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TOP本社主催私学経営セミナー 

第3回私学経営セミナー
開催報告
学校の安全対策と
私立学校経営
 校舎への不審者の侵入や、登下校中に子どもが連れさられる事件が続発し学校安全対策が大きな社会的課題になっている。教育家庭新聞社では2月17日に、第3回私学経営セミナー「学校安全対策と私立学校経営」を開催。「学校の安全対策と事件事例」、「学校危機管理の考え方・進め方」、「安全対策を追求、ICタグで児童の登下校を確認」について、3人の講師に講演してもらった。
予測しにくい犯罪発生場所
防犯機器と安全意識は不可分

(社)日本防犯設備協会 専務理事
  鈴木 邦芳氏

 「学校の安全対策と事件事例」をテーマに講演を行ったのは、(社)日本防犯設備協会専務理事の鈴木邦芳氏。鈴木氏は長年にわたる警察での経験を活かして、現在では防犯設備の強化・研究に取り組んでいる。

 どんなに安心できる鍵を付けても、夜道を照らす防犯灯を設置しても、防犯に対する意識が低ければ犯罪を防ぐことはできないと注意を呼びかける鈴木氏。防犯機器の設置も大事なことだが、それと同時に運用する人の意識を高めることが大事だとしている。

 それと同様に、学校に不審者が侵入した場合でも、警察に通報する人、非常通報装置を押す人、子どもを避難誘導する人など、それぞれの役割を果たす人が、高い防犯意識を持たなければならない。そこで必要となってくるのが安全対策マニュアルだが、ただマニュアルを作っただけではだめで、事前の訓練が大切と訴える。この訓練の際には、どこまで踏み込んだ訓練とするのか、誰がどのような役割をするかなど、しっかりと考えてから訓練にあたるべきだとしている。

最近の犯罪傾向
 「最近の犯罪傾向として問題となるのは、犯罪の発生場所が予測しにくくなったことにある」と語る鈴木氏。かつて学校で起こる犯罪といえば、トイレでのわいせつ行為や、夜間の盗難事件などが主だったが、最近では大阪教育大学附属池田小の児童殺傷事件をはじめ、従来と性質が変わってきているという。

 さらに弱者がねらわれるのも最近の犯罪の傾向とのこと。例えば、老人を騙して金を奪い取る振り込め詐欺や、児童虐待が目立つようになってきた。また、保護者が子どもに行う性的虐待も増えている。

防犯対策のポイント
 学校の安全対策作成で重要なことは「誰でもいつでも出来ることを基本に対策を立てること」だという。

 開かれた学校に向けて、門を開けておくか、閉めておくかで問題となったことについて、学校の門が開いているかどうかは関係ない。校門を閉めておこうと決めたのに、工事の人が通るたびに開け閉めをするうちに、いつの間にか開けっ放しとなってしまったケースをあげ、決めたことが守られていないのでは意味が無いと指摘。学校の安全づくりを決めるのに大切なこととして、「出来ることを決める」、「決めた原則は変えない」、「もし変える時は、しっかり議論する」といった点をあげている。

 そして、防犯対策を立てておきながら失敗してしまった事例として鈴木氏が紹介したのは以下の3点。
 1.無理な基準・原則のため守ることが難しかった
 2.機器の点検が甘く整備不良だったので機能しなかった
 3.意識が不徹底で形ばかりの体制となってしまった

 また、もし自分が学校長であったら、以下の3点に重きを置いて学校の防犯体制にのぞみたいとして話を締めくくった。
 1.事件・事故に関しては充分な検討会を開き、いかなることがあっても後悔しないように、あらゆる対策を尽くす
 2.自分自身が防犯機器の点検を行う
 3.セキュリティ対策は校外の第3者を入れて作り、広い視野でチェックしてもらう

 会場からの「良い防犯コンサルタントを見分ける基準は?」という質問に対して、日本防犯設備協会が養成している防犯設備士や総合防犯設備士の資格を持つ人が役に立つのではないかと答えていた。

地域の実情にあった対応を
学校危機管理の進め方

東京学芸大学教授
  渡邉 正樹氏

 「学校危機管理の考え方・進め方」をテーマに話を進めたのは、東京学芸大学で安全教育学を教えている渡邉正樹教授。

 危機管理は、危険を早く見つけて取り除く「リスク・マネジメント」と何か事態が発生した場合に確実に対処することを意味する「クライシス・マネジメント」の2つに定義されると語る渡邉氏。学校の危機管理では、この両方を含めた総合的なものが求められる。

 大阪教育大学附属池田小で起きた侵入者による児童殺傷事件以来、多くの学校で危機管理マニュアルが作成されるようになったが、それが本当に実効性あるものになっているかが問題だと渡邉氏は注意を促す。マニュアルに沿って訓練を行ってみたが、警察に連絡する担当がいなかった事例や、担当者が警察に連絡したが、警察官を誘導するのに人手が足りなかった事例をあげ、想定したマニュアルの問題点を見つけるためにも、実際に訓練して機能するか確かめる必要があるという。

 「アメリカの場合は、こんなことも起き得るという常に最悪の事態を想定して危機管理体制が取られていますが、それぐらいの気構えが大切です」。

 具体的なアドバイスとして、学校へ正当な理由なしに人が入ってきた場合、その人に悪意が無いとしても、基本的に不審者と考えて対応すべきとしている。また、学校の受付で来校者に記名してもらうが、そこに入校を認める名札を置きっ放しにしておくと、勝手に付けられて不審者の侵入を許してしまうので、名札は必ず手渡しで渡すようにと語った。

