「情報活用型授業」深める 教育の情報化実践セミナーin仙台

 12月1日、東北学院大学で、教育の情報化実践セミナー「未来の教室がやってくる」in仙台が開催され、「情報活用型授業」をテーマに実践事例が発表された。主催は「情報活用型授業を深める会」と日本教育工学協会(JAET)。同大会は来年度仙台で開催される全日本教育工学協会全国大会のプレ大会でもある。

  「情報活用型授業を深める会」は、2008年からスタートした東北学院大学・稲垣忠准教授が主催する仙台を中心とした授業研究グループだ。「情報活用型授業」では、「誰に何のために伝えるのか」を明確にしながら、学習者の3つの活動場面(収集=分析・評価、編集=思考・判断、発信=表現・交流)に着目し、「思考や問題解決のためのICT活用」に取り組んでいる。現在小中高等学校の教員や大学生約70名が所属。この日はそのメンバーが中心となって事例を紹介した。

教育の情報化実践セミナーin仙台
教育の情報化実践セミナーin仙台
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繰り返し行うことで児童のメモ力が向上

 
 
 
 

  仙台市立吉成小学校の米畑美香教諭は、小学校4年「県の広がり」の実践の中で、実物投影機、電子黒板、学校放送を活用した地図指導に取り組んだ(写真右下)。協力企業は、エルモ、日本放送協会(NHK)。

  米畑教諭は、これまで定着しにくかった地図情報の読み取りにおける理解については、実物投影機を使って地図を拡大提示しながら説明することで解決を図った。さらに土地利用の方法を、OHPシートを重ねて白地図に抜き出して書き込むなど必要な情報だけを取り出して提示することで児童の気づきを促し、記憶に残りやすいように配慮。授業では「田は平野に多い」「温泉は山側に多い」など1人ひとりの気づきを共有し、理解を広げた。

  また、児童の経験不足からくる理解不足を補うため、学校放送番組を利用。本単元では、リアス式海岸の利用についての番組を視聴した。視聴する際には視聴シートを使ってメモを取ることを4月から繰り返し行うことで、児童のメモをとる力が向上したという。

  米畑教諭は、拡大提示して説明するだけ、放送番組を視聴させるだけではなく、目的を持って児童の活動場面を提供することが重要と報告した。

新聞作りと連携して合併予定校と交流

  栗原市では、来年度4月に3小学校が合併、「栗駒小学校」としてスタートを切る。そこで栗原市立岩ケ崎小学校の遠藤麻由美教諭は、再編校対象児童の不安緩和を目的に、交流学習を行った。協力企業は、エプソン販売、JR四国コミュニケーションウェア。

  実施したのは4年生だ。1枚のワークシートにネットワークを通して双方向からPC上で書き込みができる仕組み「コラボノート」を使って、自己紹介を行った。さらに、国語「みんなで新聞を作ろう」の学習で、交流相手に新聞を送ることを目的とした。伝える相手(交流校の児童)や伝える内容(岩ケ崎小の様子)を明確にすることで、より良い新聞制作ができると考えたからだ。

  割り付けや見出しのつけ方などのポイントを学ぶ際には電子黒板を活用。遠藤教諭が活用した電子黒板はPCを使わなくても電子ペンで書き込みできる点が便利だったと話す。

  推敲の際にはWeb教材「つくつた」(※)を活用した。iPadを使いながら各グループに分かれ推敲した後は、全体でも評価し合う。児童による見出しの評価は、「げきうま給食」スペシャルランク、「4年生の給食ランキング」Bランクなど。なぜそのような評価であるのかも発表させた。校正して完成した後は、コラボノートに新聞を貼付、他2校に新聞を見てもらった。コラボノートならばファイルを添付するだけで新聞も送付、双方で閲覧できる。

  遠藤教諭は、コラボノートを使ってネット上の交流が簡単に時間の制約なくできること、ネット交流では顔を合わせての交流の狭間を埋める効果があること、電子黒板により学び合い活動を円滑に進めることができたこと、既習事項の確認が容易であったことを報告した。※つくつた=新聞やプレゼン、リーフレット、ビデオなど制作物推敲のポイントを示したWeb教材。http://www.ina-lab.net/special/tsukutsuta/

 

【学習者用端末・教材】【無線LAN】【電子黒板】 ”未来の教室”想定して授業

学習者用端末で上質の“学び合い”

  仙台市立愛子小学校の中村佑教諭は、iPadを使った学習を算数で展開した。協力企業は、東京書籍、パイオニアソリューションズ。

  中村教諭は学習用端末について、「4人で1台では待ちくたびれる、2人で1台あれば考えの共有がスムーズになる、1人1台だととても効果的」と述べる。

  1人1台で活用できる教科書準拠の算数教材は、東京書籍の協力によるiPad向けトライアル版(写真上)。指導者デジタル教科書にある教材や問題を中心に、児童の使い勝手を配慮した。主な違いは、図形の書き込みや切り取りなどを何度でもやり直しができること、一度行った操作を「取り消し」できること、保存できることなど。

