デジタルTVとタブレット端末を全教室に整備―小野市立小野特別支援学校

次の目標は“協同学習”

 小野市立小野特別支援学校(前田明弘校長・兵庫県)が「児童生徒の主体的な活動を促す授業づくり」に取り組んで3年目。6月18日に公開された発表会で、同校の研究に初年度から関わる藤原義博教授(筑波大学大学院特別支援教育研究センター)は、「回を重ねるごとに子どもの表情や行動が大きく変わっている。次の目標は協同学習。本校なら絶対にできる」と評価した。

小野市立小野特別支援学校

児童生徒数33名(小18・中15)、教職員数37名の小野特別支援学校は、まもなく創立30周年。校舎は古いが、壁に木材パネルなどを使って温もりのある空間を演出している。

  児童生徒の主体的な活動を増やすことを目的に、「情熱と工夫をもち、社会的教育的ニーズを踏まえた授業改善」に取り組んでいる。研究を進めながら徐々に活用していたデジタルTVとタブレット端末は今年度から全教室に導入された。

【数学】 お金の計算 〜買い物活動の様子を書画カメラで共有〜

特別支援教育

自分の顔写真が提示されると前に
出て提示された問題に答える

特別支援教育

書画カメラで買い物のやり取りを共有

特別支援教育

友だちの写真を見て文章を作成する

特別支援教育

発話に困難がある場合は支援
ツールを使って発表する

  中学校1年生の数学の授業では、生徒の顔写真と100円玉が3個、10円玉が2個、教室前方のTV画面に表示されている。生徒が声をそろえて「○○さん、どうですか」と写真の生徒の名を呼ぶと、呼ばれた生徒は前に出て「320円です。いいですか?」と皆に確認。「マルです」と友だちに言われて満足げに自席に戻る。自分の写真が画面に映り、皆に名前を呼ばれる瞬間を全員が心待ちにしているようだ。

  続いて行った「買い物ゲーム」は、飲み物やお菓子などから2つ好きなものを選び、所持金額で間に合うように選べるか、正しい合計金額を渡せるかというものだ。商品には130円、100円、50円、20円などの値段が表示されている。

  レジ台は書画カメラで大きくTV画面に提示されており、生徒がレジに置いた商品の合計金額と硬貨の数が正解かどうか、クラス全員が見守っていた。

  授業の振り返りでは「買い物が楽しかった」「お金のマッチングがんばりました」と全員が感想を述べる。発話できない生徒はタブレット端末で発話支援ツールを使って発表した。

  授業者の石井教諭は「社会見学で買い物ができるよう、次回はおつりのある買い物ができるように練習しよう」と話した。


【国語】読み聞かせ 〜生徒が拡大して説明〜

  「今日は読み聞かせですよ」と告げると「やった!」と喜ぶ生徒たち。タブレット端末からデジタルTVに絵本画面を映すのも生徒の役割だ。無事映ったらみんなで拍手。

  「おつきさま こっち向いて」を教師が読み聞かせながら話の筋に沿って「雲に隠れている月」「昼間の月」がどこにあるのか、と質問を挟むたびに元気に生徒は挙手をする。タブレット端末を使って月のある場所を拡大し、「ここにあります」と皆に示した。

  授業の後半は、文章づくりに取り組んでいた。

  皆の写真をテレビ画面に拡大提示して「いつ」「だれが」「どこで」「何を」「している」のかを文章にまとめる。全員が役割を分担し、文章にまとめていった。

  授業者の大崎教諭は「タブレットなどの導入で拡大・共有がスムーズになり、生徒の集中力や意欲が増した。授業準備もスムーズになった」と語る。

  同校に中学校から入学した保護者は「特別支援学級設置校や特別支援学校を見学した。タブレットを使った授業に子どもが強く興味を持ったこともあり、こちらに決めた。学校が楽しい、と毎日の通学を楽しみにしている」と話す。

掃除・学活・検診もICTで「手順」示す

  このほか同校では、生活指導にもICTを活用している。不適応を起こしやすい歯科検診なども、検診中にプロジェクターで映像を流すことで改善されたという。

  「今何に取り組んでおり、これから何に取り組むか」の手順は、黒板や掲示物、デジタルTVなどを使って様々な形で常に提示。発表順も子どもの顔写真を使い「次は自分の番である」ことが分かるようになっていた。

振る舞いも印象も大きく変わった―藤原義博教授

  藤原義博教授は、「全校体制での継続的な取り組みにより、改善が早い。初めて来たときとは子どもの印象が全く異なる」と話す。「全クラスで様々な支援ツールが使われていた。児童生徒の技能を補う手段をたくさん提供することは重要。今は使ってみれば結果がわかる、というものが多い。逸脱は、わからない時間が長いほど起こる。わかるための道具を使って結果が出るのであれば、積極的に与えるべき。支援ツールは、それを使わなくてもできるようになることが目標ではない。持ち出して使えるものは常に携帯して使えるようにすることが望ましい」

  同校の次の目標を「協同学習の実現」とし、「ぜひ明日から取り組んで。そうすれば2学期から可能だ」と、アドバイスをした。「協同学習とは、1人ひとりが自分の力をめいっぱい使って自分の責任を果たすべく努力し、グループ全体の目標を達成すること。プレゼンテーションは、対人的・集団的技能を身につける最良の機会。伝えやすく伝わりやすい機器を使って行っていくこと。最も大切なことは、教師は児童生徒の活動量を増やし、スムーズに進めるためのサポートに徹すること。成功体験を持たせたいという理由で『できること』ばかり取り組ませたり、丁寧すぎる支援をしたりする学校も多い。しかし、できることばかりに取り組んでも、成功体験にはならず自主的な活動につながらない」と、「1人ひとりの能力を伸ばす」ために「やり遂げるにふさわしい役割や課題を与える」ことの重要性を強調した。

  同校の研究公開発表会は10月29日の予定だ。

【2013年7月1日】

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