千葉県君津市では平成18年度、コンピュータ教室のリニューアルに伴い、市内全小中学校(小学校18校、中学校11校、適応指導教室1)に、教職員1人1台ノートPCを配備、校内LANを整備。「システムはレベルアップ、コストは予想以上にダウン、活用しやすく、コンピュータ室の稼働率が一気に上がった」という。君津市教育委員会学校教育課指導主事小林正知氏に、本システム導入の経緯と目的、効果を聞いた。
フェリカ認証・シンクライアント・暗号化USB・24時間サポート
「セキュリティ上、教職員1人1台ノートPCを配備するのは当然の流れ。しかしハードディスク付きのPCだと自宅に持ち帰る可能性が生まれる」(小林氏)ことから、千葉県君津市ではシンクライアントシステムを採用、教職員の身分証明も兼ねたフェリカによる認証方式が導入された。
「身分証明書を兼ねることで、重要なものであるという意識が自然に生まれた。認証用の機能だけだと、紛失の可能性もつきまとう」と小林氏は述べる。高い安全性とスピーディなデータ送信で交通乗車券や電子マネーに採用されているフェリカカードだが、小中学校レベルでの導入は全国的にも珍しい。
さらに校務を自宅で行う場合も考慮し、全教員につき各1本、暗号化USBメモリを貸与。教職員配備のPCに使えるのは、このUSBメモリだけだ。使用を限定されることで、簡単には紛失できないものとなった。
君津市全小中学校と市教委はイントラネットでつながっている。イントラネット上では、全市の教職員同士でメールの送受信が可能だ。ただし外部メールを受信する際は、学校用の代表アドレスを使う。ネットワークは、学習系と校務系2系統を構築、その結果、強固なセキュリティ環境が構築された。
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シンクライアント導入により、各個別PCの保守がシンプルで効率的になった。サーバは365日24時間体制で管理されており、同システムを君津市に導入した富士電機ITソリューションがリモート管理を行う。サーバに何か不具合が生じると、同社の担当者に即携帯メールが送信、即対応される。
「昨晩起こったトラブルも、遠隔操作により学校開始時間には対応済の報告が届いている。当初予想していた以上にきめ細かいサポート体制に、企業としての責任の果たし方を感じた」と小林氏は述べる。専用コールセンターでは、プリンタの活用から授業活用のアイディアまで、先生方からの様々な質問や要望に対応。バックアップも24時間ごとに行われる。
シンクライアントの場合、個人で購入したソフトウェアを自由にインストールできないが、ハードディスクが搭載されたノートPCを1台配備、学校で購入したソフトウェアはそのPCで対応する。また、フリーウェアなどに関しては教育委員会に申請し、全教職員に必要であると認められた場合は、検証の上追加できる。
「いい競争を生む仕様書」「一斉導入」でシステムはレベルアップ・コストはダウン
新システム導入の際のコストについては総務部情報政策課の安部吉司氏が、行政職ならでは、の役割を発揮した。安部氏は「今の勤務形態や状況を加味し、かつ高いセキュリティレベルを実現できるシステムが構築できるよう、かなり具体的に細かく提示」した仕様書を作成、さらに「一度作成した仕様書を各社に提示、意見を聞いて再度作成しなおす」という過程を経ることで、各社がリスク分を上乗せ計上しなくてすみ、かつ競争しやすくなり、結果、価格が抑えられたという。
もう一点導入コストが予想以上に抑えられた原因は、全市小中学校への単年度大量導入だ。全国的な情報漏えいの事件多発により、市の理解が得やすい状況にあり、本来ならば数年かけて導入するシステムを単年度で一気に導入することで、「予想以上のまとめ買い効果があった」(安部氏)という。
【君津市教育センター】
http://www.kimitsu.ed.jp/kimiedc/
PC教室 毎日稼働しています
使いやすい環境は、各学校の活用状況にどう影響を与えたのか。
君津市立八重原小学校(藤村龍一校長)のコンピュータ教室では3年1組(担任/古谷則子先生・情報教育担当)の児童らが、学習系ネットワーク「みんなの広場」を使い、「3年生前期の思い出」をテーマに、個人の新聞を作成していた。「みんなの広場」ではファイル共有できるので、過去の児童生徒の作品などを自由に保存・閲覧することができる。
前期の活動の写真や作品などから3つをピックアップ、それについて記事をまとめる活動は、4年生以降の社会や理科などの調べ学習による学習をまとめる活動につながっていくという。各個人のPCでの作業状況は、教師用PCで一元管理され、進捗具合が確認できる。さらにこの進捗状況は、職員室での確認も可能だ。
「1人1台のPC環境がそろったこと、PC教室での授業準備が職員室でも出来るようになったこともあり、PC教室の稼働率が一気に上がった」という。PC室の稼動状況は記録され、毎月教育委員会に報告される。八重原小では、eライブラリやEduMallなどのコンテンツも活用、総合や国語、理科、算数と各教科で全学年にわたり毎日のように活用されている。
藤村校長は、君津市の環境設備について「市のほうで思い切ったICT環境整備を進め、全市一斉に使い勝手が良くなった。強固なセキュリティで安心して使えるようになっただけではなく、コンピュータも全員分配備され、ネットワークもギガビットと最新のものになり、先生も子どもも喜んでいる」と述べる。授業でのPC活用も増え、互いにいい刺激を与え合いつつ成果が上がっており、学校現場としては、行政や市議会にも報告しやすいという。「市が頑張れば教員も頑張り、それが子どもに跳ね返っていく。今後は、普通教室でより使いやすい環境に近づくよう、プロジェクターやe黒板などの配備数の増加にも期待している」と述べる。