先生発!ハッカソン<ICT CONNECT21>

教員とIT技術者がコラボ

みらいのまなび共創会議「ICT CONNECT21」(赤堀侃司会長・東京工業大学名誉教授)は、教員とプログラマーが協力して教材・アプリのアイデアを提案する「先生発!ハッカソン」を開催し、10月17日、東京・お台場の日本科学未来館でその成果を発表するプレゼンテーションが行われた。赤堀会長は「CONECTとは結びつけること。今回は教員とプロの技術者を結び付けることで、教材を生み出すことを試みた」と語る。

教材を企画提案

丸つけ君
最優秀賞はスキャンするだけで採点できる「丸つけくん」

「ハッカソン(=Hackathon)」とは様々な立場の人が集まって数時間から数日間の与えられた時間を費やし、IT技術を活用したアイデアを出し合って新しいものを生み出すという手法。「こんな教材があれば」という教員の思いを具体化する過程を経験することが「先生発!ハッカソン」のねらいだ。今回のハッカソンには教員20名とエンジニアやプログラマー、デザイナー20名の総勢40名が参加。6チームに分かれ、10月10日・11日の2日間で、教材のアイデアを出し合った。

教員から次々と出される教材への要望に対して、エンジニアやデザイナーが実現可能か否かを判断、技術面でサポート。各チームが教材・ツールを考え、プレゼンテーションに臨んだ。 

ミスタート
"まちがえる楽しさ"を提案する「ミスタート」

審査基準は「新規性」「着眼性」「効果性」「革新性」「完成度」「実用性」、考え出したアイデアを実際に形にする継続的な仕組みの有無として「継続性」を加えた7点。ICT CONNECT21会長・赤堀侃司氏、デジタルハリウッド大学大学院教授・佐藤昌宏氏、倉敷市立豊洲小学校校長・尾島正敏氏、NPO法人CANVASプロデューサー・土橋遊氏、品川女子学院ICT教育推進委員長・酒井春名氏、朝日新聞ジャーナリスト学校シニア研究員・服部桂氏、料理研究家・行正り香氏の7名が審査。その結果、テストの丸つけや採点を自動的に行ってくれる「丸つけくん」を考案したチーム「採点分析アプリ」が最優秀賞に選ばれた。

4名の教員と印刷会社のエンジニアで考案したアプリ「丸つけくん」は、既存のプリンターでテストをスキャンするだけで自動的に採点が行えるというもの。メンバーの1人が、小学校から特別支援学校に異動した際、テストの採点に多くの時間が割かれていたことを実感した体験がアイデアの発端だ。「思わず使いたくなる教材」であること、その実用性の高さからの受賞となった。「すべての学校のテストが自動で採点できれば、そこから生まれる教員が児童と向き合う時間は膨大なものとなり、日本の教育は大きく前進する」という。

その他にもユニークな教材が提案された。チーム「First Penguin」が考案した授業改善アプリ「Miss+Start(ミスタート)」は、子供の間違いを「情報」としてサーバに蓄積し、間違いの原因を「見える化」するアプリだ。蓄積されたデータは病院のカルテのように、各児童の記録として残され、学年が代わっても次の担任へと引き継がれる。児童の間違いの収集・分析は紙ベースでも行われるが、ICTにより格段に便利になり、活用の幅が広がる。

先生発ハッカネン
教員20名、エンジニアなど20名がチームを組んで企画をまとめた

「Team Tanan」が考案した「Edu CONNECT〜コラボ授業を進める応援アプリ〜」は、他校との連携を容易に行うアプリ。

校種、学年、地域、要望などをサイトに登録しておけば、AIが自動的に判断して要望に合った学校をマッチング。例えば「雪国の暮らし」と登録しておけば、豪雪地帯の学校が検出され、サイトを通じて連絡を取ることができる。卒業生や地域住民との交流も視野に入れた。

 

 

 

U−18ぼくらの未来 伊藤穣一と中高生の白熱ライブ

"多様性"がチームを強くする

トークライブ
クリエイターや研究者が中高生と"未来"をテーマに語り合う

「先生発!ハッカソン」の併催イベントとして、NHK主催による「U18 ぼくらの未来〜伊藤穰一と中高生の白熱トークライブ〜」が行われた。MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏とメディアアーティストの真鍋大度氏が「未来」をテーマに最先端のICTを使いこなす中高生とトークを繰り広げた。

クリエイタ―がテクノロジーを理解
活用するとイノベーションが起こる

 MITメディアラボの伊藤氏は「プログラミングなど新しいイノベーションを発揮する力は、10代がピークではないかと感じている。日本では40代にならないと会社で新しいものを生み出す権限が与えられないという構造があるが、40代なりのイノベーションに留まってしまう。しかしGoogleやYahoo!、Facebookなど世界を変えるイノベーションは皆、学生が作った。若いほど可能性が期待できる」と語る。

 自身が所属するMITでは、高校卒業後に入学してくるメンバーも多く、現在は14歳が大人にプログラミングを教えているという。

中学生チームの演出
中高生チームがITを駆使して演出に挑戦

エンターテイメントとテクノロジーを融合させた独自のパフォーマンスでコンサートなどを盛り上げる真鍋氏は、自身が所属するクリエイティブ集団「ライゾマティクス」で中高生を対象にワークショップを実施。チームの一員として多様な役割でITを活用した舞台パフォーマンス作りに取り組んだ。この日、中高生らはダンサーの動きに合わせてロボットアームを動かし、ドローンを飛ばすなど、自分たちの手で作り上げたパフォーマンスを披露した。

 中高生のパフォーマンスを見た伊藤氏は「クリエイターがテクノロジーを理解して活用すると、進化する。真鍋さんのように両方できる人材や仕組みがこれからは重要で、文系と理系という考え方や分業が一般化した分野・企業は、進化しにくい。ゲーム業界の発展が著しいのは、様々な人たちがチームで取り組んでいるから。賢くて似たタイプのチームよりも多様なメンバー構成のチームのほうが、成果が上がるということは、学術的にも立証されている。10代のうちに最新のテクノロジーに触れることは人生を変えるきっかけになる」と述べた。

 明るい未来は僕たちで創る

 今夏開催された「INNOVATORS, SUMMER」は、中高生が身近な問題を解決するサービスを6週間かけて企画・開発するという長期型ハッカソンだ。

 ほぼ初対面同士がアイデアの近い人たちでチームを組み、実現したいモノを創り上げる。プログラミングは企業の協力を得て作りながら学び、様々なプロダクトを生んだ。

 本イベントを企画した山内さん(東京学芸大学附属国際中等教育学校2年)は、「21世紀型学力や課題解決能力などは義務教育に組み込まれるべきだが、今すぐには実現しにくい状況」と指摘。「僕らの未来は僕たちで明るくする」と考えて本イベントを企画した。今興味を持って取り組んでいるのは「株式型クラウドファウンディング」の仕組み作りだ。

 伊藤氏は「ある程度の人たちが動けば未来は十分に変わる。関わりたくないと考えている人たちの考えを変えるのは大変で、多くが徒労に終わる。同じ志を持つ人たちが集まること、考えの違う人たちを説得しようとするのではなく、実際に行動に移して具体的に見せること」とアドバイス。

 「今後は、自分の学び方を自分で獲得していくことが大事。僕が考えていたよりも日本の未来は明るいと感じた」と述べた。

 なお本イベントの様子は正月期間にEテレで放映予定。

 

【2015年11月2日】

 

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