教育長に聞く〜未来の学びを築く―佐賀県 池田英雄教育長

全国の先駆者として 佐賀モデルを確立する

佐賀県 池田英雄教育長 佐賀県教育委員会では、平成23年度から「先進的ICT利活用教育推進事業」をスタート。以来、教員研修や県立学校への電子黒板の整備、独自の教育情報システム「SEI‐Net」の開発と運用、校内LAN環境の再構築等と、段階的に推進し、平成26年度からは全国でも初となる県立高校での「学習者用パソコン」の導入に着手。「全国の自治体や教育関係者から注目されているのは承知している」と話す池田英雄教育長と福田孝義副教育長に、佐賀県のICT利活用教育の現状と今後の目標を聞いた。

今年度から県立高校の全ての新入学生は1人1台の学習者用パソコン(以下、学習者用PC)を活用する。

昨年度末の時点では、佐賀県が示す仕様や機能を満たす場合は、家庭が所有するPC等の持ち込みも可であると案内していたが、結果的に全ての新入学生が、佐賀県が推奨する機種(※1)を購入。全学校・生徒が同一機種でスタートを迎えた。

3月19日の合格者登校日に各学校で案内資料の配布と説明を行い、生徒は4月2〜4日に各学校で購入。4月9日の入学式では、担任が生徒の学習者用PCの画面に自己紹介資料や、学校の桜の画像を配信する等の工夫がみられ、生徒や保護者には、概ね好意的に受け入れられているようだ。

学習者用PC導入で 新たな使用許諾契約

学習者用PCの活用に向けて、課題が多いのが「著作権処理」だ。

著作権法では、学校での授業における著作物の複製に関して「一定の条件を満たせば許可なく複製できる」とする例外措置(※2)が設けられているが、教師が教科書を撮影またはスキャンしたデータファイルを学習者用PCに配信することは「公衆送信」にあたり、従来の授業における例外措置の範囲を超える。

そこで、使用する教科書の著作権に関して、各教科書発行会社との間で新たな使用許諾契約を締結。契約の中に、利用する生徒数分のライセンスも含めることで対応した。なお、デジタル教科書の契約形態によっては毎年契約更新が必要な場合もあり、この点について県では、法令上の取扱いも含めて対応を文部科学省等に相談しているという。

情報活用能力を育む

本事業は、生きる力を超えた「これからの社会を生き抜く力」の育成も目的としている。中でも「情報活用能力の育成」は重点事項だ。

そのための施策として、独自に「佐賀学(仮称)」という情報教育用教材の独自カリキュラムを作成し、段階的な情報活用能力の育成が図れるように編纂していきたいとする。内容が充実し書籍化できれば、高校の教科・情報の教科書として申請することも検討したいと話す。教材や授業法を含めた「佐賀モデル」の確立とそれに伴う生徒の情報活用能力の向上は、就職やその後の人生に良い影響を与えることが期待できる。特に実業系の高校で、就職活動において「佐賀県の高校卒」が強みとしてアピールできるように取り組みたいと話す。

情報モラル教育を強化

情報活用に伴う学習において、情報社会が及ぼす負の面へのケアも重要だ。

現在、授業進行や活用の慣れを考慮し、有害サイトフィルタリング等の制限は厳しく設定した。今の生徒はスマートフォン所持が増加し、常にインターネットに繋がるコンピュータ等を持っていることから、今後は県警やPTA等とも連携しながら情報モラル教育も充実させ、正しい活用、より良い活用を身につけさせることで、徐々に生徒中心の活用にシフトしたいと考えている。

良い取り組みは、 一日でも早く実行

佐賀県がICT利活用教育に力を注ぐ源は、「子供たちのために良い取り組みは、一日でも早く実行する」という想いだ。

力向上、不登校対策、いじめ対策、特別支援教育の充実、情報活用能力の向上などの様々な課題があるが、中でもICT利活用教育を推進することで、佐賀県の子供たちが未来社会を生き抜くために必要な力の育成に繋がることを期待している。

今後佐賀県では、成果発表会や公開授業の開催を計画している。各学校の授業参観も、一般の方への開放も検討していきたい考えだ。

(※1)ARROWS Tab Q584/H佐賀県学習用PC特別モデル(富士通)
(※2)著作権法 第35条「学校その他の教育機関における複製」

【2014年5月5日】

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