー』を発売、プロデュース能力の育成に焦点を当て、習得した知識、体験をどう組み合わせ、誰に何に(ターゲット)伝えたら自分の夢や思いを実現するのに有効かを学習できるソフトだ。

対象学年等で 違いはあるものの、 各ソフトは個人ワークとグループワークの2つで構成されている 。ゲームと言うと結果を競うものと思われがちだが、同社が提案している授業はそうではない 。シミュレーションの前にまずは情報 の収集・分析を行い 、自分なりの仮説を立てたあとでチームによる ディスカッションを行う 。

「個人ワークとグループワークを繰り返しながら、子ども達は課題を見つけ解決策を考え、また仲間と話し合うなかで多様な視点を獲得し、視野を広げることができるように設定しています。既にある正解を探したり、議論に勝とうとするものではありません」

チームは設定する役職等に応じて3〜5名で編成。仲間と話し合い、戦略を決め、役割分担を終えたら、シミュレーションゲームに取り掛かる。実行した結果から仮説とギャップの分析や洗い出しを行い、新しい仮説を立てて次の取 引きに進む。子ども達は自然とPDCAサイクルの中で意思決定を行うことになる。

そうした活動を繰り返すことで、立場の違う者同士で視点が異なること、またそれまで利害が対立しているように思えたものでも、視点を変えることで共有できる課題に転換されることなど に気付く ことができるという。シミュレーションを通した疑似体験で課題に対応する力やコミュニケーション力の向上につながる 仕掛けだ。

「利益を出そうとすると 費用もかか ります 。最初は相反する要素に頭を悩ませ る生徒や 、宣伝費を多くかけ る など極端なプランに走ってしまう生徒 など試行錯誤を繰り返します 。既に用意された『正解』を探す思考回路でなく、実現したいものに向かってどのように働きかけ工夫し目標を達成するかが重要です 。それこそ答えは何通りもあると言えます 。その中で自分なりに考えて挑戦する、その過程が大切 だと思います」

教室で『体験』し一人ひとりのチャレンジを促す

中学・高校・大学では、職場体験や企業見学、インターンシップなど「体験」を取り入れた教育プログラムが行われるようになった。教室を出て実社会で実際に機能している環境を「体験」できることは貴重な学びを生んでいる。だがその一方で、そうした教育プログラムを実現するためには多くの人の協力や時間を必要とし、ある程度整えられた環境がないと実行できない。またせっかく機会を得たものの既にある作業を習うことに終始し自分達の考えや発想を試すことは簡単ではない。 疑似体験の要素を取り入れたシミュレーション教材の活用の メリット はまさにそこにあるという。

「例えば、野山に入り身体を使って学習するような体験プログラムが既に行われてきました 。それは言葉だけで説明しても伝わらないものがあり、実際に体験することで感動し、より深く理解できるものがあ るからです。シミュレーション教材はそうした『体験』を教室で可能にするものです」

成功するために生徒自らが考えた 企画を試すことができ、短い時間の中でもその結果を確認して次に活かすことができ る。同じ「体験」とはいえ、それは技術や作業を体感するものではなく、生徒の柔軟な発想や分析力をひきだするものだ。

教育と社会の橋渡しに

教育大学に通い教職員免許を取得し、大学卒業後には大手証券会社に入社。その後は、学習塾や教材会社などを通して教育現場と密接に関わってきた彌島氏。問題発見や課題対応、コミュニケーション力の向上という社会に通じる力の育成に力を注ぐ背景には、「証券会社の営業マンとして働いてきた経験 が大きい」と話す。

「大学までに勉強してきた知識が無駄だったとは思いませんが、『教育』と『社会』があまりにも乖離しているように感じました。 いずれ子どもたちは社会に出ることになります。現在、経済産業省が『社会人基礎力』として『前に踏み出す力』『考え抜く力』『チームで働く力』の必要性を示していますが、そうした能力を社会に出てからでなく教育現場で少しでも 身につけることができたら、社会に出てから戸惑うことも少なくなると思います。『教育』と『社会』のギャップを埋める橋渡し役として、少しでも先生方のお手伝いができれば嬉しいですね 」

自身の経験を糧に、現在その想いは教材だけでなく出張授業「キャリアデザイン講座」を通して直接学生に届けられている。

(聞き手 吉木孝光)

【2008年6月7日号】


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