教育家庭新聞・教育マルチメディア新聞
 TOP教育マルチメディアインタビュー記事         
バックナンバー
INTERVIEW 「学校ITと確かな学力」35

初等教育の「価値観」を再構築

教師は「ワンダー」な場と機会の提供を
東京大学先端科学技術センター特任教授
妹尾堅一郎 氏

妹尾堅一郎氏の写真 弁理士や弁護士をはじめ、大学の教壇に立つ実務家に教育理論や学習モデル、そして授業技術を教えている妹尾氏。社会人教育の専門家の立場から、教員の果たすべき役割を聞いた。

●健全なる「ミドルクラス」の育成を

 「人財育成の基本は、『自ら考え、判断し、行動できること』。放っておいても出来る人は全体の1〜2割、どうやってもできない人が2〜3割、そして残りが『どちらに転ぶか分からない』人たちです。彼らをどちらに導けるのか。それが『教育の力』ではないでしょうか。これらの人々を社会における健全なミドルクラスとして育成するのが我々の役目だと思います。」

 ではそのメインターゲットをどのような姿に教育するのが望ましいのか。
 「ポイントは二つ。1つは『皆と同じことが言えること』、もうひとつが『他人と違うことが言えること』。両スタンスのバランスがうまくとれる人が、健全なるミドルクラスです。皆と同じこと“しか”言えない人は凡人、他人と違うこと“しか”言えない人は変人」。

 現在の初等教育は「皆と同じ」であることが優先され、大学院レベルでは「皆と違う」オリジナリティが重要視される。教育段階ごとのバランスがまだ不適切、と妹尾氏は指摘する。「初等教育からもっと“皆と違うこと”を重要視し、創意工夫を奨励していくべきですね。学習指導要領にしばられすぎ、そのような場と機会を提供できる教員が少ないのが現状では」。

 受験教育の弊害で、問題は「与えられるもの」、その問題には「正解がひとつだけ」があり、その正解は誰かが「教えてくれる」ものだ、と多くの人が思いこんでいること自体が大きな問題、と述べる。

 「子どもらが自主的ではない、自分で考える力が弱い、というが、そういう状況を作ってきてしまったのは大人の責任」。
 それでは現状をどう打破していけば良いのか。

 「これからの学習モデルは「互学互修」。教師が教え、生徒が教わる、というモデルを脱して、教師と生徒が共にワクワクすることを通じて学び合うことが重要。子どもは、楽しいこと、面白いことが大好き。そんな『ワンダー』な「場と機会の提供」が教師の役目。教員みずから『ワクワク感』に満ちた『ワンダフル』な世界を演出できれば、日本の教育力はあっという間に上がります」。

●真の「情報」教育とは

  教育の情報化が急務、と言われているが「今、知識伝授型のIT化が目立ちすぎている感があります。ITは、もっと可能性を秘めているはず。それを最大限に引き出すためには、IT教育の『背景』にある教育・学習モデルの再検討が必要」。

19世紀は「モノ」の時代だった。モノを持ち、作り出すことに価値があった。20世紀は、「エネルギー」の概念を発見し、宇宙がエネルギーでできていることを知った。そして今、21世紀は「情報」概念によって全てが評価される時代になった。情報の中で最も価値あるものを我々は「知」と呼ぶ。そして「知」の最たるものこそ「技術」や「ブランド」や「コンテンツ」なのだ。つまり知的な仕事こそが重要な時代。独創性が問われる所以である。

「世界は『情報』の塊である、というのが今世紀の捉え方。私たちは無意識のうちにその時代の基本コンセプトで何事をもとらえようとするものである。情報を単にITスキルの話にするのではなく、『知』の世界の中核としてとらえ、情報を知として構成できるような能力を開発することこそが『情報教育』のはずです」。

(取材 西田理乃)

<プロフィール>せのお けんいちろう 東大先端研知財マネジメントスクール校長役。NPO法人産学連携推進機構の理事長として秋葉原の再開発プロデュースを進める。CIEC副会長。

【2006年11月4日号】