  電子黒板とiPadを連携する仕組みは「タブレットシンク」を使った。児童はiPadに書き込むことができるスタイラスペンを使って考えなどをまとめる。端末にまとめた自分の考えを電子黒板に送ることは、1人ひとりの達成感を感じるのに有効であったと話す。端末が1人1台あることで、互いに問題を出し合う活動もスピード感を持って行える点もメリットだ。また、iPadに書き込みができるペンは絶対に必要なものであると感じているという。

  1人1台の学習用端末、それに向いた使い勝手の教材、電子黒板とのスムーズな連携を支える無線LAN環境が可能であれば、上質の学び合い活動を展開ができると報告した。

予習はオンラインで授業は対話型で成果

  富谷町立東向陽台小学校の佐藤靖泰教諭は、「自分で学ぶ力」「仲間とともに学べる力」双方を身につけることを目的に、自宅学習と協働学習に取り組んだ。

  それを支える環境は、電子黒板、タブレット端末(児童用34台、教師用1台)、ワイヤレス環境だ。アクセスポイントは1教室に2台設置し、動画もスムーズに再生できるようにし、キーボードの取り外しもできるハイスペック(メモリ4GB、CPU1・8GHz)なタブレット端末を活用。タブレット端末の持ち帰り用バッグや保管庫も2台用意した。協力企業は富士通、内田洋行、サンワサプライ。

  対話型の授業は定着を図りやすいが時間がかかりがちな面がある。そこで、教科書の大問題を解説したビデオを作成、オンライン教材化(写真左下)し、それを家庭でタブレット端末を使って再生、分かったこと、分からないことを明確にすることを宿題とした。授業では、従来は宿題であった応用課題を教室で対話的に学ぶ。佐藤教諭はこの授業方式を「反転授業」と呼んでおり、教師の役割を「壇上の人から学習者に寄り添う導き手」として位置付けている。

  家庭学習で児童が作ったノートからは、家庭での事前学習に真剣に取り組んでいる様子がわかる。「反転授業」の試みは1単元のみだが、予習を行う習慣については8割程度が継続しており、家庭での学習時間も伸びた。児童からは「みんなが予習してくるのでそのぶんレベルアップした授業ができた」「家で何度も見て理解できるので、話し合いについていくことができた」という感想がきかれた。佐藤教諭は本試みの成果として、児童の学習に対する自己肯定感が向上したこと、「知識・理解」「技能」の到達度が高くなったこと、ノート作成スキルやPCスキルの向上、言語活動的な算数的活動の充実などを上げた。

校外でも端末からクラウドに保存・確認

  石巻・河北タブレット端末活用研究協議会からは、研究実践校の石巻市立飯野川第二小学校の中村知佳教諭らが活動を報告した。6年生の教室と職員室にワイヤレス環境を構築し、3G回線を利用できるAndroid端末14台を活用した。協力企業はNTT東日本、NTTドコモなど。

  6年総合の時間に行った地域学習では、地域の職場見学やインタビュー、撮影などに、各グループ2台のAndroid端末を活用。アナログのメモとともにデジタルでも記録を残し、情報共有の際にはタブレット端末から3G回線でクラウドにアップ。教室に戻ってすぐに発表できるようにした。端末では、情報収集アプリやEvernoteなどを活用。多機能かつ素早い操作性のタブレット端末で校外活動においても随時クラウドに保存、互いに確認できる環境は、迅速な情報の収集と共有に寄与すると報告した。

タブレット端末は教室1台の整備から

  岩沼市内全小学校には、9月1日から5年リースで全教室にタブレット端末(Android端末)を導入した。岩沼小学校の加藤琢也教諭はその経緯と活用状況について報告した。

  タブレット端末を使えばHDMI接続でテレビに鮮明な画像が提示できること、端末にはカメラが搭載されていること、拡大縮小がスムーズにできることがメリットであり、これまでの授業スタイルを大きく変えることなく誰もが簡単にICTを活用できる。そこで校長会を通して検討委員会を設置、ICT機器リースの更新を機会に機器やソフトウェアを見直して不要なものを削減し、時代の変化に対応した機器としてタブレット端末を仕様書に盛り込んだ。岩沼市内4小学校において、各学級1台のタブレット端末導入を目標とし、最低でも2学級に1台を整備。2学期から使い始めているが、グラフの読み方の指導や体育の技能ポイントの指導、音楽では楽譜の読み方指導など、様々な教科で活用されているという。

  加藤教諭は「タブレット端末は、児童1人1台の前に、まず教室に1台整備することを提案したい。そうすることでこの環境の有用性を周知できる。実践例の蓄積や校内の既存環境の見直しなど見通しを持った下準備で、公費導入の可能性は高くなる。LAN環境のセキュリティや運用ルールの策定、研修など市町村教育委員会との連携は重要」と報告した。

【2013年1月1日】

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