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文教市場・企業のスタンス
「紙」ならではの価値ー手に取る喜びを実感
新聞形式のブログツール
「教育」にはCSRとして無料で提供

関 信浩氏
シックスアパート(株)
代表取締役
関 信浩氏

 身近な情報発信のツールとして、今では多くの子どもたちがブログを利用するようになった。手軽にブログを作成・公開できることから、大学を中心に約500の教育機関に導入される「Movable Type」(ムーバブル・タイプ)を提供するシックス・アパートでは昨年、中央大学総合政策学部の松野良一研究室と共同で『新聞ブログ』を開発、小学生の情報リテラシーやメディア・リテラシー教育の促進のため、教育機関向けには無償でサービスを提供している。同社代表取締役・関信浩氏に話を聞いた。

◇   ◇

 「このガジュマルの木は6年間私達を見守ってくれました。また10年後、この木に会いに来たいと思います」

 BGMにのって、卒業を控えた6年生がマイクを手に校庭からリポートする。約3分の動画では、校内の思い出の場所から卒業生は6年間の思い出を、在校生は卒業生への感謝の言葉を語りかけている。沖縄県の小学校で制作した「新聞ブログ」の動画コンテンツの一こまだ。

新聞デザインも手軽

 新聞ブログは、同社が提供する企業向けブログ・ソフトウェア「Movable Type Enterprise Publishing Pack(ムーバブル・タイプ エンタープライズ パブリッシング・パック)」をベースに開発された。このサービスは、写真や文章等のデータを入力すると新聞に似せた横組みのデザインに加工するもので、Web上での閲覧はもちろん、印刷すればA3版の新聞ができあがる。オンラインでは動画配信も可能だ。

 子ども達は新聞ブログを制作する過程で、字数の調整や友人以外の人への取材など、普段は意識したことのない体験を重ねる。はじめて記事を書くときには「何を書いて良いのか分からない」という声も上がるが、グループで話し合う中でテーマも徐々に固まっていく。テーマが決まると、自分達で聞きに行ったり調べたりしながら、少しずつ文章を書ける様になる。

 「書きたいことは何か考えたり、どのように見出しを付ければ良いのか話し合うことで、コミュニケーション能力や表現する力を育むのに役立つ。自分達で考えたり、作ったりする過程が大切です」

 今年1月、松野研究室が行った調査では、実証実験を行った2つの小学校において、児童の「新聞への好意度」、「新聞購読意欲」、「新聞の必要性の認識」、「地域再発見への意欲」、「記事執筆の効力感」が上昇するなど教育的効果も報告されている。

「新聞」を手に感動

 新聞ブログのもう1つの魅力は、グループで1つの作品を制作し、実際に「新聞」として印刷、配布できる点にある。

 「今の子ども達にとってブログは馴染み深いものですが、ディスプレイのなかだけでなく実際にカラーで印刷された『新聞』を手にすると思いのほか喜んでくれます。実証実験では作品を1人1部ずつ印刷して配りましたが、『折るのはもったいない』と全員が丸めて持ち帰ったと聞いています。紙ならではの価値と言えるのではないでしょうか」

 アジア地域の小学校からも問合せが寄せられるなど、様々な可能性を秘めた「新聞ブログ」。商業用には7月にMovable Type 4に対応したパッケージが新たに発売され、写真の自動サイズ調整機能や編集・管理画面の使いやすさが向上した(12万6000円・税込)。教育向けには、よりシンプルで使い勝手の良いバージョンが提供されており、小学校から高校までの教育機関なら無償で利用できる。校内掲示に、学校間の交流、保護者に当てた学級通信など、デジタルとアナログを融合した同サービスは先生のアイディア1つで多様な活用が可能だ。


(聞き手 吉木孝光)

【2008年8月2日号】


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