【特集】タブレット端末・PCの教育活用
教員1人1台端末で授業改善<学校ICT化推進事業 東京都墨田区>

モデル校5校で学校ICT化推進事業 自由度高い教育環境で授業づくりを支援する

平成26年度より、新しく「学校ICT化推進事業」をスタートした東京都墨田区。小学校3校、中学校2校の計5校のモデル校で、黒板上部の常設型プロジェクターや教員1人1台のタブレット端末等を整備し、教員主体のICT活用を中心とした「わかりやすい授業の創造」を目指している。1月に実施された墨田区立小梅小学校(五十嵐光春校長)、錦糸中学校(浦山裕志校長)での公開授業と報告会の様子を取材した。整備されて半年に満たないが、多くの授業でごく自然な形で活用されている。

スライド式短焦点プロジェクターを常備 教員1人1台配備で自由な活用を保証

渡辺賢司教諭
九九の決まりを見つける

墨田区が「学校ICT化推進事業」で整備したICT環境には、いくつかの特徴が見られる。一つは「教室の黒板上部にスライド式短焦点プロジェクターを常設」(※1)している点だ。教員は、自分が投影したい場所にプロジェクターを移動させることで、板書との併用に柔軟性を持たせている。例えば、国語科など黒板の右側からの縦書き、算数科など黒板の左側からの横書きなど、様々な教科に応じた板書に柔軟に対応できる。

プロジェクターの設置については安全面を配慮して(社)教育環境研究機構の「安全PJ取付保証」に基づく施工と検査を実施。取付金具の不具合や変形などの5年間の保証や毎年の定期検査など、安心して活用し続けられる環境に配慮した。

エナメル線の巻き方の実演
エナメル線の巻き方の実演・録画
・再生
辞書を拡大表示
辞書を拡大表示しながら説明

もう一つの特徴は「教員に1人1台のiPad」(※2)の整備だ。学習者用端末の整備事例に注目が集まっているが、活用や運用面の課題もある。そこで墨田区では、教員がタブレット端末の効果的な活用を身につけた後に、児童生徒の端末整備を検討する方針とし、直感的な操作性について評価が高いiPadを採用。教員の操作スキルに関する不安を和らげ、活用初期の抵抗感を軽減した。

さらに、今回整備されたiPadだけではなく、従来からあるWindowsノートPCの活用も継続している。端末を使わずに、実物投影機だけを活用する教員もおり、教員の考えに応じた活用の自由度を保証している

小梅小学校

墨田区立小梅小学校の2年2組算数科「九九のきまりをみつけよう」(渡辺賢司教諭)では、学級全体で九九を暗唱する際にPowerPointで自作した九九教材を、ノートPCを用いて常設プロジェクターで黒板に投影。併せてメトロノームを活用して、テンポ良く声を合わせて読み上げていた。九九を使った数の求め方を考える場面では、教員用のiPadを使ってアレイ図を黒板に投影し、考える方法を説明。授業スタイルは従来通りだが、目的に応じて機器を組み合わせ、児童に分かりやすく理解させる工夫を盛り込んでいる。

堀内友紀主任教諭
黒板に直接写してチョークで書き
込む
ipadを操作しながら画像を提示
iPadを操作しながら画像を提示

3年2組国語科「国語辞典の使い方を知ろう」(堀口友紀主任教諭)では、辞典の引き方を説明する際に、小型ホワイトボードに書いたキーワードを実物投影機で黒板に投影。そこにチョークで書き込みながら児童に問いかけていく。実際の辞典をiPadで撮影した画像を投影するなど、教員がアナログの良さとテジタルの手軽さを自然に取り入れている。

教員の作業を録画繰り返し再生する

5年1組理科「電流が生み出す力を調べよう」(浜宗伸教諭)では、児童が電磁石づくりに取り組む。エナメル線の巻き方や削り方といった実技指導では、教員が実際に作業している手元を実物投影機で大きく提示した。その様子は同時録画され、児童が作業する間は黒板上で再生。教員は机間巡回しながら丁寧に指導していた。

