30年ぶり放射線授業 学校では―5中学校が実践を報告

 新学習指導要領において、平成24年度から中学校の理科で「放射線」について扱うことになったが、30年ぶりの復活に戸惑う教員も多い。東日本大震災による原発事故を受けて、放射線に関する正しい知識が求められる中、(一社)日本原子力産業協会は、6月22日、東京・港区で「放射線授業・支援実施報告会」を開催。学校現場で行われている放射線教育の実践と課題が各校の教員により紹介された。それによると、地域の実態に合わせながら「実験・観察」活動を取り入れ、考えさせることで理解を深める流れが多い。

■八王子市立八王子中学校 井久保大介教諭

  同校では震災発生前の平成23年から放射線教育に取り組んでいる。

  生徒が主体的に放射線を学べるように実験・観察を取り入れた授業計画を立て、3年生では計3時間行う。1時間目は簡易放射線測定器「はかるくん」を使って学校周辺の放射線を測定。2時間目は霧箱による放射線の観察。放射線の飛跡を予想させてからユークセン石から出る放射線を観察した。3時間目に放射線の性質と利用についての学習だ。

  「生徒は放射線の安全性について高い関心を持っている。踏み込んで教えるには専門家から指導や助言を受けるなど、教師の知識を高める必要があり、その点が今後の課題」と報告した。

■横浜市立旭中学校 小川謙一教諭

  横浜市では文部科学省の「放射線に関する副読本」をもとに教材資料を作成し、横浜市教育情報ネットワーク「Y・YNET」からダウンロードする形で配布している。

  小川教諭は配布教材に必要と思われる内容を追加・補足して、1年生は学年集会、2・3年生は理科の授業で放射線教育を行った。補足内容は、ヨウ素やセシウムは大気中に放出されやすく半減期が長いことから問題となっていることなど。「授業を通して生徒に最も伝えたいのは、世の中に絶対に安全なものはなく、リスクを小さくするための管理が必要だということ」と述べた。

"測定器" "霧箱"で実験

■仙台市立愛宕中学校 八柳善隆校長

  仙台市の中学校では、平成21年度に文部科学省の「原子力・エネルギーに関する教育支援事業」の指定を受け、観察・実験を中心とした授業を実践。八柳校長はこれまで、3年選択理科で原子力・エネルギー教育に12時間を確保。しかし平成24年度から選択理科がなくなったため、理科の授業で2時間の放射線教育を行っている。

  1時間目は外部から講師を招き、霧箱を使ってアルファ線を観察。2時間目は校庭や校舎内で放射線を測定する。授業時数は少なくなったが、生徒へのアンケートを見る限り、放射線への理解が深まっているという。

  「未来に向けてエネルギー問題について生徒が考えるための下地を作る必要がある。その際に、放射線や原子力の問題は避けて通れない」と話す。

除染モデル実験も

■郡山市立郡山第六中学校 佐々木清教諭

  福島県では今でも原発事故による被害は深刻な問題だ。そうした状況下において佐々木教諭は、生徒に身に付けさせたい力として、(1)空間線量率を正確に測定する力、(2)放射線量の変化に気付く力、(3)科学的根拠に基づく情報を選択し、判断する力、(4)互いに放射線被ばく量を少なくする態度を挙げ、平成24年度は除染活動の効果と放射線による人体への影響について学習した。

  除染活動では、校庭に埋めてある土の安全を確かめるため除染モデル実験を実施。その結果、表土の上に線量の低い土壌が約50センチメートルかぶせてあれば、放射線量が下がることが分かった。

  「校庭の放射線量を測り、数値が高い場所があれば、どうしてそこが高いのか、まず生徒に考えさせ、次にグループで話し合って考えをまとめていった。これにより災害時に求められるコミュニケーション力も養われる」と述べた。

  人体への影響は養護教諭とのTTで授業を行い、放射線からの免疫力を高めるには、バランスの良い食事や十分な睡眠と休養が大切であることを生徒に認識させた。

■美浜町教育委員会 エネルギー環境教育支援員 福田洋一郎氏

  美浜町の小中学校では全校に「放射線見守り隊」という測定器が置かれている。放射線の値が高くなると「放射線見守り隊」のランプが緑から黄色に変わり、それを見た児童生徒は教員に伝え、教員は県に伝えている。

  美浜町の小学校7校・中学校3校の代表や教育委員会のメンバーからなる「美浜町エネルギー環境教育推進委員会」では、エネルギー環境教育の全体計画・年間計画、小学校における放射線に関する学習計画などを作成し、小学校から高校まで、エネルギー環境教育を実施してきたが、その内容に放射線教育が含まれていなかったため、一部内容を改め、中3の理科の授業で扱うこととした。

  「エネルギー環境教育を継続して取り組んできたことで、実践が広がっている。これまでエネルギー環境教育は総合的な学習の時間に行ってきたが授業時数が削減されたので、時間の確保が今後の課題」と報告した。

全国中学校理科教育研究会 高畠勇二会長

  中学校理科の教科書はこれまで3年間計574ページだったのが今年度から計903ページとなり、指導内容が増えている。授業時数も増えた。

  指導内容が変わったことで新しい実験器具が必要となり、平成24年度文科省教材整備指針に48品目が追加されたことで、予算の確保なども課題だ。

  放射線教育については理科が中心となるが、技術・家庭や総合的な学習でも行うなど、他教科との連携も必要とされている。明るい未来に向けた放射線教育が求められている。

 放射線教育の授業のポイントは以下の3つ。

  第1段階=「放射線の特性を理解することで不要な不安や風評被害を防ぐ」、第2段階=「日常生活での放射線利用のあり方を考え、うまく付き合っていく」、第3段階=「エネルギー・環境・食糧などの視点から、これからの未来を考える」。

【2013年8月5日】

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