「ICT支援員なし」モデルを提案―淡路市教育委員会

淡路市教育委員会は、平成26年度より5か年計画で小4〜中3までの児童生徒を対象に、1人1台の学習者用端末(iPad)を整備する。平成30年度までに、全ての小中学校においてICT技術の利活用による授業変革を行い、21世紀を生き抜く力を育む教育を推進する体制を構築することが目的だ。淡路市の取り組みの特徴は、教員にタブレット端末を配備する「研修員制度」の導入と、ICT支援員を導入しないことの2点にある。

筑波大学附属小学校
動画を見ながらタテ笛を各自で練習(音楽)
筑波大学附属小学校
教員自作の解説動画で演習の答え合わせ
(国語)
筑波大学附属小学校
教員にlCT環境を配備する
筑波大学附属小学校
生徒は「iTunesU」を見て
次の学習を確認する(体育)

淡路市では2年前から「フロンティアプロジェクト」を実施している。意欲的な教員が手を挙げ任命する「研修員制度」が特徴で、各研修員に11台のiPadと、プロジェクター・保管庫・無線LANアクセスポイントを1セットずつ貸与。教員は班に1台を基本に実践・活用を進めてきた。今年度からはフロンティアプロジェクトを元に、「淡路市タブレット活用教育推進事業」を実施する。全教員の約2割にあたる約50〜60名を校長が研修員に推薦し、教育長が任命。全校に取り組みを拡大する。

「学校」ではなく「教員」に整備する

淡路市の取り組みの特徴は、教員にタブレット端末を配備すること、ICT支援員を導入しないことの2点だ。従来、整備は学校に対して行うものだが、本市では教員への配備としたため、異動の際には教員とともに端末等も移動。ノウハウの蓄積と拡張が狙いだ。

西岡正雄指導主事(教育委員会学校教育課)は「研修員制度は、自発性を重んじ、やりたいという気持ちを大切にするスタイル。年次計画で学校に研修員を置くことによって、スキルを持つ人材を育てながら教員の協力体制を構築するという発想に転換した」と語る。

普及段階において必須と言われているICT支援員については、財政的な課題や支援員のスキル確保の課題なども考慮して整備しないという判断に至った。小規模自治体ならではの機動力に加え、研修員制度の2年間の実績が、この判断を後押ししたようだ。

ICT支援員を配置しないかわりに、研修員の管理負担軽減として今年度からモバイル・デバイス・マネジメント(以下MDM)も導入。これはフロンティアプロジェクトの反省点から導入に至ったという。

MDMとは、情報端末のシステム設定などを統合的かつ効果的に管理するシステムだ。遠隔からソフトウェアのインストールやバージョンアップをしたり、データ消去や操作できないようにロックをかけたりすることができ、多くの企業で既に導入されている。

MDMには、iOSに特化しているシンプルなインターフェイスの「TARMAC」(マジックハット社)を採用。「TARMAC」は、iOSのアップデート時に最新版が同時リリースされる点が類似製品にはない特徴だ。個人端末を各自でアップデートするとMDM傘下から外れ、管理できなくなるという現象は企業でも発生している。「TARMAC」はiOSのアップデートに合わせて同時開発しており、OSの最新版リリースと同時にMDMもアップデートできる。既にiOS8にも対応済みだ。

MDMについて、淡路市は2通りの運用を計画している。

1つは市教委が全台数を一斉にコントロールする方法。

もう1つは、各学校の責任者がそれぞれの学校で必要な変更を作業するという方法だ。教員が個別に操作しなくてすむので、端末管理からの解放が期待できる。

無線LAN環境も強化。将来的に校舎内にタブレット端末の台数が増えることを想定して、無線LANアクセスポイントには「ACERA800ST」(フルノシステムズ)を採用した。

西岡指導主事は「このような制度が実現できたのは、現場と自治体の距離が近いという淡路市特有の事情がある。淡路市は教育・観光・企業誘致を3本柱として、人口増加を目指している。阪神間に隣接する本市にとっては、教育の充実が定住人口の増加につながると考えている」と語る。

いつでもどこでも学習できる環境に

フロンティアプロジェクトの研修員である谷健年教諭(淡路市立一宮中学校)の実践は、市内でも注目度が高い。

中2国語科では、教科書演習の答え合わせをグループで行っている。谷教諭は、演習解説のための動画を自作。ワークシートを撮影してそれに書き込み、指差しながら解説する様子をアプリ「Explain Everything」で録画。生徒は「解説動画」に各自アクセスして、答え合わせを行う。

これは、子供の考えを可視化するために米国でよく利用されているアプリで、当日朝の数十分程度で複数の解説動画を作成できたという。

谷教諭は「自作の解説動画で救うことができる生徒層が新たに生まれた。iPadとチームティーチングをしている感覚。その間、もっと支援の必要がある生徒に直接指導することもできる」と語る。今年度からは生徒1人1台体制での実践を行う計画だ。

淡路市は積極的にクラウドサービスを利用した授業や教材配信に取り組んでいる。その1つが、Apple社が無償で提供する「iTunesU」の活用だ。

小西祐紀教諭(淡路市立北淡中学校)は、生徒を主体とした問題解決型の授業展開に取り組んでおり、「iTunesU」は有効だと語る。「体育の授業は教室内での授業とは違い、体を動かすことが多く、集中力が散漫になりやすい。しかしiTunesUに複数種類の教材をまとめて一覧表示できるので、端末を見れば次に行うべき活動がすぐにわかる。これら教材によってフォローできる範囲が広がり、直接指導できる機会も増えた」

淡路市は、早期から積極的にiTunesUを活用している。小学校音楽のリコーダーの吹き方の解説動画、中学校の読書レポートの授業のための教材や、中学校理科の地球と宇宙の授業のコースなど、ラインナップも豊富だ。今後、研修制度に参加する新規教員に実践例を紹介、教材の共有もできる。無償だが、広告が表示されない点もメリットだ。既に9月末現在で12本のコースがアップロードされており、世界からのアクセスがある。

研修員は「iTunesU部会」を立ち上げており、新しい取り組みにチャレンジしている。海外では持ち帰り学習や反転学習にも「iTunesU」が利用されていることから、1人1台体制になった際の活用は一層進みそうだ。

生徒1人1台の 整備に向けて検証

淡路市の最終的なゴールは、児童生徒1人1台の学習者用端末活用を礎とした「世界に通用する人材」の育成だ。そのため、本年度からは、複数名の先進的な教員を対象に、担当クラス内において1人1台体制となるよう、iPad貸与数を増やし、新たな試行を開始する。

全国には淡路市と同規模の自治体は多い。先進的な実践例、そして無理のない整備例の創出が期待される。

【2014年10月6日】

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