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■教科書準拠コンテンツは多忙な教師の味方
     コンテンツ「活かす」のは教師の力量〜東京都杉並区立東原中学校

見せたい瞬間を逃さず”魅せる”!

横井弘先生 東京都杉並区立東原中学校(平井正紘校長)では平成18年度から理科室に電子情報ボードを導入、デジタルコンテンツを活用した授業を展開している。

理科室には黒板に貼り付けるタイプの電子情報ボードを設置。スクリーン用の専用紙にPC画面を投影している。さらにどの席からも見やすいように、天井から吊り下げられたTVモニタと教室脇に設置したTVモニタにも電子情報ボードと同じ内容が映し出されるように工夫してある。授業者である横井弘先生はこの環境を活かし、教科書準拠の動画コンテンツやNHKの動画コンテンツ、デジタルカメラで撮影した静止画など様々な映像・画像取り入れた理科の授業を展開している。

 東原中学校のハードディスクには、NHK学校放送の映像コンテンツが2000タイトル入っており、パソコンにつなげていつでも授業に使えるようになっている。高校講座や大学講座から科学実験番組、プロジェクトXなどあらゆるタイトルが入っていてそのボリュームと質、内容はかなりのもの。理科関連ばかりではなく、全教科に渡った内容だ。「研究指定校として2年間かなり使いこみましたので、必要な画像がどこにあるのか、今ではかなり把握しています。当初は必要な画像や映像がどこにあるのかを探すのが大変でした」授業で使いたい映像は数十秒から数分程度。それを探し出すのには、結局最初から最後まで見なければならず、準備に時間がかかるのが難点だ。

  その点をカバーできるのが、教科書準拠のコンテンツだ。「新版中学校理科『教師用指導書別冊 IT活用編』」(大日本図書)(以下「IT活用編)」は、教科書単元(章/節)と各映像クリップを対応させて構成・収録されているため、使いこなすのに時間がかからず便利、と横井先生は述べる。

  「IT活用編」は「映像編」と「シミュレーション編」に分かれている。「映像編」では、現場教員の声を反映させ、気象や地殻変動、人体のしくみなど、扱いにくい実験や実際に体験することが困難な場面の映像等を精選し、NHKで制作した高品質な映像をベースにした映像クリップ集だ。「シミュレーション編」は、教科書のイラストを「動かしながら」「書き込みを加えながら」説明したい、という発想を元に開発。学校で実現しにくい実験や観察などを中心に構成されている。

  「教科書準拠だと、目次どおりに並んでいるため、探す必要がない点がいい。インターネット上にも本校ハードディスクにもコンテンツはたくさんあるけれど、探すのは大変ですからね」

  加えてその収録映像の平均水準も高いと述べる。「何を理解させるためのコンテンツなのか。授業を行うために作ったものだからその意図が明確で、使いやすい」

  映像コンテンツの活用について横井先生は、実験を映像で見せるのに批判的な教員もいるが「映像をどう使うか。それが教師の力量」と述べる。「今の子どもたちは体験が大変少ない状況。許されることならすべて実験・観察を実施したい。しかし全て行うのは現状では無理がある。映像でごまかすのではなく、意味ある使い方をしていきたい」

  例えば、生徒らが実験をした後、コンテンツを見せれば「あ、さっき自分がやった実験は成功していたんだ」「あれでよかったんだ」と安心したり、改めて認識、定着していく。事前に見せておけば、手順をシミュレーションしてから実験することができ、自信を持って実験に望める。時間が足りず、かつ教科書とチョークだけで教えるには限界がある実験でも、コンテンツを活用することでカバーしたり、広がりを与えることができる。

  「中学校理科教師にとって欲しいコンテンツは、授業という切り口で考えたときに必要≠ネコンテンツ。必要なコンテンツを使いたいときにすぐに手に入れたい。実験はたくさんしたい。コンテンツもたくさん見せてあげたい。それが本音」

 本時では、水素を発生させ、集め、性質を調べる実験を行った。理科第一分野「身のまわりの物質」単元だ。「今日は簡単な方法で水素を作ります。小学校で作ったことのある人は?」手を上げる生徒はゼロ。最初に映像コンテンツで実験の方法を見せる。あえて音を消して見せる点が横井先生のこだわりだ。

  10%の塩酸と亜鉛を混ぜ、試験管をぴったり合わせて水素を集めていく。火をつけたマッチを試験官に入れると││ポン!││ヒュー! 教室のあちこちから起こる突然の音に生徒たちはびっくり。

  これは水素の爆発音ではなく、水素の体積が熱で急激に小さくなったため、その空いたスペースに空気が急激に入り込んだために出る音だ。「笛を吹くと音が出るよね。あの原理と同じ」と横井先生。授業の最後にはまとめとして「IT活用編」の「みぢかな材料で気体を作る」から、レバーとオキシドールで酸素を発生させる実験や、ドライアイスから二酸化炭素を集める、発展的な実験を確認する。実際に実験を行った後なので、生徒らは実感を持って実験を見ることができたようだ。

  「実験を行いながら」様々なシーンで「見せたいときに即映像を見せる」ことで確認・発展させていく授業展開となった。