教育家庭新聞・教育マルチメディア新聞
TOP教育マルチメディア>連載  

連載 フィンランドの教員養成に学ぶ

フィンランドの教員養成に学ぶ(1)

田中 博之教授 早稲田大学 教職大学院

田中博之教授
田中 博之教授

 今年の3月14日から1週間、フィンランドの教員養成のあり方を探るために、日本の教育関係者の方々とご一緒に、ヘルシンキとユヴァスキュラの大学や学校、そして教育省などを精力的に訪問することができた。このようなタイムリーで意義深い視察ツアーを実施してくださった教育家庭新聞社に心より感謝したい。また、視察ツアーの企画段階から多大なるご協力をいただいた、フィンランド・メソッドの第一人者であるメルヴィ・ヴァレ先生に深く御礼を申し上げる。今回から5回に分けて、この訪問調査の結果を紹介する。わが国の6年制養成システムの議論に一石を投じることができれば幸いである。初回は、実質5日間にわたるリサーチを通して明らかになったフィンランドの教員養成システムの概要を報告したい。

◇ ◇ ◇

これほど違う!教員養成システム
実践的な実習校のカリキュラム


 フィンランドの教員養成システムは、日本のそれと大きく違っている点と、共通する点、そして日本の大学も負けていないなと思える点など、多様な側面を見せていた。

  まず大きく驚かされたことは、フィンランドでは大学の授業料はすべて無料であることだ。教員養成の中核大学であるヘルシンキ大学でもユヴァスキュラ大学でも、学部(3年間)だけでなく大学院(2年間)までも、すべて授業料は無料である。フィンランドでは小学校の教員になるためにも、中学校や高等学校の教員になるためにも、大学の修士課程を修了して修士号を取得することが義務づけられているが、そのことが、学生にとって経済的な負担にならないようになっている。

  ただし、これが可能になっているのは、税金が平均50%という高課税率に秘密があるのであり、現在、それも負担が大きすぎるため、有料化へ向けての議論が政府内で始まっているという。
そのことが、次の実態を生み出していることが興味深い。大学院レベルでの教員養成コースには、30歳代や子育てを終えた40歳代の学生も多く、いつでも教師になるための「学び直し」の夢を実現できるようになっている。これは、教師という豊かな人間力が求められる職業において必要なことであると、フィンランドの教育実習関係者は異口同音に語っていたことが印象的であった。ただし、逆に学校での教育実習の期間は、日本の実質的な日数と比較して、やや多い程度であり、2倍も3倍もあるだろうという予想は裏切られることになった(ただし法令で義務化されている日数には大きな違いがある)。

  日本でも教職大学院では、2年間でストレートマスターに50日間以上の学校臨床実習を課しているところが多いし、現在では、学部1年生から観察実習を課している大学も増えている。ただし、ユヴァスキュラ大学では、すでに学部の1年生段階から教壇実習(実際に子どもに教える実習体験)を義務化していることが特徴になっている。
日本が学ぶべき点は、教育実習校のあり方に関することが多いように感じた。
大学での教員養成カリキュラムは日本のそれと大きく異なることはないが、実習校でのカリキュラムが非常に充実しているのである。例えば、教壇実習以外に、カリキュラム編成から、問題解決的な学習指導法、評価のあり方、生徒指導、特別支援教育などの実践的なテーマについて、実習校の教員が演習形式で教える時間がたっぷりと保障されている。これは、全く日本にはないシステムだ。そのために、教育実習担当教員は、連携大学や教育委員会が主催する2週間程度の研修を受けることが義務化されていて、日本でいえば、主幹や首席教諭クラスの配置が行われている。日本では、教育実習担当教員は、校長先生が頼みやすい人や学年ローテーションで決まるのとは大きく異なっている。次回は、訪問先での具体的な調査結果をレポートする。

(1) これほど違う!教員養成システム 実践的な実習校のカリキュラム
(2) 教科書が「指導技術」学ぶ 格好のテキストとして機能
(3) ティームで授業力を高める教育実習システム
(4) 自律的な"気づき"を促す メンタリング指導の充実
(5) 日本の教職大学院の優秀さと改善点



【2010年7月3日号】


新聞購読のご案内