 大阪教育大学附属池田小の
 新しい防犯構造

 渡邉氏は児童殺傷事件後に建てられた大阪教育大学附属池田小の新しい校舎の防犯体制を画像で紹介した。来校者を迎える学校の入口は二重の体制となっており、保護者はIDカードでチェックされる。非常ベルは各教室に2個ずつ、学内全部で約300個を設置。どの非常ベルが押されたかはモニターを見れば一目で分かり、教室の窓は強化ガラスとなっているので、不審者が侵入した場合、教室から避難するだけではなく、教室の中に逃げ込み、閉じこもることもできる。厳重なセキュリティを保ちながら、全体的に明るい作りになっているのが特徴。

 また、保護者が通学路に立つことも効果があるとして、「中高生ぐらいになると登下校のマナーが乱れてきますが、そうなると地域の人から安全対策の協力を得るのが難しくなってしまいます。そこで、子どもの安全とマナー向上の2つの観点から、保護者が通学路に立ってチェックを行うことが望まれます」。そうした地域との連携に加え、バス会社や鉄道会社に協力してもらうことで、より子どもの安全が高められるということである。

 学校の安全管理に関して研修を行う場合に使えるものとして渡邉氏が紹介したのが、独立行政法人教員研修センターが作成し、ホームページ(http://www.nctd.go.jp/)で公開している「学校危機対応研修教材」。この教材は、サイトを通じて誰でも見ることができ、不審者への対応が学べるようになっている。

学校危機管理の要点
 最後に渡邉氏は、子どもの安全を守るための要点を列挙し、「画一的な安全対策でなく、各地域の実情にあった対応をする」、「保護者や先生同士、関連機関との情報の共有が大事」、「安全対策は一過性のものでなく継続できるものでなければならない」、「特定の対策に頼らずに、安全教育や防犯機器など総合的に安全をはかる」、「安全対策に取り組むためのリーダーを必ず決める」といった点に考慮する必要があると話した。

地域の実情にあった対応を
学校危機管理の進め方
立教小学校情報科主任
  石井 輝義氏

 私立立教小学校がICタグにより児童の登下校を確認し保護者にリアルタイムに伝達するシステム(富士通)を正式稼動させたのが2005年4月。導入後約10か月を経て、「登下校中のわが子の安全性・危険性に対する保護者の意識が非常に高まっています」と石井輝義先生は強調する。保護者の携帯メールの登録率も98%近くに達している。第3回私学経営セミナーで石井先生が発表した立教小学校の事例概要を紹介する。

 私立立教小学校は1学年3クラスの男子校。2003年9月に全教職員にノート型PCを配布、専科教員2名のTTによる「情報科」も設置され、各学年年間約10時間情報活用の時間が設けられている。

 児童の通学範囲は広く、中には2時間かけて通学してくる児童もいる。導入の契機となったのが、1年生から6年生までの異学年により構成される「縦割り」朝礼と給食。担任以外が縦割り活動の担当になることが多く、担任が児童と顔を合わせるまでにタイムラグが生じていた。そこで、バーコードによる出欠確認など、児童の出欠をいち早く確認する方法を模索していた。

 そこに、富士通から不審者侵入対策を目的としたシステムの提案があり、両者で校門で出欠確認をするシステムに作り上げた。

 校門付近の複数個所にアンテナを設置して、ICタグを持った児童が通過すると校内にあるサーバに情報が送信され、出欠の記録と同時に保護者に「〇時〇分に〇〇さんは、登校(下校)しました」というメールが送信されるシステムだ。

 教員はサーバにログインすることで、全児童の出欠状況を確認でき、保護者もメールだけでなくWeb上からログインすることで、ブラウザで登下校時間の確認やメールアドレスの登録・変更を行うことができる。

 ICタグは、アクティブ型RFIDタグと言われ約10メートル離れた受信機で情報が読み取られるもので、専用ゲートは不要。また、仮に児童がICタグを紛失しても個人情報が記録されていないため、個人情報の流出の心配もない。

 しかし、ICタグは方向の認識(登校と下校の別)ができないが、これについては2004年9月から開始した試験運用の過程で、登校ゾーンと下校ゾーンを分けてアンテナを配置することで登下校の別を確認できる方法を工夫した。

 同小は従来から校門に24時間警備員を配置して、防犯カメラも設置して安全の確保を図ってきた。今回のシステムでそれに、ICタグを持たない人が校門を通過すると赤外線センサーが検地して、カメラが画像を記録・通報して警報を鳴らす機能が加えられた。

 また、緊急時や行事変更の際などに保護者にメールで連絡できる「学校連絡網システム」も併用。校外でのキャンプ体験学習の帰途、天候悪化で帰着時間が遅くなるといった保護者への連絡手段として活用している。

 石井先生は、保護者の反応、今後の展開について、「保護者の安全意識が高まり、『メールによって子どもの安全を確認できるようになった』『登下校時が危険なものであると意識するようになった』という声が寄せられています。今後は登下校の記録情報によって仲良しグループのソート分けが出来るのではないかと考えています」と語る。

 今後、校外学習時の点呼システムとしてのICタグの活用(モバイルシステム利用)、登下校中の安全確保、なども課題として受け止め、工夫をしていく考えだ。


【2006年3月4日号】


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