子どもの心とからだの健康

安全に楽しく食べるために

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日本歯科大学附属病院
ロ腔リハビリテーション科
科長・准教授 田村文誉さん

 個人差はあるが、人には生まれながらにして母乳を吸う特別な能力が備わっている。やがて離乳が始まり、軟らかいものから硬いものへと、母乳以外の食べ物をとるようになるのだが、母乳を吸うときとはまったく違う口の使い方を、今度は学習によってマスターしなければならない。この時期に口腔機能が正常に発達しないと、後々さまざまな影響が出てくる。特に障害を持つ子どもたちの中には、咀嚼や嚥下が苦手な子が見受けられるという。今秋、東京・東小金井にオープンするリハビリテーションクリニックの田村さんに、子どもの口腔機能について話を聞いた。
(レポート/澤邉由里)

新リハビリ院をオープン

口腔機能の発達は段階を踏み成長

‐新しいクリニックについて教えてください。

  噛む・飲み込むが困難な、摂食・嚥下機能障害を持つ方々のための、口腔のリハビリテーションに特化した歯科クリニックです。対象は赤ちゃんからご高齢の方まで、地域の医療・介護・福祉関係の専門家と連携を取りながら外来診療を行うほか、ご自宅や施設などへの訪問診療も行います。医師、歯科医師をはじめ、言語聴覚士、管理栄養士、歯科衛生士、看護師らを配し、機能的に口腔リハビリテーションの必要な患者さんを支える体制を整えています。口腔リハビリテーションはまだ新しい分野ですが、歯科学生、歯科医師の研鑽の場としても機能していきたいと思っています。

‐小児の患者さんの摂食障害とはどういうことですか。

  赤ちゃんは生後半年ごろまでお乳だけで育ちますが、その飲む機能は少しずつ消え、大人と同じように食べられるための練習として離乳食が始まっていきます。私たちが普段何気なく行っている「飲み込む」「舌で潰す」「かむ(咀嚼する)」という基本的な動作は、この離乳食の時期に学び、幼児期から学童期にかけて上手になっていきます。その機能発達が成長の中でうまく段階を踏めなかったということです。

  特に障害をお持ちのお子さんは、筋の緊張が強すぎたり弱すぎたりして哺乳するときの状態から口腔機能の発達が進まない場合があります。またほかの生活機能のケアに重点が置かれて口腔ケアが後回しになってしまうケースもあります。ダウン症のお子さんはもともと舌が外に出やすい特性がありますし、精神や運動の発達遅延のお子さんは、身体が健康であるがゆえに周囲の子に無理して合わせがちになり、発達のステップがきちんと踏めないことがあります。一人ひとりの発達の度合いも問題も違うので、生育歴も含めて丁寧に診ることが必要です。赤ちゃんの段階で哺乳がうまくできていない例もあります。舌が使えているとお乳は飲めてしまうので、口を開けて飲む癖がつくと、食べるときも口を開けたまま食べる癖がついてしまうのです。少しでも心配があれば、できれば赤ちゃんのころから診せていただきたいですね。

  また心理的要因で機能に問題が出ることもあります。食べることが好きなためによく噛まずに丸呑みにする癖がついてしまった、食べ物を喉に詰まらせた経験から固形食が食べられなくなった、などの例です。

多職種でリハビリ安全な食事を支援

‐言語障害もやはり口腔機能の問題ですか。

  言葉の問題は、もちろん機能の問題もあるのですが、コミュニケーション機能の問題が大きいと思います。口の運動は練習次第で伸びますが、その前に、そのお子さんに他者ときちんとコミュニケーションを取る体制が整っているかどうかを確認します。遊びを通じてコミュニケーション能力を開花させることもよくあります。

‐具体的なリハビリテーションはどのように行うのですか。

  お子さんの発達に添った食べさせ方、食事内容、姿勢などの指導や機能訓練を行います。できるだけ多角的な見方をすることが大事なので、多職種がかかわります。

  言語聴覚療法では、言語聴覚士が対応します。舌足らずであるとか、吃音などの明らかな問題だけではなく、落ち着きがない、視線が合わない、といった行動の問題についても、積極的に相談してほしいと思います。

  また口腔の正常な機能のために歯の健康は重要な要素です。歯に問題がある場合は、当院の小児歯科、ハイリスク診療センターと連携して対応します。

  嚥下の問題は、必要があれば、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査で検査することができます。嚥下の具合を確認することで、そのお子さんにとってより安全な食品、安全な姿勢を検討することができます。

保護者の立場に立ち親子で健康な“口”に

-田村先生の今後の抱負をお聞かせください。

  私自身子どもがいますので、自分の経験も生かしてお母さんをはじめとした保護者の方の手助けをしていきたいと思います。お子さんが病院にかかるというのはお母さんにとってとても不安で辛いことだと思います。お子さんの指導、訓練であっても、保護者のスタンスに立った楽しい対応を心がけたいと思います。

  私はマタニティ歯科外来にもかかわっているのですが、妊娠中からお子さんのことばかり考えて、ご自分の口腔ケアがおろそかになってしまうというお母さんがたくさんいます。お子さんもお母さんも揃って健康なお口で、親子で楽しく食事をしてほしいのです。

  楽しく口から食べることは人にとって何よりの幸せです。食べる機能に合わない食事は、窒息や誤嚥性肺炎などのリスクもあります。口腔の機能を高めて、それらのリスクを減らし、「口から食べる」ことを応援したいと思います。

 

【2012年6月18日号】

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