ICT稼働率はほぼ100%

報告会では、整備の内容や様々な活用方法が紹介された。

渡辺教諭は「社会科で地図アプリを活用したところ、児童は楽しんで取り組んだ。担当している音楽クラブでは、チューナーアプリを使って児童が自ら楽器の音合わせを行ったり、トランペットの運指アプリを活用したりなど主体的に取り組んでいる」と報告。

堀口教諭は「個人面談で、保護者の方に学級や子供の様子を見てもらう際に、iPadで撮影した写真や動画を活用した。生き生きとした日常の様子を知っていただくことができた」と話す。

小梅小学校の五十嵐光春校長は「プロジェクターや実物投影機の稼働率は100%に近い。だれもが手軽に大きく見せる場面が増え、これまで活用していた拡大印刷用の感熱紙の使用が減った。日々の実践が学力向上に貢献することを確信している」と述べた。

錦糸中学校

錦糸中学校の公開授業では、ほぼ全ての教室と教科で今回整備されたICT機器が活用された。

2年4組技術科「ラジオの作成」(近藤修教諭)では、ラジオの組み立て工程の説明にiPadを活用。教員が組み立てのポイントとなる場面を撮影した画像を大きく見せながら、留意点を説明していく。生徒は、黒板上の画像と手元の工作キットの部品を見比べながら確認。iPadの画像は無線接続でプロジェクターに送られている。時には黒板上を指しながら、時には机間指導を交え、教室内を自由に移動しながら個別指導も細やかに展開されていた。

使いやすさが活用を広げる

3年3組社会科「景気の変動(吉井智久主幹教諭)」では、過去の景気変動グラフをiPadで撮影し、黒板に貼られたマグネットスクリーンに投影。グラフの読み取りを促すために、ホワイトボードマーカーでスクリーンに直接書き込みながら説明していた。

2年2組国語科「文法『用言の活用』」(日笠主江主任教諭)では、iPadで撮影した教材の画像を黒板に直接投影し、ポイントをチョークで書き込みながら説明している。スライド式プロジェクターの位置を変えながら、次々と提示内容が変わり、その都度生徒は考え、発表していく。授業スタイルは変わらないが、板書に充てる時間が短縮され、学習時間が増えているようだ。

受験を控えた3年生の授業でも当たり前のように活用されていた。「便利で効果的」と感じるからこそ、積極的な活用が進む。教員に与えられた機器がシンプルで活用手法も教員に任せられているため、授業スタイルを変えずに授業づくりや教材準備に取り入れることができるようだ。

教員の主体性と遊び心で授業創り

錦糸中学校の浦山裕志校長は「iPadやノートPC、実物投影機など様々なものを活用しながら、よりわかりやすい授業につなげていくことが大切。活用法を限定せずに、教員の自主性や遊び心から花開いていくこともあるのではないかと感じている。従来の授業スタイルも大切にしながら、より良い授業創造に取り組んでほしい」と話す。

墨田区教育委員会庶務課・教育情報担当の渡部昭氏は「今回のICT環境は3年前から構想しており、今年度モデル校を指定して整備した。まず教員が活用でき、授業改善に効果的だと実感してもらうことが大切。そのためには教員が柔軟に活用できる環境を提供する必要があると考え『いつでも、誰でも、簡単に』をコンセプトに日常的な活用ができる常設環境を重視。その効果が予想以上に早く現れており、来年度以降の全校展開へ期待が高まっている」と話した。

※1 短焦点型プロジェクター(日立)と専用スライドレール(青井黒板製作所)。「安全PJ取付検査」は(社)教育環境研究機構(=RICE)が実施。
 ※2 iPad、AppleTV、
AirMac Expressを整備して無線でのプレゼンテーション環境を構築。

【2015年2月2日】

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