【ICT活用】“21世紀型スキル”育成で “世界基準”の学力目指す

豊島区教育委員会・東京大学・日本マイクロソフト・レノボ・ジャパンが共同開発

 豊島区教育委員会では、平成23年より東京大学、日本マイクロソフト、レノボ・ジャパンと共同で、ICT機器を利用することによって「21世紀型スキル」を身につけ、コミュニケーション能力などを育成する取り組みを進めている。実践校は、豊島区立千川中学校(小林豊茂校長)。6月20日、中間報告会が開催された。

ICT活用

話し合いながら実験結果と考察をまとめる

 小林豊茂校長は、「当初は21世紀型スキルとは何か、から始まった。しかしタブレットPC(以下、PC)の活用で表現する楽しさが拡がり、目を輝かして真剣に取り組む生徒の姿に、授業のあり方を変えていく必要性を感じた」と報告した。本プロジェクトではPC40台を整備、1人1台で使えるようにした。クラウド環境やツール、授業支援サポートなどは各企業が提供。東京大学の山内祐平准教授を中心に指導助言を行っている。山内氏は本プロジェクトの注目点について、「第一に、これまでほとんどICTを活用していなかった中学校が学校ぐるみで取り組んでいる点。現在ICTを活用しきれていない多くの学校にとっての良いモデルとなり得る。第二に、21世紀型スキルの育成を意識して盛り込んだ学習指導案を作った点」と話す。

  「現在の小学生の65%は将来、今存在しない職業に就く。今はない職業に就くために学校は何を準備できるのか。その1つが21世紀型スキル育成」。すなわち「話し合い、データを持ち寄り、協同して考え、世界レベルで問題を解決していく高度な力」だ。「そのためには、教師が一斉に知識を教えるというスタイルから脱却し、生徒に任せ、考えさせていく授業スタイルをもっと追求する必要がある。授業スタイルを変えることはそう簡単なことではないが、まずは教員全体でその必要性を共通認識し、批評的思考力、問題解決力、コミュニケーション能力、協同的学習、情報リテラシーといった、学習指導要領の範囲内で実践できる部分から21世紀型スキルの育成を学習指導案に盛り込んだ」

  21世紀型スキルについては、いまやフィンランドやアメリカ合衆国、オーストラリアでは国家ぐるみのプロジェクトとして進んでおり、日本においても次期学習指導要領に盛り込まれる可能性もあることから、ポスト新学習指導要領の授業モデルの先行的取り組みとも言える。

OneNoteで実験結果を共有

  この日公開された授業は、中学2年の理科と総合的な学習の時間だ。

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各グループの結果が一枚のワークシートに
リアルタイムで反映される

  理科室には各グループにPC、教室前方には電子黒板がある。本時では3種類の実験をグループごとに行い、その結果と考察をPC上でまとめ、発表した。実験内容は、「鉄と硫黄をよく混ぜる」、「鉄と硫黄の混合割合を変えて混ぜる」、「鉄と硫黄を混ぜずに加熱する」の3種類。3〜4人1グループで、実験作業、メモや進行確認、デジカメで実験経過の写真撮影と役割分担をしながら実験を進める。実験終了後は話し合いながら写真を選択、実験結果をPCにまとめ、発表していった。

  実験結果がまとめられていたのは、協同学習支援ソフト「OneNote」だ。予め加瀬教諭がワードで作成したワークシートは、電子黒板に提示されると同時にPC上で共有されており、各グループの生徒がPC上に写真を貼りつけたりテキストを書き込んだりすると、即全体で共有することができる。

  「総合的な学習の時間」では、班ごとに話し合い、「尾瀬移動教室」で学んだことをPC上でまとめる作業を行った。全員が完成したら、HTML形式に保存して尾瀬移動教室の学習デジタル教科書として文化祭に展示、来年度以降の学習に利用できるようにする。

クラウド活用で協同学習進める

  このほか同校では、国語や数学、道徳、特別活動や生徒会活動などで21世紀型スキル育成に取り組んでいる。生徒会では「生徒会新聞」作成に力を入れており、クラウド環境を活用して自宅で記事を作成、学校で新聞を完成させるという取り組みを行っている。

  千川中学校で活用しているクラウド環境や学習支援ソフト「OneNote」は日本MSが提供。本プロジェクトのコーディネータを務める同社の中川哲氏(文教ソリューション本部長)は実証研究の成果として「将来の1人1台環境を見据えた導入・活用のノウハウ」「日常的にICTを活用するための環境の提示」「教育に最適なデバイスの確認」の3つを挙げた。「千川中学校ではクラウド環境について、使うべき場面、使わないほうが良い場面を見極めており、今後の教育クラウド化を進める自治体や学校にとっても参考になる。児童生徒用のPC環境も、グループ活用や1人1台での活用など様々で、これまでにない環境を構築・活用していく学校にとってリアリティのあるモデル。良い先生と良い授業の出会いは、子どもの未来を変える。その出会いを良いICT環境でサポートしていきたい」と述べた。

タブレットPCの入力方法は3種類

  今回活用されている40台のPCはThinkPad(レノボ・ジャパン)だ。既にオーストラリアにおいて教育機関約25万台の導入実績がある。ペンタッチ、画面タッチ、キーボードと3種類の入力が可能で、作業内容に従って入力方法を使い分けることができる。

  ThinkPad特徴の1つでもあるトラックポイントについて、レノボ・ジャパンの横田聡一氏(ノートブック開発研究所担当・常務執行役員)は、「理科の実験などではマウスを動かすスペースが邪魔になる。トラックポイントで作業を行うとより円滑に進めることができる」とその利点を話す。

  堅牢性も特徴だ。同社では過酷なストレステストを行っており、「子どもたちはゲーム機や電子辞書に慣れており、PCも同じように扱う。その使い方に耐えられるようにした」と言う。また、無線LANでも教室の前や後ろでネットワークにつないだ際の反応が変わらないようアンテナの性能にも配慮。安定した稼働を可能にした。

10年先見据えた取り組みが使命

  豊島区教育長の三田一則氏は本プロジェクトついて「21世紀型スキル育成を目標として最先端のICT活用をスタートした。本プロジェクトはこれまでの環境でできなかった授業スタイルを可能にし、教育に革新をもたらすと確信している。今後も10年先を見据えた教育を形づくることを教育長としての使命と考えて取り組みたい」と述べた。

【2012年7月2日号】

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