グローバル教育は日本を救うーグローバル教育研究所 渥美育子理事長

グローバル時代にはグローバル人材が必要だ。ではグローバル人材を育む教育とは何か。(一社)グローバル教育研究所の渥美育子理事長は「グローバル教育は日本を浮上させる次世代モデルの教育。『世界のグローバル化』と連動する『個の能力のグローバル化』をめざす新しい教育だ」と話す。

■グローバル化につまずき大損失を引き起こしている日本企業

グローバル教育
生徒用「世界の文化地図」でグローバルな視点を養い、考え方を構築していく
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日本企業は80年代に「国際化」で成功し、21世紀になって「グローバル化」につまずいており、以下4つの分野で大損失を引き起こしている。

▼営業利益率が極度に低い、▼本物のグローバル“人財”を育てられない、▼市場原理に基づく世界市場のルールがはっきり理解できず、最大の制裁金支払い企業になっている、▼世界市場でのM&A(企業合併や買収)の9割で失敗。

 これらの失敗はグローバル化が適切な形で行われてこなかったのが原因。グローバル教育は日本企業にとって喫緊の課題だ。しかも、企業に入ってからでは遅い。グローバル社会で生きていくためにルールの軸が重要だということは、もっと低い年齢からしっかり教えるべきことだ。

■グローバル教育が目指す人間像とは

1991年12月の冷戦体制崩壊をきっかけに世界中の企業が市場原理というビジネスルールでフェアな競争を始め、世界市場が出現した。「グローバル時代」の到来だ。

 グローバル教育とは、冷戦体制が崩れた後の「グローバル時代」を生き抜く力を授けるもの。

 かつての後進国は21世紀に入り10数年の間に自身のモデルを造り、新興国として台頭、日本企業の地位を揺るがすようになった。尖閣諸島の国有化で半永久的に悪化した日中関係。1年たらずで「イスラム国」という前代未聞の危険な組織体が現れ、世界全体をテロ化しかねない状況‐‐こうした急速で予想がつきにくい世界の大変化に直面しても対応できるような「個の能力のグローバル化」を目指さなければならない。

 グローバル教育が目指す人間像は、民族固有の価値に根をおろし、そこから世界変革に役立つオリジナリテイを引き出すという「日本のDNAを強烈に持ち、世界規模で発想してイノベーションを起こせる」プロフェッショナル。本物のグローバル“人財”は相反する軸を見据えるマトリックス思考を持つため、危機に強く、かつ日本の良さを生かし社会に貢献しようとする。世界全体を見おろす視点と民族のアイデンティティのように正反対の価値が同時に働き、そのベストミックスを追求することが、グローバル時代の特徴だ。

■日本のDNAを持つグローバル人財を育てる3つの方法

そこで当研究所では、世界市場で25年間競争力を持とうと戦ってきた経験を生かし、3つの方法で学校と企業におけるグローバル人財の育成を実践している

(1)80年代までの「国際化モデル」をやめ、「グローバルモデル」に切り替える=“インターナショナルモデル”は国と国の関わりに焦点をあてる発想なので、以下3つの大きな欠陥がある。 ▽世界全体が見えず、戦略思考を持てない ▽日本のメガネをかけたまま外国を見るので、極端に美化するか自国優位に見える ▽そのため現地の人の本当の価値が理解できず、彼らをマネージできない。

それに対し“グローバルモデル”では、俯瞰する視点、多様性を理解し活用する能力、そしてマトリックス(相反する2つの軸を持ちベストミックスをめざす)思考という3つの新しい価値が必要とされる。この3つの新しい価値を身につけることでグローバル人財として一歩を踏み出すことができる。

(2)学習方法を真逆にする=自分、自社、自国から未知の世界へ泳ぎ出るのではなく、世界空間と5000年の時間軸からなる最大の枠から出発し、この枠を学び体験する知見で埋めていく。若い時からグローバルビジネスの土俵である時間軸、空間軸の中に知見を蓄えていくことができれば、世界競争に強く、世界の向上のために努力する人を評価できる人財に育つ。

(3)東洋思想(心眼、道など)を活用する。

■オリジナルツール「文化の世界地図」と「地球村」プログラム

地理で学んでいる世界地図では、70億の多様な人々のドラマがわからない。そこで「何に価値の中心をおくか」によって世界をリーガルコード(ルールとノウハウ)、モラルコード(人間関係)、レリジャスコード(神の教え)とそのミックスに分けて俯瞰し、30か国の現地の伝統と現地人の価値観をあらわにする「文化の世界地図」を6年かけて作成した。

日本は「よい人間関係を築けば仕事もうまくいく」という考え方が強い「モラルコード」に分類され、多くのアジアやロシア、南米などがここに属す。生徒版「文化の世界地図」では、モラルコードが強すぎるといじめが起こりやすく、リーガルコードが強すぎると裁判が多くなり、レリジャスコードが強すぎるとテロが多い社会になると説明している。

この地図を道案内に、10の宇宙駅を通って地球村に旅するというストーリーを持つ「地球村への10のステップ」というプログラムを提供しており、現在このプログラムは受験校を含め、いくつかの高等学校に導入されるところだ。

また、「地球村」や「文化の世界地図」を教材にして、本物のグローバル教育を教えられる認定講師養成講座も開講。オンラインと紙媒体の教材が出来上がれば、来夏には、「地球村」を体験できる合宿施設を作りたいと考えている。▼詳細=http://www.ikukoatsumi.com/

【2014年11月3日】

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